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深淵 - 何もない!
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”お金がない!”は、1994年にフジテレビで放送されていた織田裕主演のテレビドラマ。学もなく貧困を極めた織田裕二演じる萩原健太郎が一流企業で活躍して仕事を成功させていくサクセスストーリー。
僕は、このドラマ”お金がない!”が大好きだった。
僕は主人公の萩原健太郎に自分を重ねていた。今は苦労していてもいつかは誰かの助けを得て成功する。と根拠の無い夢物語にすがっていたといってもいい。そんな夢さえもなければ、本当に崩れてしまいそうな毎日だったから。
しかし、現実はドラマのようにドラマティックな演出はない。
こんな話があった。父が名古屋に来て最初に勤めた上地木材で可愛がっていた後輩の杉下が、その後独立して”杉下サッシ”を立ち上げていた。
杉下は、背が高く、サッシという重量物を扱う肉体労働なので体躯もガッチリしている。それでいて爽やかで人当たりもいい。そんな杉下なら上手に商売できるだろうと思えた。実際、業績は悪くなさそうだった。
「オセロくん。僕は新人のころ先輩にお世話になったんだ。だから僕は先輩のこの苦境を助けたいと思ってるんだよ。だから、オセロくんがマルトクの社長になって再起を図ってはどうかと思うんだが?」
僕は、マルトクの社長にと推され、少し舞い上がった。会社のトップである社長という肩書は誰もが一度は憧れる存在であるし、その社長になってマルトクを立て直す。それを僕はできるかもしれない。そんな未来を想像した。
馬鹿だ。とんでもないお人好しの大馬鹿野郎だ。
今なら冷静に判断できる。あの時のマルトクは、もうどうしようもない死に体だった。例えるならば、病院のベッドに横になり生命維持装置を付けられて無理やり生かされているだけ。そんな状態の会社を、建築の経験も知識もない僕に何ができるだろうか?ましてや、社長にと言われて舞い上がるような小僧には100%不可能だ。
しかし僕は社長を断った。その理由は今でも分からない。冷静な判断をした訳でもない。単純に今入ってくる僕の給料が無くなってしまうことを恐れたのかもしれない。でも、最悪の決断は免れた。
杉下の狙いはこうだった。杉下はマルトクと取引をしていたが、父が社長では売掛金の回収は難しくなっていた。銀行も融資枠が一杯で追加融資は望めない。なら上場企業の東京エンジニアリングの社員である息子を社長にして銀行から融資を引っ張り、その資金で自分の売掛を回収しよう。と画策したのだ。
しかし、僕が断ったことで目論見が崩れた瞬間に杉下は本性を露わにした。既に完成している住宅からサッシを外して回収すると言い出したのだ。そんな事をされたらお客さんから苦情殺到だ。
「杉下さんは、父に世話になったと言ってましたよね?父を手助けしたいと言ってくれたじゃないですか?」
「あー、確かに世話になったよ。だけどその可愛がった後輩に対して、この仕打ちはなんだい?ウチの会社まで潰す気かい?俺を巻きこまないでくれよ!」
僕は答えに窮した。確かにそうだ。僕らは自分達のことに精一杯で、杉下のことなど考えに及ばないでいた。僕らが杉下に文句を言える立場ではないのだ。しかし、杉下が実際にサッシを回収することは無かった。杉下なりの最後の良心があったのか、それは今も分からない。
事実は小説より奇なりと言われるが、現実は現実でしかない。
物語であれば、どんなに主人公が苦しんでいようと、かならず助けてくれる存在がいる。しかし、物語は物語であって現実にはありえない。物語のように、都合よく助けてくれる存在など現れたりはしないのだ。
僕は、このドラマ”お金がない!”が大好きだった。
僕は主人公の萩原健太郎に自分を重ねていた。今は苦労していてもいつかは誰かの助けを得て成功する。と根拠の無い夢物語にすがっていたといってもいい。そんな夢さえもなければ、本当に崩れてしまいそうな毎日だったから。
しかし、現実はドラマのようにドラマティックな演出はない。
こんな話があった。父が名古屋に来て最初に勤めた上地木材で可愛がっていた後輩の杉下が、その後独立して”杉下サッシ”を立ち上げていた。
杉下は、背が高く、サッシという重量物を扱う肉体労働なので体躯もガッチリしている。それでいて爽やかで人当たりもいい。そんな杉下なら上手に商売できるだろうと思えた。実際、業績は悪くなさそうだった。
「オセロくん。僕は新人のころ先輩にお世話になったんだ。だから僕は先輩のこの苦境を助けたいと思ってるんだよ。だから、オセロくんがマルトクの社長になって再起を図ってはどうかと思うんだが?」
僕は、マルトクの社長にと推され、少し舞い上がった。会社のトップである社長という肩書は誰もが一度は憧れる存在であるし、その社長になってマルトクを立て直す。それを僕はできるかもしれない。そんな未来を想像した。
馬鹿だ。とんでもないお人好しの大馬鹿野郎だ。
今なら冷静に判断できる。あの時のマルトクは、もうどうしようもない死に体だった。例えるならば、病院のベッドに横になり生命維持装置を付けられて無理やり生かされているだけ。そんな状態の会社を、建築の経験も知識もない僕に何ができるだろうか?ましてや、社長にと言われて舞い上がるような小僧には100%不可能だ。
しかし僕は社長を断った。その理由は今でも分からない。冷静な判断をした訳でもない。単純に今入ってくる僕の給料が無くなってしまうことを恐れたのかもしれない。でも、最悪の決断は免れた。
杉下の狙いはこうだった。杉下はマルトクと取引をしていたが、父が社長では売掛金の回収は難しくなっていた。銀行も融資枠が一杯で追加融資は望めない。なら上場企業の東京エンジニアリングの社員である息子を社長にして銀行から融資を引っ張り、その資金で自分の売掛を回収しよう。と画策したのだ。
しかし、僕が断ったことで目論見が崩れた瞬間に杉下は本性を露わにした。既に完成している住宅からサッシを外して回収すると言い出したのだ。そんな事をされたらお客さんから苦情殺到だ。
「杉下さんは、父に世話になったと言ってましたよね?父を手助けしたいと言ってくれたじゃないですか?」
「あー、確かに世話になったよ。だけどその可愛がった後輩に対して、この仕打ちはなんだい?ウチの会社まで潰す気かい?俺を巻きこまないでくれよ!」
僕は答えに窮した。確かにそうだ。僕らは自分達のことに精一杯で、杉下のことなど考えに及ばないでいた。僕らが杉下に文句を言える立場ではないのだ。しかし、杉下が実際にサッシを回収することは無かった。杉下なりの最後の良心があったのか、それは今も分からない。
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