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第5章 奴隷と死霊術師
第59話 餌付け
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「で、どうする?
ヴァルターの次は私が行ってみる?
ちょうど最近、改造ドラゴンゾンビモドキが完成したから、ちょっと試運転してみたいんだけど!」
「……っふん!
運がよかったな!今は邪獣化は神力が足りなくて使えないみたいだ!」
「……主人としての命令でも」
「いや、マジで無茶を言うな。
あんなもの、めったに使えないから奥の手なんだよ!
普通なら、新月か満月の夜にしか使えない!」
というわけであの模擬戦からしばらく後。
現在は、自宅の一室(急造したマート専用の部屋)で改めてマートと面談中だ。
そして、話を聞いていく中で分かったことは、どうやらあのすごいモフモフ形態は邪獣人《ランカスロープ》と言えども早々にできるものでは、奥義的な物らしい。
「あの時のだって、貴様が隷属の邪印でこちらをなんとかできただけだ。
この邪印の力と、さらに私が信仰する【情動神デヤン】様から授かった加護の力だな。
この加護の力さえ使えれば、ある程度好きな時に発動できるが、それでもせいぜい月に1回ぐらいだ」
「……そっかぁ」
「いや、なんでお前はそんなに残念そうなんだよ。
そこは喜ぶところだろ」
くっそ、個人的には診察と銘打ってあのモフモフを好きな時に堪能できると思ったのに!!
それが混乱邪神の力+回数制限付きだったとは!
これでは、おそらくモフりたいという名目だけで変身してもらうのはいろんな意味で困難だろう。
「それのお前、この様を見てなお、もう一回やれっていうのか?」
「あ~、それってやっぱりヴァルター君の攻撃が原因ではない感じ?」
「それだけではないな。
そもそも邪獣化はそれなりに体に負担がかかるからな。
あいつにぼこぼこにされたとはいえ、それだけなら獣人の回復力でなんとかなる。
が、邪獣化の反動はそれ以上に重いからな」
「ふ~~ん」
なお、現在マートはベットの上で横たわりながらこの面談を行っている。
彼女の病態としては、いくつかの模擬戦による打撲痕や擦り傷、魔力不足、さらには圧倒的な栄養不足に水分不足であった。
そして、こんな状態になりながら、彼女は邪神信仰をしている+邪獣人としての特性か、【奇跡】による回復魔術がびっくりするほど効果が薄いのだ。
「……どうだぁ?
この呪われた、恐ろしき邪獣人の血に恐れおののいたか?
くくくく、今から後悔してももう遅い!貴様はすでに我が呪縛に……んぎゅ!」
「はいはい、それほどしゃべる元気があるなら、問題なさそうではあるけどね。
味はどう?」
「……悔しいけどおいしい」
だからこそ今こうして、実際に飯を食わせて体力を戻させているわけだ。
地味に大食いであったベネちゃんの妹でもあるし、それなりの量を持ってきたが、どうやら正解であったようだ。
内容としては、一応は麦たっぷりのおかゆに肉と芋と野菜を加えたもの、それに塩とスパイス、さらに酒で味付けをしたものだ。
「……というか、こんなに塩や香辛料使ったら誰でもうまいもの作れるだろ。
なんだよ、流石に無駄遣いしすぎだ。
この飯だけで、私の値段超えてんじゃねぇの」
「まぁね。
というか、君はほぼ投げ売りみたいな値段だったし」
「ば~~か、金銭感覚ぶっ壊れてるんじゃねぇの?
