出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

文字の大きさ
35 / 82
第五章 悪魔騎士団襲来編

しおりを挟む
 それは突然だった。
 早朝、シリュウが見ている前で僕は剣の稽古として、木刀を振っていた。たまにトウコもやってくるが、この日はいなかった。
 ここに、ローブを羽織った二人がやってきた。
 どっちらも背が高い。フードをかぶっていて、顔が見えない。
「お前がシリュウか?」
 動きを止めた僕は、反射的にシリュウを見た。彼も訝しげに、二人組を見ている。
「そうだが、何の用だ?」
 シリュウが傍に置いていた剣を手に取る。僕も二人から距離を取り、シリュウの方へスルスルと移動した。
 場を支配しているのは、殺気だった。
 張り詰めた空気。
「我々は六花騎士団だ」
 六花、騎士団? どこかで聞いた、けど、すぐには思い出せない。
 シリュウが立ち上がって、剣を抜いた。
「アルス、下がっていろ」
 二人組の片方がフードを脱ぎ、ローブを脱いだ。
 現れたのは複雑な意匠が施された鎧、そして腰には剣があった。
 男の髪の毛は銀髪、しかし瞳は赤い。真紅の瞳がギラギラと輝く。
 人間じゃない。
 悪魔だ。
「俺の名前はラホ。我らが団員、ケタの仇として、お前を倒す」
 僕はまだ信じられなかった。
 リーンの街は黒の領域に近いとは言えない。それなのに、こんな街の中に悪魔がいる。それも上級悪魔がだ。
「俺を倒さなくても、そちらさんの力量なら、いくらでも人間を殺せるんじゃないか?」
「それは我々の流儀ではない」
 流暢な人語だった。
 上級悪魔、ラホが剣を引き抜いた。どうやらもう一人は見届け人なのか、手を出さないようだ。純粋な一対一、決闘のようなものか。
 シリュウが剣を引き抜き、歩み寄る。
 まるでそれが当然のように、二人はこの場で切り結ぶつもりのようだ。
 間合いはみるみる狭まり、そして二人が同時に踏み込む。
 甲高い音、火花。
 それが連続する。二振りの剣が縦横に駆ける。
 動きが止まった時、シリュウはラホの剣を受け止めていたが、押し込まれていく。
 それをいなすが、再びラホの剣が、受け止めるシリュウの剣ごと、押し込んでいく。
「ルウウゥア!」
 シリュウが渾身の力で跳ね返す。が、その動きは読まれていた。わずかにシリュウの体が伸び上がるようになる。
 そこで鋭い弧を描いて、ラホの剣が走り抜けた。
 シリュウが跳んで間合いを取る、ラホも同様だ。
「人間の割には、やる。輪切りにしたつもりだったが」
 シリュウは動きを見せない。
 彼の腹部には切れ目があり、血が流れていた。しかし深そうではない。
 危ない一瞬だったが、シリュウの動きは悪魔の想定を超えていた。
 ただし、何度も同じことができるわけもない。
 二人は無言で、間合いを計り始めたようだった。じりじりと立ち位置を変える。二人の間に、シリュウの影が落ちている。
 シリュウが構えを変えるが、ラホは動じない。
 ぱっとシリュウが踏み込んだ。ラホも予想していたように動いた。
 シリュウの姿が搔き消えるように、素早く動いた。
 剣と剣が当たる音はしない。風を切る音が重なる。
 今度はラホが引いた。ボトボトッと黒い液体が地面に落ちた。悪魔の血だ。
「奇妙な剣も使うか」
 ラホが左手を下げた。いや、その肘のあたりを深く斬られて使えなくなったのだ。
 僕にはシリュウが音無の剣を使ったということがわかった。
 これで形勢はシリュウに傾いた。
 問題はもう一人が参戦しないかだった。でも、今のところ、静観している。
「人間の剣もまた、面白いものだ」
 ラホが笑みを浮かべて、話している。シリュウは応じない。それほどの余裕はないのだ。
「行くぞ」
 声を置き去りに、ラホが加速。一直線の機動。
 シリュウもまた踏み込んだ。
 交錯は一瞬だった。
 気づいた時には、二人は背中を向け合い、シリュウが片膝をついた。その肩が赤く染まる。
「素晴らしい」
 ラホが振り返る。
 その首に黒い筋が入ると、血が噴き出し、そのままラホは仰向けに倒れた。
 シリュウが、勝った。
 立ち上がったシリュウが、ローブの男を見る。
「あんたもやるかい?」
「お前は怪我を負っている。それが治るまで、待つとしよう」
 ローブの男はシリュウに歩み寄り、その脇を抜けると倒された仲間の傍に跪き、その剣を手に取った。そして仲間の首を完全に落とすと、それをローブの中に入れた。
「名前は?」
 シリュウの問いかけに、相手は、
「サザ」
 と、短く応じる。そして魔剣も回収すると何事もなかったように去っていった。
 シリュウが息を吐いて、地面に腰を下ろした。傍には黒い水たまりに倒れている悪魔がいる。それがある限り、今、目の前で起こったことが妄想ではないとわかった。
 僕はシリュウに駆け寄り、怪我の様子を見る。腹も肩も、重傷ではない。
「さすがだな、シリュウは」
「そんなことはない。最後のは、危なかった。どうにか対応できたんだ」
 シリュウが天を仰ぐ。その額や頬に汗が流れた。
 僕は恐る恐る、悪魔の死体に近寄った。人間に似ているが、どこか違う。血が黒いせいかもしれない。
「とりあえず」僕は悪魔の首なし死体を見る。「この鎧は高く売れそうだ」
「その前に治療だな。それに厄介な問題もある」
 厄介な問題?
「悪魔がこの街にいることだ。奴らがちょっと心変わりすれば、無力な市民を大量虐殺できる」
「……それで、対策は?」
「一つだけはっきりしている」
 僕の視線を受けて、シリュウが眉をハの字にする。
「悪魔の狙いは俺だろう。だから、俺の周りに部外者がいないようにすればいい」
「でもなんで、シリュウが狙われる?」
「この前、黒の領域で上級悪魔を倒しただろう? あの悪魔が六花騎士団を名乗っていたんだ。それを俺が切った。奴らはその復讐に燃えているんじゃないか?」
 話を聞けば聞くほど、厄介だった。
「一つ、確認なんだけど」
「なんだ?」
「僕は、無関係でいられるのかな」
 考え込む表情になったシリュウが、言う。
「相手はお前のことを知っている。まぁ、直接は狙われないだろう」
 ちょっとほっとする。
「お前を確保して、俺をおびき出すかもしれないな」
 訂正。ちっともほっとしない。
 シリュウが立ち上がり、自分の剣の様子を見た。
「また整備だ。ついでにそこの悪魔の鎧も、クルーゾーに渡すか。俺から見ても、いい金になりそうだ」
「逃げたりしないの?」
「言っただろう、奴らの狙いは俺だ。もうちょっと引きつける。本当にちょっとだけな。そしたら黒の領域へ行こう。相手の方に利がありそうだが、まぁ、その程度は仕方ない」
 まったく、この先、どうなるんだ?
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...