出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第五章 悪魔騎士団襲来編

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 シリュウの剣の整備はすぐに終わった。その後は法印士のところに寄り、怪我を治癒させた。
 帰ってくると法印の反動で、シリュウは横になり、眠り込んでいる。
 僕も眠っていいのか、少し迷った。眠っているうちに襲われないか、不安だった。
 でも結局、僕は眠った。何かあれば、シリュウは自然と目覚めるだろう。
 翌朝、起きてみるとシリュウは部屋にいなかった。メモが落ちていて、走りに行く、と書いてある。驚いたのは部屋に彼の剣が置いてあることだった。武器を持たずに出たのだ。
 信じられない。
 シリュウが戻ってくるまでがやたら長く感じた。朝食を用意して、僕はそわそわして彼の帰りを待った。
 帰ってくると「いい匂いだ」などと言っている。
「もし突然に襲われたら、どうするつもり?」
「ん? それは俺もお前に、同じことを言えるけどな」
 僕が突然に襲われたらどうするか、って、どうもしない。僕は上級悪魔に勝てるほどの技量はない。
「僕が死んだら、それはシリュウのせいだから、シリュウの枕元に亡霊として立つしかない」
「それはぞっとしないな。それはそうと、俺が突然に襲われることはない。きっと、向こうはこっちを監視しているさ」
「監視?」
 反射的に周囲を確認してしまった。当然、何かを見つけられるわけもない。
「魔法か魔術だろう。連中が何人かは知らないが、すでに二人が倒れている。そろそろ油断もないだろう」
「もう一対一じゃないんじゃないか?」
「悪魔はやけに義理堅いし、卑怯な真似はしない。きっと、一対一だ。助かるよ、まったく」
 僕たちは手早く朝食を済ませ、これからの展開を議論した。
 街の中に悪魔を置いておくのは、人質をとられている等しい。シリュウの考えでは市民が盾に取られることはないという展開で確定のようだけど、さすがに僕はそこまで豪胆にはなれない。
 早めに街を出るしかない。一番近い、デリア砦へ移動する、と決めた。
 出発は明後日の早朝。それが一番早いスケジュールだった。物資をある程度、用意しなくちゃいけないし、馬車の手配もある。
 砦に着いてからも、そこに留まるわけではなく、即座に黒の領域へ入る。
 僕は午前中をかけて、紹介所に提出する探索行の計画書を書いた。シリュウにはまだこれは書けない。
 午後は二人で書類を提出し、買い出しをした。例の悪魔の鎧を売ったことで得た資金はこれでほぼ全て放出してしまった。
 夕方になり、メリッサが少し顔を出した。僕がまた仕事に出るというと、彼女は少し寂しそうな表情になったが、すぐに笑顔で隠した。
「アルスなら大丈夫だと思っているけどね」
「僕は今回はおまけみたいものだよ。シリュウの厄介ごとに巻き込まれているんだ」
 メリッサがチラッとシリュウを見る。彼は平然と顔をそらした。
「怪我には気をつけてね」
「うん、ありがとう」
「出発は明後日ね? じゃあ、お弁当を持っていくから」
 待ち合わせの約束をして、メリッサは去って行った。
 彼女が持ってきてくれた料理で夕食を済ませた。
 次の一日は、ほとんど休養日だ。お昼ご飯をメリッサの家族が経営する軽食屋へ食べに行ったくらいで、夕方にはすでに眠っていた。
 暗いうちから起きだし、僕たちは部屋を出た。
 乗合馬車の乗り場には、まだ三台しか馬車はいない。そのうちの一つの前で、メリッサが待っていた。包みを渡してくる。
「帰ってきたらすぐにお店に行くよ」
 僕がそういうと、シリュウに見えない位置で、彼女はそっと僕の手に触れた。僕も軽く握り返した。
「大丈夫さ」
 彼女が頷いて、手を離す。
 僕とシリュウは馬車に乗り込む。時間になり、馬車が動き出した。見送っているメリッサに僕は手を振った。
 メリッサが渡してくれた包みの中身はサンドイッチだった。それで朝食にする。
「奇特な娘だな」
 シリュウの評価は無視。
「ただし料理はうまい。その点はお前と気が合うのもわかる」
 確かにサンドイッチは美味かった。丁寧に作られている。僕はなんとなく、それがどうやったら再現できるか考えていた。