それともなんだ?こんなうまい飯おごれば、私の怒りが収まるとでも……」
「いや?別に君に怒られても怖くいないし。
模擬戦、やる?」
「……治ったら憶えてろよ」
どうやら、ヴァルターによる躾も隷属の聖痕の効果もばっちり発動しているようだ。
暴れなくて何よりである。
「ほら、それじゃぁ食事の続きだから。
口を開けて、ほら、あ~ん」
「……」
「あ~~ん」
「……あ~ん」
匙に粥を乗っけて、彼女の口に運ぶとパクパクと食事を食べていく。
粥粥粥、時々肉とイモ。
表情こそぶっきらぼうであるが、肉の破片を運ぶごとに、頭部の耳がピコピコ動くき、鼻がピスピスとなっている。
こっちが、肉を取ろうかイモにするか迷うたびに、そわそわと尻尾が揺れ、肉をとると尻尾がピンと張り、芋を選ぶと尻尾がへにゃりとする。
なんだこいつ、存在が可愛いかよ。
「……」
「……おい、なにしてるんだ?」
「なにって、ただ撫でているだけだが?」
思わず、友人の妹と分かっているのに、自然と頭部にあるケモミミに向けて手が伸びてしまった。
が、まぁ私は彼女の主人であるし、ある意味では診察みたいなものなので、おそらくはセーフなのだろう。
……っく!まだ軽く体を水で拭いた程度なせいか、あんまり毛並みがふわふわしてない!!
これは後でお風呂送りですね、間違いない。
「……お前人間だろ、邪獣人《ランカスロープ》の呪いを知らないのか?」
「知ってるし、理解したうえでやってる」
「……もしや、邪獣人になりたいのか?」
「いや別に?
でも、絶対なりなくないほどでもない」
「……そうか」
もっとも、撫でられている側のマートは、その手を押しのけるでもなく、以外にも素直に撫でられを受け入れてくれた。
やっぱり、獣人故、やや毛深いのかな?
まぁ、それよりも全身のムダ毛処理をしてないからなのだろうが、それでも、毛というよりは毛皮みたいな部位もあるし、やっぱり、ある程度の肉体構造が違うのだろう。
そもそも変形できるから、そんなの些細な問題だろうが。
「……あっ」
「ん?どうした?」
「……なんでもない」
く!こいつ、視線こそこっちからそらしたくせに、撫でるのを止めた瞬間、しっぽと耳がへにゃっとなりやがったぞ!
なんだこいつ、性格がどぶの癖に、獣人ってアドバンテージだけで、こちらを的確に攻めてきやがって!
「ま、まぁ!ともかく、この様子だと数日もすれば体力は戻るはずだろ。
そしたら、きちんとこの家での家事仕事やらをやってもらうぞ」
「……それ、大丈夫か?
私、邪獣人だぞ?しかも、神の力により呪いの力は強化されている」
「あ~、そういえばそうだな。
……でもまぁ、大丈夫でしょ。
少なくともこの家に関しては、神聖術でも呪術でも強化しているし」
「それは本当に大丈夫なのか?」
「すくなくとも、日常的に一般人が触れれば即死するような死霊術の実験を行っているけど、この家の人にも、外部にも犠牲者は出てないし」
「それはそれで大丈夫なのか?別の意味で」
ややドン引きした顔でこちらを見るマート。
でもしょうがないだろ、バグケキオスの親子改造ゾンビなんてその位の術を使わないとうまく制御できないんだから。
え?なら、そんなもの作るなって?それはそう。
「と、いうわけで!
体が治り次第、色々お手伝いのほど頼むぞ!
ベネちゃんの妹さん!」
「……マートだ」
「ん?」
「だから、お姉ちゃんの妹でもなく、獣人とかあれとかそれでもない。
私の名はマートだと言ってるんだ」
「うん!それじゃぁよろしくねマートちゃん!」
かくして、この日からやや正式気味にではあるが、彼女がこの家で働くことが決まったのであった。
☆★☆★
なお、数日後。
「うえっ!?」
「うお!食器が砕けた!?」
「んぴゅ!?」
「え?床掃除したら、床に穴が開いた?」
「うわぁああ!!!」
「うおっ!水、水!
このままだと火事になるぞ!?」
どうやらマートちゃんは、別に家事とかそういうことはほとんどやったことがなく。
挑戦する家事のことごとくで失敗。
邪獣化以上の損害を効率的に与えてきたのでしたとさ。
「まさか、ドジっ子メイドだったとは」
「う、うちの妹がすいません……」
さもあらん。
ヴァルターの次は私が行ってみる?
