出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第二章 地下探索喧騒編

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 騒動が落ち着いて、一週間が過ぎた。
 シリュウは今まで通り、基礎運動を毎日行い、剣術の稽古も怠らない。
 一方の僕はシリュウの所有物の魔剣、毀れの剣に関する情報をあさっていた。
 ふとした時に、誰かに監視されている気がしたけど、それとなく確認してもわからなかった。今回の件で、だいぶ敵を作ったようだ。
 その日、僕とシリュウは武器屋へ向かった。
 今、シリュウが使っている剣は借り物だった。例の石の巨人を叩き潰した時、彼の剣はやや損傷していたらしい。武器屋のエンダーが絶対に直すと言いだし、無理やりシリュウから取り上げたのだった。
 エンダーは、シリュウが勲章を渡してから、非常によくしてくれる。勲章をどこかへ売り払ったのか、聞いてみたことがあるけど、その時は、売るのがもったいなくて飾ってある、と言っていた。
 店に着くと、待ち構えていたようにエンダーが出てきた。
「強度を今まで以上に高めておいた。簡単には壊れまい」
 持ち物を僕に渡して、シリュウはカウンターに置かれた剣を鞘から抜いた。そして軽く振っている。
「悪くないね」
 評価はそれだけだった。
 エンダーが僕が抱えているものを見た。
「それは、なんだ?」
「これは」シリュウが僕の手元から取り上げ、カウンターに置いた。「これはおっさんへの贈り物だ」
 なんだい? と言いつつ、エンダーは布に包まれていたそれの中身を確認した。
 手の動きがゆっくりになり、中身が露わになると、手が止まった。
「こいつは、また……」
 そう言ったきり、黙り込んでしまう。僕も改めて、カウンターの上を見た。
 そこにあるのは、地下の一角、祭壇の部屋で手に入れた剣だった。見ていると、結構、よくできている、と思えてきた。いい気配の剣だった。
「価値はあるかな」
 シリュウの言葉に後押しされたように、エンダーが剣を手に取り、持ち上げた。
「これをあんたが使わない理由がわからない」
 漏らすようにエンダーが言う。
「私の作った剣など、足元にも及ばない。誰の作かは知らないが、名剣の一振りだ」
「なら、良かった。世話になっているあんたに、やるよ」
「そんなことを言うもんじゃない!」
 叫ぶように言ったエンダーがこちらに剣を突き出す。
「剣を大事にしろ!」
 そう言われて、シリュウは小さく笑ったようだった。
「何がおかしい?」
「剣を大事にしたことは、ないんだ」
 訝しげに、エンダーがシリュウを見る。僕を見ていた。シリュウが自分の剣に、エンダーが作った剣に触れる。そっと。
「剣を大事にする前に、命を大事にした。剣を大事にしても、死んだら終わりだ」
「屁理屈を言うな。剣に、裏切られるぞ」
「剣は道具だ。違うか? おっさん」
 違う、と即答が返ってきた。
「違う。剣は、自分の体の一部だ。わからないのか?」
「体の一部ね……」
 シリュウは何かを考えていたようだが、答えは口にしなかった。その代わりに、
「とりあえず、その剣は預けておくよ」
 と、一方的に決めた。エンダーは、整備しておく、と返した。
 店を出ると、シリュウが「寄り道しようぜ」と言い出した。
「どこに行く?」
「面白い場所だよ」
 歩いて行くのについていくと、前方に連合軍の屯所が見えてきた。おいおい、厄介なことはしないでくれよ。
 警戒している僕をよそに、シリュウは屯所の手間で道を折れた。そのまま横手に屯所を見ながら歩いて行く。
 どうやら屯所に用があるわけではないらしい。
 そのまままっすぐシリュウは進んで、やがて公園にぶつかった。リーン市民の憩いの場とか呼ばれるが、人出は少ない。
「走り込みをしていて、気づいたんだが」シリュウが歩きながら言う。「俺の感覚もバカにできない、と思うぞ」
 どういうことか、さっぱりわからない。
 二人で公園の中に入り、遊歩道を進んでいく。言い訳程度の森を回り込むように進む。花壇で花が咲いている。まあ、花を愛でるような性格ではないのだけど。
 進むうちに、前方に噴水が見えてきた。シリュウがそこに向かっていくので、僕もそこが目的地なんだと着く前に理解できた。
 でも、なんで、噴水に?
 答えの出ないうちに噴水の前に着いた。大きな盆の中に水が溜まっていて、たまに噴水が激しく宙に水を放射している。
 盆の淵にさらに縁取りがされ、そこに濡れずに座ることができる。シリュウが座ったので、僕も隣に座った。
「そろそろ理由を聞かせてよ。この噴水が、どうかしたの?」
 シリュウを伺うと、ニヤニヤと笑っている。変な奴だ。
「教えてよ」
「巨人の部屋を覚えているか」
 覚えているも何も、忘れられる場所ではない。
「あそこが明るかったのを、覚えているか?」
「もちろん。携帯光源が必要なかった。それがどうした?」
「天井から、光が差し込んでいたんだ、あれは」
 光?
「太陽の光ってこと? あんな地下に?」
「そうだ。そういう工夫なんだな」
「まさか。相当、深い位置だよ。どうやっても、日の光は届かない。冗談を言っているんだろう?」
 シリュウが顎をしゃくった。
「こいつだ」
 示されたのは、僕たちの背後。
 噴水。
 噴水?
 飛び上がるほど驚く、という奴とは少し違うが、僕は立ち上がり、噴水の盆の方に身を乗り出した。
 水の向こうは見えない。水は綺麗だが、見通せない。
 ただ、あの部屋のことを考え、次にその位置関係を考えると、シリュウの想像は正しいかもしれない。
「シリュウは、この噴水が、巨人の部屋の明かり取りだ、っていうの?」
「そうだ。そう思わないか?」
「いや……ありそうだな。位置は、確信はないけど、おおよそ一致する」
 僕がそういうと、シリュウは立ち上がり、歩き出す。どうやら帰るつもりらしい。僕も急いで後を追う。
「これで一つ、あの地下へ行く道筋ができた」
 歩みを止めないままでのシリュウの言葉に、僕の思考は回転していた。
「地下通路は塞がれても、噴水をぶち破れば、あるいはあそこへ行ける」
 そう言われても、僕は別のことを考えていた。
「言葉で伝えてくれればよかったのに」
「しかし、実物を見せないと、伝わらないこともあるだろ?」
「連合軍は、きっと、僕たちを監視している」
 そんなことか、とシリュウが失笑した。
「あの程度の連中は、どうとでもなる」
「余裕だね。慢心、とも言えるけど」
 バシィッと強く、シリュウが僕の背筋を叩く。
「安心しろ。俺の剣術と、お前の口八丁で、なんとかなるさ」
 どうやらシリュウに変な印象を与えてしまったらしい。
「僕の口には、期待しないでくれ」
 謙遜するなよ、とまた背筋を叩かれる。
 謙遜なんて、していない。
 僕は少し、三人の探索者と、七人の兵士のことを考えた。
 そして、一人の死者のことも。
 あの強い眼差しは、すぐには忘れられそうもなかった。
 まるで、射殺すような、視線。
 考えることは、多かった。
 でも人間は一つのことしか、考えられない。
 順繰りに、考えるしかない。
 少しずつでも、前に進むために。
 少しずつでも。



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