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第二章 未知なる大地
出会い 2
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──明るい。
おぼろげに、白い何かが見える。何度か瞬きをすると、どうやら部屋にいるらしいことに気づいた。見えているのは天井だ。
<……なんだ?>
啼義はしばらく、天井を見つめて考えた。状況が把握できない。ただ、ここが自分の住み慣れた部屋でないことだけは分かった。空気も、なんだか暖かいような……
<どうなってるんだ?>
起き上がろうとして全身が硬く軋み、啼義は思わず顔をしかめた。その瞬間、思い出す。
「そうだ……ダリュスカイン!」
しかし、辺りにそんな気配は全くないどころか、窓の外からは、穏やかな鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだ。自分は一体、どうしてしまったのだろう。戦っていたはずだ。地面に滴った自分の血──そして、目が眩むほどの光。
「……──靂」
その名が口をついて出た途端、胸の奥が震えた。いない。ここに、いるはずもない。
「どこだよ……ここ……」
呟いた時、扉の向こうで音がした気がした。誰かが来る気配──思わず、全身に緊張が走る。
<何か、武器を>
気力を振り絞って上体を起こした啼義は、すぐ横の小さなテーブルに果物ナイフを見つけ、慎重に構えた。
イルギネスは買い出しを済ませ、宿屋に戻ってきていた。出掛ける前、青年はまだ眠っていたが、顔色もだいぶ良かったし、そろそろ目を覚ましそうな気もする。どういう事情か全く分からないが、とにかく元気になってもらわなければ。置いて立ち去るわけにもいかない。
「お帰りなさいませ」
受付の少女が、読んでいた本から顔を上げる。入ってきたのがイルギネスと分かって、自然とその顔がほころんだ。彼の端正な顔立ちは、大体において──特に異性には好感度が高い。
「ああ。まだ、変化はなさそうか?」
「今のところは……」
「そうか」
奥の部屋に着いて荷物を抱え直し、扉を開けたその瞬間だった。
「動くな!」
ドシッ!──と。
ナイフが飛んできて、顔すれすれの壁に突き立った。イルギネスは驚いて声の主を見る。
ベッドの上で、ナイフを投げた姿勢のまま鋭い眼差しを自分に向けているのは、瀕死で拾ったはずの青年だった。
「あんた、何者だ?」
抑えた声で、彼はイルギネスに尋ねる。あどけない寝顔からは想像もできない凄味に感心しつつ、イルギネスは不思議な既視感に囚われていた。
<この眼差し……どこかで──>
記憶を探っていると、
「誰だって聞いてるんだ!」
今度は、先ほどまで眠っていたとは思えない、張りのある声が響いた。
「俺はイルギネス。お前の命の恩人さ」
「は?」
あっさり答えすぎたのか、今度は青年の方が狼狽えた。
「お前こそ、名前は?」
だが、彼は答えない。射るような目でイルギネスを見つめ、口を固く閉じている。
「どうでもいいが、いきなりこんな物投げるなよな。危ないだろ」
しょうがねえな、という顔でナイフを引き抜くと、攻撃されると思ったのか、青年が起き上がろうとしたので、イルギネスは慌てて止めた。
「待て待て。そこから出るんじゃない。自分の格好をよく見てみろ」
「──え?」
そこで初めて、彼は自分が、包帯以外ほとんど何も身に纏っていないことに気づいたようだった。
「着ていた服が、あまりにひどい状態だったんでな。適当に買ってきた。ほら」
袋ごと軽く放り投げると、青年はベッドの上でそれを上手く受け取った。少し赤面している様子には、やはりまだ、わずかに少年のような雰囲気もある。
「名前くらい、教えてくれないか?」
彼は少しの間、探るように袋とイルギネスを見比べていたが、やがて答えた。
「……啼義」
「啼義か。ふむ。年は?」
「……十七」
素直に答えてしまうこの雰囲気は、なんなのか。
「そうか、十七か。若いな。俺より九つも下か」
