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第五章 悪魔騎士団襲来編
五
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シェリーは法印を使って、シリュウの傷を治癒させた。だけど彼は目覚めない。
僕とシリュウがここにいた時と少しも変わらない生活をシェリーは続けているようだった。
彼女は山の中に木の実や山菜を採りに行き、僕は前にシリュウに教わっていた罠を作り、翌日にはウサギを三羽ほど手に入れた。
シェリーは言葉を話せないので、彼女は言いたいことを地面に字を書いて伝えてくる。
僕は自分たちがどういう立場で、なぜシリュウが怪我をしたのか、説明した。シェリーは不思議そうにしていたが、ドザが助けてくれた、と話すと、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
シリュウが起きるまで、三日がかかった。その間、どうにか水を飲ませるか、あるいは薬湯を飲ませることしかできなかった。
シリュウが目覚めると、すぐにドザがやってきた。
「死ななかったようだな、若造」
ドザの言葉にシリュウは応じなかった。ただ黙って、重湯のようなものを飲んでいる。
「あの程度の相手に手を焼くとは、恐れ入った」
悪魔の皮肉にも無言。
「稽古をつけてやる。それも嫌か?」
その一言で、シリュウが重湯の入った器を地面に置いた。ゆっくりと立ち上がる。そして剣を手に取った。ドザが微笑み、先に洞窟の奥へと進んでいく。ドザは新しい剣を持っていた。
二人の姿が見えなくなると、シェリーが近寄ってきた。地面に文字を書く。
もっと休んでもらった方がいいんじゃないでしょうか?
「僕もそう思うけど、ドザがそんなことに気づかないわけがないよ。つまり、時間がないんだろうね。急いでいるんだ」
焦っている、とも思ったけど、それは飲み込んだ。
その日はシリュウはいつかのように気絶して、ドザに抱えられて戻ってきた。またシェリーが法印で治療する。シリュウは夜中に目覚めて、僕が重湯を出すと、それを全部、食べた。
翌朝も早朝からシリュウとドザは洞窟の奥にこもって、出てこない。シェリーはいつでもシリュウの治療ができるように、洞窟に残り、僕は一人で食料を調達した。
洞窟に戻ると、シリュウは横になっていて、ドザがその傍らで自分がシリュウに手渡した剣を見ているところだった。
彼がこちらに気づく。
「よく手入れされている」
「そういうことに長けた人間もいるんです」
ドザは剣を鞘に納めた。
「どうして」僕は彼に尋ねてみた。「助けてくれるんですか?」
「そうだな、暇だからだろう」
……意外に適当な理由だった。
「あとは、こいつの剣がもっと高まったところを見たいから、かもしれない」
まともな理由もあるじゃないか。
「うまくいきそうですか?」
「わからないな。とりあえず、悪魔の剣術の呼吸を教えているが、理解できているかは、まだはっきりしない。まだまだこれからだろう」
僕は一番気になっていることに触れた。
「あとどれくらいの猶予がありますか?」
「あまりここに長居させたくはないな。あと三日だろう。それを過ぎたら、放り出す。あとは自力でなんとかしてくれ」
三日か。それがシリュウにとって十分なのか、不足なのか、わからなかった。
シリュウが目を覚ますと、ドザはまた洞窟の奥に彼を連れて行く。帰ってくる時は、シリュウの意識は朦朧としている。
休息のあと、またすぐに訓練。休息、訓練。
激しすぎるペースで、ドザはシリュウの相手をした。ドザ自身は平然としているが、シリュウは休んでも完全に回復しているようには見えなかった。