ちょうど最近、改造ドラゴンゾンビモドキが完成したから、ちょっと試運転してみたいんだけど!」
「……っふん!
運がよかったな!今は邪獣化は神力が足りなくて使えないみたいだ!」
「……主人としての命令でも」
「いや、マジで無茶を言うな。
あんなもの、めったに使えないから奥の手なんだよ!
普通なら、新月か満月の夜にしか使えない!」
というわけであの模擬戦からしばらく後。
現在は、自宅の一室(急造したマート専用の部屋)で改めてマートと面談中だ。
そして、話を聞いていく中で分かったことは、どうやらあのすごいモフモフ形態は邪獣人《ランカスロープ》と言えども早々にできるものでは、奥義的な物らしい。
「あの時のだって、貴様が隷属の邪印でこちらをなんとかできただけだ。
この邪印の力と、さらに私が信仰する【情動神デヤン】様から授かった加護の力だな。
この加護の力さえ使えれば、ある程度好きな時に発動できるが、それでもせいぜい月に1回ぐらいだ」
「……そっかぁ」
「いや、なんでお前はそんなに残念そうなんだよ。
そこは喜ぶところだろ」
くっそ、個人的には診察と銘打ってあのモフモフを好きな時に堪能できると思ったのに!!
それが混乱邪神の力+回数制限付きだったとは!
これでは、おそらくモフりたいという名目だけで変身してもらうのはいろんな意味で困難だろう。
「それのお前、この様を見てなお、もう一回やれっていうのか?」
「あ~、それってやっぱりヴァルター君の攻撃が原因ではない感じ?」
「それだけではないな。
そもそも邪獣化はそれなりに体に負担がかかるからな。
あいつにぼこぼこにされたとはいえ、それだけなら獣人の回復力でなんとかなる。
が、邪獣化の反動はそれ以上に重いからな」
「ふ~~ん」
なお、現在マートはベットの上で横たわりながらこの面談を行っている。
彼女の病態としては、いくつかの模擬戦による打撲痕や擦り傷、魔力不足、さらには圧倒的な栄養不足に水分不足であった。
そして、こんな状態になりながら、彼女は邪神信仰をしている+邪獣人としての特性か、【奇跡】による回復魔術がびっくりするほど効果が薄いのだ。
「……どうだぁ?
この呪われた、恐ろしき邪獣人の血に恐れおののいたか?
くくくく、今から後悔してももう遅い!貴様はすでに我が呪縛に……んぎゅ!」
「はいはい、それほどしゃべる元気があるなら、問題なさそうではあるけどね。
味はどう?」
「……悔しいけどおいしい」
だからこそ今こうして、実際に飯を食わせて体力を戻させているわけだ。
地味に大食いであったベネちゃんの妹でもあるし、それなりの量を持ってきたが、どうやら正解であったようだ。
内容としては、一応は麦たっぷりのおかゆに肉と芋と野菜を加えたもの、それに塩とスパイス、さらに酒で味付けをしたものだ。
「……というか、こんなに塩や香辛料使ったら誰でもうまいもの作れるだろ。
なんだよ、流石に無駄遣いしすぎだ。
この飯だけで、私の値段超えてんじゃねぇの」
「まぁね。
というか、君はほぼ投げ売りみたいな値段だったし」
「ば~~か、金銭感覚ぶっ壊れてるんじゃねぇの?