イルギネスはそう言うと、啼義の戸惑いなど全く気にしていない様子で、「よし。とりあえず、目が覚めて良かったよ」と大らかに笑った。
おぼろげに、白い何かが見える。何度か瞬きをすると、どうやら部屋にいるらしいことに気づいた。見えているのは天井だ。
<……なんだ?>
啼義はしばらく、天井を見つめて考えた。状況が把握できない。ただ、ここが自分の住み慣れた部屋でないことだけは分かった。空気も、なんだか暖かいような……
<どうなってるんだ?>
起き上がろうとして全身が硬く軋み、啼義は思わず顔をしかめた。その瞬間、思い出す。
「そうだ……ダリュスカイン!」
しかし、辺りにそんな気配は全くないどころか、窓の外からは、穏やかな鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだ。自分は一体、どうしてしまったのだろう。戦っていたはずだ。地面に滴った自分の血──そして、目が眩むほどの光。
「……──靂」
その名が口をついて出た途端、胸の奥が震えた。いない。ここに、いるはずもない。
「どこだよ……ここ……」
呟いた時、扉の向こうで音がした気がした。誰かが来る気配──思わず、全身に緊張が走る。
<何か、武器を>
気力を振り絞って上体を起こした啼義は、すぐ横の小さなテーブルに果物ナイフを見つけ、慎重に構えた。
イルギネスは買い出しを済ませ、宿屋に戻ってきていた。出掛ける前、青年はまだ眠っていたが、顔色もだいぶ良かったし、そろそろ目を覚ましそうな気もする。どういう事情か全く分からないが、とにかく元気になってもらわなければ。置いて立ち去るわけにもいかない。
「お帰りなさいませ」
受付の少女が、読んでいた本から顔を上げる。入ってきたのがイルギネスと分かって、自然とその顔がほころんだ。彼の端正な顔立ちは、大体において──特に異性には好感度が高い。
「ああ。まだ、変化はなさそうか?」
「今のところは……」
「そうか」
奥の部屋に着いて荷物を抱え直し、扉を開けたその瞬間だった。
「動くな!」
ドシッ!──と。
ナイフが飛んできて、顔すれすれの壁に突き立った。イルギネスは驚いて声の主を見る。
ベッドの上で、ナイフを投げた姿勢のまま鋭い眼差しを自分に向けているのは、瀕死で拾ったはずの青年だった。
「あんた、何者だ?」
抑えた声で、彼はイルギネスに尋ねる。あどけない寝顔からは想像もできない凄味に感心しつつ、イルギネスは不思議な既視感に囚われていた。
<この眼差し……どこかで──>
記憶を探っていると、
「誰だって聞いてるんだ!」
今度は、先ほどまで眠っていたとは思えない、張りのある声が響いた。
「俺はイルギネス。お前の命の恩人さ」
「は?」
あっさり答えすぎたのか、今度は青年の方が狼狽えた。
「お前こそ、名前は?」
だが、彼は答えない。射るような目でイルギネスを見つめ、口を固く閉じている。
「どうでもいいが、いきなりこんな物投げるなよな。危ないだろ」
しょうがねえな、という顔でナイフを引き抜くと、攻撃されると思ったのか、青年が起き上がろうとしたので、イルギネスは慌てて止めた。
「待て待て。そこから出るんじゃない。自分の格好をよく見てみろ」
「──え?」
そこで初めて、彼は自分が、包帯以外ほとんど何も身に纏っていないことに気づいたようだった。
「着ていた服が、あまりにひどい状態だったんでな。適当に買ってきた。ほら」
袋ごと軽く放り投げると、青年はベッドの上でそれを上手く受け取った。少し赤面している様子には、やはりまだ、わずかに少年のような雰囲気もある。
「名前くらい、教えてくれないか?」
彼は少しの間、探るように袋とイルギネスを見比べていたが、やがて答えた。
「……啼義」
「啼義か。ふむ。年は?」
「……十七」
素直に答えてしまうこの雰囲気は、なんなのか。
「そうか、十七か。若いな。俺より九つも下か」
イルギネスはそう言うと、啼義の戸惑いなど全く気にしていない様子で、「よし。とりあえず、目が覚めて良かったよ」と大らかに笑った。
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