そうして二日が過ぎ、三日目の朝を迎えた。
「今日の昼間には、お前たちを適当な場所に放り出す。あとは好きにやってくれ」
ドザの宣言にシリュウは何も応じなかった。ただ剣を手に取って立ち上がり、洞窟の奥へ向かおうとする。僕は止めようと思ったが、ドザが僕を制した。シェリーも制して、ドザはシリュウの後を追って洞窟の奥へ行ってしまった。
また叩きのめされたら、回復する余地はないと思う。
それだけシリュウはドザの訓練を求めているんだろう。
シェリーは薬湯を水筒に入れてくれたり、薬草や軟膏をまとめて渡してくれた。
昼前にシリュウが洞窟の奥から出てきた。
不思議なことに、平然としている。その後をついてくるドザが顔をしかめていた。
「大丈夫? シリュウ」
「問題ないぞ」
シリュウはどっかりと腰を下ろすと、すでに用意されていた昼食を食べ始めた。シェリーがドザを気にしているが、ドザは苦い表情で頷き返している。
四人で食事をしたけど、会話らしい会話はなかった。
食事が済んで、僕とシェリーで小川へ洗い物をしに行った。彼女はどこか不安げだけど、僕も不安だった。
帰り際にシェリーが地面に字を書いた。
気をつけて。
短い言葉。僕は無言で頷いた。
準備をすると言っても、ほとんど荷物はない。僕たちはシェリーに別れを告げて、ドザと一緒に洞窟を出た。
「例の小川のところでいいか? それとも別がいい?」
ドザの言葉に僕は、小川を指定した。下手なところに出て、迷子になりたくはない。すでに地図も失われている。ただ、同じ場所に戻れば、六花騎士団の悪魔に遭遇する率は高い気がする。
ドザの手が僕とシリュウの肩に触れた。
「ドザ」
突然にシリュウが口を開いた。
「感謝している」
鼻で笑った、と思った時にはドザは消えていた。
僕とシリュウは小川のそばに立っていて、ドザの姿はない。どうやら転移は完了したようだ。
「悪魔というのは便利なものだな」
シリュウがそう言って、周囲をうかがった。僕も注意するが何の気配もない。静かな森が広がっている。
「疲れた」
シリュウがその場に腰を下ろし、その上、横になった。
「ちょっと休む。見張っててくれ」
おいおい。
シリュウはすぐに寝息を立て始めた。肝が座っている。
僕は仕方なく、その場で長い間、周囲を見張っていた。
僕とシリュウがここにいた時と少しも変わらない生活をシェリーは続けているようだった。
彼女は山の中に木の実や山菜を採りに行き、僕は前にシリュウに教わっていた罠を作り、翌日にはウサギを三羽ほど手に入れた。
シェリーは言葉を話せないので、彼女は言いたいことを地面に字を書いて伝えてくる。
僕は自分たちがどういう立場で、なぜシリュウが怪我をしたのか、説明した。シェリーは不思議そうにしていたが、ドザが助けてくれた、と話すと、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
シリュウが起きるまで、三日がかかった。その間、どうにか水を飲ませるか、あるいは薬湯を飲ませることしかできなかった。
シリュウが目覚めると、すぐにドザがやってきた。
「死ななかったようだな、若造」
ドザの言葉にシリュウは応じなかった。ただ黙って、重湯のようなものを飲んでいる。
「あの程度の相手に手を焼くとは、恐れ入った」
悪魔の皮肉にも無言。
「稽古をつけてやる。それも嫌か?」
その一言で、シリュウが重湯の入った器を地面に置いた。ゆっくりと立ち上がる。そして剣を手に取った。ドザが微笑み、先に洞窟の奥へと進んでいく。ドザは新しい剣を持っていた。
二人の姿が見えなくなると、シェリーが近寄ってきた。地面に文字を書く。
もっと休んでもらった方がいいんじゃないでしょうか?