それともなんだ?こんなうまい飯おごれば、私の怒りが収まるとでも……」
「いや?別に君に怒られても怖くいないし。
模擬戦、やる?」
「……治ったら憶えてろよ」
どうやら、ヴァルターによる躾も隷属の聖痕の効果もばっちり発動しているようだ。
暴れなくて何よりである。
「ほら、それじゃぁ食事の続きだから。
口を開けて、ほら、あ~ん」
「……」
「あ~~ん」
「……あ~ん」
匙に粥を乗っけて、彼女の口に運ぶとパクパクと食事を食べていく。
粥粥粥、時々肉とイモ。
表情こそぶっきらぼうであるが、肉の破片を運ぶごとに、頭部の耳がピコピコ動くき、鼻がピスピスとなっている。
こっちが、肉を取ろうかイモにするか迷うたびに、そわそわと尻尾が揺れ、肉をとると尻尾がピンと張り、芋を選ぶと尻尾がへにゃりとする。
なんだこいつ、存在が可愛いかよ。
「……」
「……おい、なにしてるんだ?」
「なにって、ただ撫でているだけだが?」
思わず、友人の妹と分かっているのに、自然と頭部にあるケモミミに向けて手が伸びてしまった。
が、まぁ私は彼女の主人であるし、ある意味では診察みたいなものなので、おそらくはセーフなのだろう。
……っく!まだ軽く体を水で拭いた程度なせいか、あんまり毛並みがふわふわしてない!!
これは後でお風呂送りですね、間違いない。
「……お前人間だろ、邪獣人《ランカスロープ》の呪いを知らないのか?」
「知ってるし、理解したうえでやってる」
「……もしや、邪獣人になりたいのか?」
「いや別に?
でも、絶対なりなくないほどでもない」
「……そうか」
もっとも、撫でられている側のマートは、その手を押しのけるでもなく、以外にも素直に撫でられを受け入れてくれた。
やっぱり、獣人故、やや毛深いのかな?
まぁ、それよりも全身のムダ毛処理をしてないからなのだろうが、それでも、毛というよりは毛皮みたいな部位もあるし、やっぱり、ある程度の肉体構造が違うのだろう。
そもそも変形できるから、そんなの些細な問題だろうが。
「……あっ」
「ん?どうした?」
「……なんでもない」
く!こいつ、視線こそこっちからそらしたくせに、撫でるのを止めた瞬間、しっぽと耳がへにゃっとなりやがったぞ!
なんだこいつ、性格がどぶの癖に、獣人ってアドバンテージだけで、こちらを的確に攻めてきやがって!
「ま、まぁ!ともかく、この様子だと数日もすれば体力は戻るはずだろ。
そしたら、きちんとこの家での家事仕事やらをやってもらうぞ」
「……それ、大丈夫か?
私、邪獣人だぞ?しかも、神の力により呪いの力は強化されている」
「あ~、そういえばそうだな。
……でもまぁ、大丈夫でしょ。
少なくともこの家に関しては、神聖術でも呪術でも強化しているし」
「それは本当に大丈夫なのか?」
「すくなくとも、日常的に一般人が触れれば即死するような死霊術の実験を行っているけど、この家の人にも、外部にも犠牲者は出てないし」
「それはそれで大丈夫なのか?別の意味で」
ややドン引きした顔でこちらを見るマート。
でもしょうがないだろ、バグケキオスの親子改造ゾンビなんてその位の術を使わないとうまく制御できないんだから。
え?なら、そんなもの作るなって?それはそう。
「と、いうわけで!
体が治り次第、色々お手伝いのほど頼むぞ!
ベネちゃんの妹さん!」
「……マートだ」
「ん?」
「だから、お姉ちゃんの妹でもなく、獣人とかあれとかそれでもない。
私の名はマートだと言ってるんだ」
「うん!それじゃぁよろしくねマートちゃん!」
かくして、この日からやや正式気味にではあるが、彼女がこの家で働くことが決まったのであった。
☆★☆★
なお、数日後。
「うえっ!?」
「うお!食器が砕けた!?」
「んぴゅ!?」
「え?床掃除したら、床に穴が開いた?」
「うわぁああ!!!」
「うおっ!水、水!
このままだと火事になるぞ!?」
どうやらマートちゃんは、別に家事とかそういうことはほとんどやったことがなく。
挑戦する家事のことごとくで失敗。
邪獣化以上の損害を効率的に与えてきたのでしたとさ。
「まさか、ドジっ子メイドだったとは」
「う、うちの妹がすいません……」
さもあらん。
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