 馬車はどんどん進み、街を離れ、田園地帯に差し掛かった。すでに周囲は明るくなり、農作業をしている人もちらほらと見えた。
 そのうちに、田園風景もなくなり、草木もまばらな地帯になる。
 前方に壁が見えてくる。砦を囲んでいる防壁だ。
 馬車が突然に減速した。完全に停車して、さすがに僕とシリュウは顔を見合わせた。途中で乗り込んできた乗客たちも不思議そうにしている。
 馬車の御者が何か言っているのが聞こえた。
「嫌な予感がする」
 僕がそういうと、シリュウが立ち上がった。
「俺もだ」
 彼が馬車を降りたので、僕も従うしかない。
 馬車の前に立っている二人が見えた。二人ともローブを羽織って、フードを被っているために顔が見えない。
「シリュウ、お前を待っていた」
 片方が進み出てきて、ローブを脱ぎ捨てた。
 人間のそれとは意匠が異なる、独特の鎧。背中に剣を背負っている。
 銀髪と、赤い瞳。
「六花騎士団、副団長のヨヨだ」
 その言葉を聞いても、シリュウはうともすんとも応じなかった、チラッと横目で確認すると、どこか呆然とした顔をしている。
「アルス、用意しておけ」
 彼はそう言うと、どこか強張った表情で進み出た。背中から剣を抜く。
    用意というのは、つまり……。
 僕は馬車の方へ歩み寄って行く。しかし視線はシリュウに向けたまま。
「その剣を知ってるぞ」
 シリュウの言葉に、ヨヨと名乗った悪魔がニヤリと笑う。
「お前たちヒトが所有した時期もあったからな」
「俺の友の持ち物だったぞ」
 無造作にシリュウが相手の間合いに踏み込んだ。
 相手は剣を抜くこともなかった。
 シリュウの一撃はその胸を斜めに断ち割った。
 ぐらりとヨヨがよろめく。
 それだけだ。
 姿勢を立て直し、ヨヨはシリュウを見ている。ヨヨの胸は黒い液体で染まっているが、負傷しているように見えないそぶり。
 どうなっている?
「俺たちは」シリュウが剣を構える。「不倒の剣と呼んでいた剣だ。やはり、不死身になるんだな」
「我々は、止水剣と呼んでいる。名前など、どうでもいいがな。では、今度はこちらからだ」
 ヨヨの鋭い踏み込み、そこからの一撃をシリュウが弾く。
 僕の感覚では二人の動きは速すぎる。
 空気を切り裂く音、剣同士が弾き合う音、それが止むことなく連なる。
 地面に散るのは赤い液体と黒い液体。それらさえも、二人の足が地面を踏みしめ、滑り、削り、かき回される。
 動きが止まった時、二人は鍔迫り合いの姿勢。
「人間とは思えないな! シリュウ!」
「それは」シリュウは歯を食いしばっている。「どうも」
 二人は間合いを取るために跳び離れる。
「一対一とは、公平すぎて泣けてくるよ」
 シリュウがぼやく。そう、ヨヨのは背後にはもう一人、いるのだ。
「これは正当な敵討ち、正しい戦いだ。我々はそれを重視する」
「そうかい」
 突然にシリュウの左手が柄を放した。
 ヨヨも一瞬、混乱したようだ。
 シリュウの手は、腰のポーチから小瓶を取り出していた。地面に叩きつけられると、煙が爆発的に広がった。
「アルス!」
 僕は密かに心積もりをしていたので、即座に行動できた。
 未だに止まったままの馬車を破壊し、その馬を奪う。鞍も何もないが、どうしようもない。
 僕とシリュウは馬に飛び乗ると、そのまま走らせた。煙を突破する。
 背後を恐る恐る振り返るが、悪魔は追跡してきていない。
「このまま砦に飛び込むぞ!」
 先を走るシリュウの声に「ああ!」とほとんど怒鳴るように応じる。
 これで残りの悪魔は三体か四体とわかった。
 そして彼らは一対一に拘っている。
 こうなってはシリュウの技量次第だ。僕にできることはない。
 砦に到着し、やっと落ち着くことができた。荷物をほとんど置き去りにしてしまったので、ここで調達することになる。
 金のことを考えたくないが、とにかく、ここのところ出費が酷い。
 僕のぼやきを聞いたシリュウは平然としている。
 それもそうか。
 僕は観念して、装備を整えた。
 明日には、出発しよう。悪魔の追跡は想像より早く、周到だ。


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