「僕もそう思うけど、ドザがそんなことに気づかないわけがないよ。つまり、時間がないんだろうね。急いでいるんだ」
焦っている、とも思ったけど、それは飲み込んだ。
その日はシリュウはいつかのように気絶して、ドザに抱えられて戻ってきた。またシェリーが法印で治療する。シリュウは夜中に目覚めて、僕が重湯を出すと、それを全部、食べた。
翌朝も早朝からシリュウとドザは洞窟の奥にこもって、出てこない。シェリーはいつでもシリュウの治療ができるように、洞窟に残り、僕は一人で食料を調達した。
洞窟に戻ると、シリュウは横になっていて、ドザがその傍らで自分がシリュウに手渡した剣を見ているところだった。
彼がこちらに気づく。
「よく手入れされている」
「そういうことに長けた人間もいるんです」
ドザは剣を鞘に納めた。
「どうして」僕は彼に尋ねてみた。「助けてくれるんですか?」
「そうだな、暇だからだろう」
……意外に適当な理由だった。
「あとは、こいつの剣がもっと高まったところを見たいから、かもしれない」
まともな理由もあるじゃないか。
「うまくいきそうですか?」
「わからないな。とりあえず、悪魔の剣術の呼吸を教えているが、理解できているかは、まだはっきりしない。まだまだこれからだろう」
僕は一番気になっていることに触れた。
「あとどれくらいの猶予がありますか?」
「あまりここに長居させたくはないな。あと三日だろう。それを過ぎたら、放り出す。あとは自力でなんとかしてくれ」
三日か。それがシリュウにとって十分なのか、不足なのか、わからなかった。
シリュウが目を覚ますと、ドザはまた洞窟の奥に彼を連れて行く。帰ってくる時は、シリュウの意識は朦朧としている。
休息のあと、またすぐに訓練。休息、訓練。
激しすぎるペースで、ドザはシリュウの相手をした。ドザ自身は平然としているが、シリュウは休んでも完全に回復しているようには見えなかった。
そうして二日が過ぎ、三日目の朝を迎えた。
「今日の昼間には、お前たちを適当な場所に放り出す。あとは好きにやってくれ」
ドザの宣言にシリュウは何も応じなかった。ただ剣を手に取って立ち上がり、洞窟の奥へ向かおうとする。僕は止めようと思ったが、ドザが僕を制した。シェリーも制して、ドザはシリュウの後を追って洞窟の奥へ行ってしまった。
また叩きのめされたら、回復する余地はないと思う。
それだけシリュウはドザの訓練を求めているんだろう。
シェリーは薬湯を水筒に入れてくれたり、薬草や軟膏をまとめて渡してくれた。
昼前にシリュウが洞窟の奥から出てきた。
不思議なことに、平然としている。その後をついてくるドザが顔をしかめていた。
「大丈夫? シリュウ」
「問題ないぞ」
シリュウはどっかりと腰を下ろすと、すでに用意されていた昼食を食べ始めた。シェリーがドザを気にしているが、ドザは苦い表情で頷き返している。
四人で食事をしたけど、会話らしい会話はなかった。
食事が済んで、僕とシェリーで小川へ洗い物をしに行った。彼女はどこか不安げだけど、僕も不安だった。
帰り際にシェリーが地面に字を書いた。
気をつけて。
短い言葉。僕は無言で頷いた。
準備をすると言っても、ほとんど荷物はない。僕たちはシェリーに別れを告げて、ドザと一緒に洞窟を出た。
「例の小川のところでいいか? それとも別がいい?」
ドザの言葉に僕は、小川を指定した。下手なところに出て、迷子になりたくはない。すでに地図も失われている。ただ、同じ場所に戻れば、六花騎士団の悪魔に遭遇する率は高い気がする。
ドザの手が僕とシリュウの肩に触れた。
「ドザ」
突然にシリュウが口を開いた。
「感謝している」
鼻で笑った、と思った時にはドザは消えていた。
僕とシリュウは小川のそばに立っていて、ドザの姿はない。どうやら転移は完了したようだ。
「悪魔というのは便利なものだな」
シリュウがそう言って、周囲をうかがった。僕も注意するが何の気配もない。静かな森が広がっている。
「疲れた」
シリュウがその場に腰を下ろし、その上、横になった。
「ちょっと休む。見張っててくれ」
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