出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第五章 悪魔騎士団襲来編

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 僕たちの部屋に夜になって訪ねてきたメリッサが大仰に驚いていた。
「まさか、街の中で斬り合いなんて! 信じられない!」
 そういう職業だよ、と僕が言うと、彼女は目を吊り上げて、
「口答えするな!」
 と、怒鳴った。
 まったくの正論です。
「シリュウさんも、少しは遠慮ってものがないんですか?」
「遠慮?」
 さすがのシリュウも目を丸くしていた。
「そうです。ここは戦場じゃないんですよ!」
「それは向こうに行ってくれ。俺たちは被害者だ」
「相手の腕をすっ飛ばしておいて、被害者もないでしょ!」
 どうにかしてくれ、という表情でシリュウがこちらを見ると、目を反らすな! とメリッサが罵倒する有様だ。
 彼女は三十分ほど、休みなくまくしたて、それでやっと落ち着いたようだった。
「もう、これ以上、厄介ごとを持ち込まないでよ、アルス」
 僕に言われても困る。
 あの時、切り結んだ相手が人間ではないことは、おそらく噂程度にはなっているだろう。ただ、あの場に残されていた腕は、連合軍が回収した。近いうちにシリュウか僕にも出頭の命令があるだろう。
 もちろん、正直に話せる。ただ、信じてもらえるかは別問題だ。
 ちょっとの間、街を離れようか、とシリュウと相談している時に、メリッサが来たのだった。
 僕もシリュウもその話をするべきか迷った。けど、僕は口にすることにした。
「街を出る?」メリッサが睨みつけるようにこちらを見た。「いつ出るの? いつまで戻らないの?」
 僕はシリュウと顔を見合わせた。
 メリッサの瞳が潤んでくる。感情の起伏が激しい。
「とりあえず、追っ手が途絶えるまで」
 いよいよメリッサは泣き出し、僕が彼女の背中をさすった。付き合いきれんとばかりにシリュウは部屋を出て行ってしまった。
 しばらく泣いていたメリッサが立ち直り、こちらを見たので、話の続きをした。
「悪魔に付け狙われているのはシリュウで、僕じゃない。連中はやたら義理堅くて、僕を狙ったり、二対一で相手をしようとはしない。正々堂々、一対一、それが流儀なんだ」
「だから?」
 うーん……。
「だから安心してほしい」
「悪魔の言うことを信じられるか!」
 そんなことを言われても、僕は実際に、信用できる悪魔を知っているわけで。
 シリュウがふらっと戻ってきて、メリッサと目が合うと顔をしかめて、また出て行った。
「悪魔よりメリッサが怖いらしい」
 ふざけてそういうと、頬に平手打ちをくらった。痛い。
「嘘です、すみません」
 もう一発、平手打ちをくらった。
 そしてまた彼女が涙をこぼし始める。
「私が真剣に心配しても、あんたたち、適当なことを言ったりやったりして、好きにするんでしょ!」
 まぁ、それほどかけ離れた指摘ではない。
「すぐに戻ってくるよ。予定は立たないけど、最終地点は見えている」
「最終地点って?」
「例の悪魔の大将をシリュウが切った時だね」
 その言葉にメリッサの表情が一段と険しくなった。
「もしシリュウさんが負けたら?」
「彼が死んで、それで終わりじゃないかな」
「……あまりにも冷酷じゃない? その想像」
 言われてみればそうだけど、理由はすぐにわかった。
「どうも、僕はシリュウが切られる場面を、想像できないみたいだ」
「信頼しているってこと?」
「そうだね。彼は、強い」
 こちらの瞳をメリッサが覗き込んだ。
「盲信や過信じゃない?」
「盲信でも過信でもない。揺るぎない信用、信頼だね」
 またシリュウが部屋に戻ってきた。いつまでいるんだ、という目でメリッサを見ているその視線をメリッサの視線が正面から受け止めた。ちょっとシリュウが引く素振り。
 勢いよく、メリッサが椅子から立ち上がった。
「良いでしょう! 好きなところに行って、やりたいようにやりなさい!」
 そう言ってから、彼女は僕たちを見た。
「その代わり、戻ってくるのよ。無事で!」
 僕とシリュウが頷くと、彼女も頷いて、軽い挨拶の後、部屋を出て行った。
「暴風みたいな女だな」
「それだけ真面目なんだよ」
 シリュウがメリッサが座っていた椅子に座り、こちらを見る。
「それで、街を出るんだな?」
「ゲレスという村がある。それほど大きくない。産業は農業くらいで、つまりど田舎だ」
「この街も首都に比べればど田舎だがな」
「じゃあ、こう言おう、未開の地だ」
 やれやれ、とシリュウが首を振った。
「そこに行って、悪魔を待ち構える?」
「そうだね、僕の想定では、彼らは諦めないと思う。この前の様子では」
「悪魔はもっと統制が取れていると思ったが、そうでもないな」
 個性だろうね、と僕が応じると、なるほど、とシリュウが頷く。
 それからいくつか打ち合わせをして、その日は休んだ。
 翌朝、それほど速くない時間帯に僕たちは徒歩で街を出ようとした。
 だけど、どこか空気がおかしい。変な雰囲気が広がっていた。歩いてくと、ますます変な空気である。騒がしく、浮き足立っている。数人の男女は駆け回っていた。
「何かあったのかな」
 シリュウは無言である。
 そのまま進んでいくと、人だかりができているのが見えた。とてもその向こうまでは見えないほどの人の塊。
 僕は近くにいる人に何があるのか聞いてみた。
「死体が晒されているらしい。しかも、黒い血を流して」
 シリュウは既にそれを予測していたのだろう。平然と、僕が話しかけた男に質問している。
「何か、張り紙もされているようか?」
「よく分からないな。そこで死んでるのは、サザという奴らしい」
 あぁ。僕は思わず、天を仰いだ。
 そんな僕の腕をシリュウが掴んで、歩き出す。そのまま人垣から離れ、進む。
「仲間割れとは、ありがたいことだ」
 シリュウが呟く。でも口調には皮肉の要素は少しもない。
 あるのは怒りだけだ。
「しかし、気に食わんな。気に食わん」
 シリュウはそう言ったきり、黙ってしまった。
 ゲレスという村までは徒歩で一日で行ける。泊まれる店はないので、どこかの適当な家に泊めてもらう予定だった。
 村についてみると、街道沿いには二十数軒があり、少し離れて何軒かの家があるようだった。
「街道から離れるべきだ」
 シリュウの提案に従って、僕たちは道から離れ、畑の真ん中にあるような離れた家に向かう。
 夕暮れの中、応対した老婆は、金がなくて泊まるところがない、という旅人を装った僕の言葉を信じて、僕たちを中に入れた。
 実際、金はないのだ。
 何か仕事をしたい、というと例の如く、薪割りを頼まれた。
 シリュウが動こうとしないので、僕がやった。薪を割っている僕の横にいつの間にかシリュウが来ていたけど、黙り込んでいて、ほとんど動きもしない。
 やはりサザのことを考えているんだろうか。
 その夜は、僕たちはほとんど言葉を発さなかった。
 夜、夢の中でサザの声を聞いた気がしたけど、目覚めた時には、思い出せなかった。
 言葉も、声も。

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