竜の騎士と水のルゼリア

月城

文字の大きさ
10 / 26
アクアマリンの章

1. Ep-9.崩落事故

しおりを挟む
 癒しの大樹の中は多くの怪我人で溢れていた、外にいた時も多いとは思えたが中に入るとより一層怪我人が多い事が伺えた。
重傷者の治療は終わっているらしいが怪我人に比べて医者の数が圧倒的に足りない状況のようだ。
ルゼリア達は慌しく駆け回っている医者の一人に医長の場所を聞いた。
診察室の一つにいる事を聞いてそこに足を向ける、診察室には怪我人が列をなしていて順番が来る事を待っているようだった。
痛みで顔を引きつらせた労働者達の合間を抜ける間ルゼリアは悲しそうな表情を浮かべ続けている。
混雑した室内で小さなルゼリアの体はあっという間に流されてしまう為トリノに手を引かれている。

「姫君、もうしばらくご辛抱ください」

『構いません』

 そのまま診察室に到着すれば丁度治療を終えた労働者が出てくるのが見えた。
騎士達に驚いているようだったが騎士達に守られているルゼリアを見て道を譲る、
ルゼリアは次に治療を行う予定の患者に先に話をさせてくださいねっと断りをいれ中に入っていく。
中では医長が机に座りながら患者の症状を書き記したカルテを見つめていてすぐにルゼリアに視線を向けて医長は立ち上がり深々とルゼリアに頭を下げた。

「ルゼリア様、シュネ殿、ようこそいらっしゃいました……慌しくて申し訳ありません」

 謝罪する医長にルゼリアは首を横に振った。

『こちらこそ手を止めさせてすみません、状況を詳しく教えていただけますか………………』

 頷いた医者は今朝あった出来事をルゼリアに伝えていく。

「元老院がビオラシーマ山脈に新たに採掘場を設けたのですがそこで崩落事故があったのです。幸い死者は出ませんでしたがこの有様です」

 医療以外の事には関わらなかったルゼリアは悲しそうに表情を歪めた。
 ビオラシーマ山脈はクリスタルの採掘で盛んな場所だ、近くには小さな村はあるものの診療所を有していない。
おまけに厄介な事に採掘されるクリスタルには強大な魔力が篭っていてビオラシーマ山脈では竜体になる事が出来ない場所なのだ。
もしも竜体になる事が出来たなら、労働者達はこれ程の怪我を負う事はなかっただろう。
それでも上質の魔力が篭ったクリスタルを掘り起こせばお金になる、危険と分かっていても労働者達は採掘場に集まるのだ
もう一つ厄介な事は採掘を管理しているのが元老院であると言う事だった。私利私欲に走る貴族が後を絶たないのだ。

「貴族共ときたら自分達の利益ばかりを追い求めて新たな採掘場を調べもしなかったようです。早くクリスタルを掘り出せと言う事で貧困層の者達が借り出され巻き込まれてしまったのです」

『貴族達は一人も怪我人は出ていないのですか?』

「ええ、あいつらは自分達が動くのを極端に嫌がりますからね、貧困層を奴隷扱いですよ、まったく…………
おまけに富裕層区の医療施設は富裕層しか見ないと貧困層の労働者達の怪我を見ないので怪我人が全てこちらに回ってきてるんです」

 癒しの大樹がある場所はビオラシーマ山脈からかなり離れている。
王宮の北東に位置するビオラシーマ山脈に対し癒しの大樹がある場所は王宮の南西側に位置している。
本来であれば王宮が自体の収拾に乗り出しているはずだが王宮からは人は来ていないようだった。
トリノの話しで事故の報告は王宮には伏せられている事が分かる。

『城に事故の報告が来てないのは…………』

「貴族連中は自分達のしでかした事をばれないように報告書は出していないんでしょうな…………王は知っているのかは存じませんが手を貸しては下さらない……我々にとっては迷惑な話ですよ」

 医長の言葉にルゼリアはごめんなさいと謝った。

「なっ、姫が謝る必要はないでしょう…………っ!?」

 医長は自分が言った王家に対する不満を、王家の娘であるルゼリアに言ってしまったのだ。漸く気付いた医長にルゼリアはもう一度謝った。

『…………これも父様の力が落ちてしまった事が原因だと思います…………強く言えない原因は僕にあるから…………ごめんなさい』

 絶対の権力を持っているアルヴァーニ王だが今は元老院と権力が同じ程に落ちている。
その原因の一つを作ったのはルゼリアだった、それをルゼリアは知っている為に自分を責めるのだ。

「…………我々は王にも姫にも感謝しております。王は国の治安を守り、貴方はこの場所にこの施設を作ってくれた。それだけで多くの患者が助かっているのですから……顔を上げてください」

 取り繕うにして言われた医長の言葉にルゼリアは頭を上げる。

「本来は色々ご案内したいのですがそうも言っていられずに……」

『はい、分かっています、持って来た物資を使ってください…………後何かお手伝い出来る事はありませんか』

「おお、それは助かります、って姫様が手伝いなど滅相もない」

 これ以上はと慌てる医長にルゼリアはでもっと呟いた、
何か出来る事があればしたいと願い出るルゼリアに医長は強く言えず黙ってしまう。
それを聞いてシュネがルゼリアを諫める。

「姫様、私と騎士達とで患者の傷の手当をする手伝いをしましょう、姫様は何もしなくても大丈夫です」

『シュネ……僕は……』

 何も出来ない自分が嫌だというルゼリアにシュネは仕方ありませんねっと言うとではっと続けた。

「本来であれば孤児院で炊き出しをする予定でしたが、この有様を見れば労働者の方々もお腹をすかせている事でしょう。孤児院に騎士を送り炊き出しをこの癒しの大樹ですると言うのはどうですか、姫様が料理をしてくださるのであれば皆喜びますよ」

『良いのですか?』

 先程のシュネはルゼリアを一刻も早く城に戻そうとしていた、それが今はこの地に留まって炊き出しをして良いと言うのだ。

「…………今無理にお帰りになっても気になってしまうのでしょう?では姫様が満足する事をする事にいたしましょう、ただし安全第一は変わりませんよ」

 優しく言うシュネにルゼリアははいっと大きく頷いた、それを聞いた医長は良いんですかっと困惑気味だ。

『民の為に出来る事はやりたいです、…………余り力にはなれませんから…………』

 王家の権力をルゼリアは使えない、今出来る事と言えばこの程度の事だ。
ルゼリアの言葉に十分です、そう言いながら医長はお願いしますと頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

処理中です...