42 / 82
第五章 悪魔騎士団襲来編
九
しおりを挟む
リーンの街に戻り、僕とシリュウは連合軍の屯所に連れて行かれた。
屯所と言っても街の中の砦で、空堀と塀に囲まれている。
僕は中に入ったのは今までに数度しかない。今回はかなり奥まで連れて行かれた。
シリュウとは引き離され、一人で取り調べを受けた。もっと強烈な尋問のようなものを想像していたけど、僕からの聞き取りをした男は、軍人らしくない穏やかな中年だった。
肉がたるんでいる顎をさすりつつ、事の経緯を尋ねられた。
シリュウとは事前に打ち合わせしたけど、この段階では、何も偽らずに話す、と決めていた。
僕は仕事で黒の領域へ行ったこと、そこで不足の事態で上級悪魔をシリュウが切ったこと、その後、上級悪魔の仲間がシリュウをつけ狙ったこと。街中で襲われ、次に黒の領域でも襲われたこと、ゲレスの村で最終的に決着がついたこと。そんなことを話した。
取調官は、リーンの街で晒されていた死体について詳細を尋ねてきたけど、僕もシリュウもそれを実際には見ていない。サザだろう、とは思うけど、僕は明言を避けた。
それは、サザが仲間に殺された、と思いたくないからかもしれない。
それから二、三、質問をされて、僕は解放された。ただ、一日ほど屯所に留め置く、ということで、地下の牢獄に連れて行かれた。
いくつか格子が並んでいるが、シリュウの姿はなかった。
食事は結構、良いものが出た。布団もそれほどひどくない。ただ、時間がわからないのが不便だ。仕方ないので、適当に眠り、目覚めそうになっても自然と覚醒するまで、ウトウトし続けた。食事が運ばれてくる音で、やっと覚醒した。
シリュウとは会えないまま、僕は釈放され、屯所を出た。
外に出ると、メリッサが待ち構えていた。こちらを見て、目を丸くしている。僕は落ち着いて歩み寄った。
「この通り」両手を広げて見せる。「無事に帰ってきた」
「……このバカ」
メリッサはそういうと、僕に抱きつき、少しじっとしてからすぐに離れた。きっと周りの視線に気づいたんだろう。
「シリュウさんより遅く釈放なんて、どうしたの?」
その言葉に僕は思わず黙ってしまった。
「シリュウより、遅い? シリュウはもう釈放されたの?」
「そうよ。だから私があなたを待ち構えていたんじゃない」
それもそうか。
しかし、わからないな。
「そのシリュウはどこにいる?」
「知らないわよ、あんな人。部屋じゃないの?」
不機嫌そうにメリッサが応じる、これはシリュウと何かあったな。
僕はメリッサをなだめつつ、またお店に行くと言って、一人で部屋に向かった。
中に入ると、床に布団を敷いて、シリュウが眠っていた。あまりのことに、僕はあっけにとられて、しばらく動けなかった。
時間が経つと、自分たちがとりあえずは無事と分かって、安堵の念が湧き上がってきた。
時間は昼間で、僕は軽く食事を作った。匂いを感じたのか、シリュウがむくりと起き上がる。
「なんだ、戻ったのか」
「それはこっちのセリフ。とりあえず、食事だ」
料理を机に運ぶ頃には、シリュウも完全に目覚めていた。
「どういう取引をした?」
「不倒の剣を差し出した」
なるほど。それなら、早く釈放されるはずだ。
「打ち合わせ通りに話したんだよね?」
「そうだ。指揮官殿の指示の通りに」
僕たちは食事を平らげてから、二人でクルーゾーの店に出かけた。
彼は僕たちを見ると嫌そうな顔をしたが、僕がまとまった金額を手渡すと、
「明日、雪が降ってもおかしくないな」
と、言っていた。これで月賦の半分ほどは解消されたはずだ。
この金はシリュウが連合軍から受け取ったものだった。上級悪魔を数体倒した、と報告したわけで、確認が完全ではないという理由で額を減らされたが、目撃者がいる場面もあったし、報奨金が出たわけだ。
クルーゾーより先に砦で高利貸しから借りた金を返せたのは大きかった。クルーゾーはともかく、高利貸しからの利息は、首に縄が絡みついているようなものだ。それも時間が経つごとに確実に締まってくるような。
僕とシリュウはサザの死体が晒されていた場所を確認した。すでにほとんど痕跡はないし、人も注目していない。
僕はそこで手を合わせそうになったけど、どうにか自制した。
二人でメリッサの家族が経営する軽食屋へ向かう。夕方になる前で、営業時間には少し早い。でもこの時間がメリッサの指定だった。
中に入ると、彼女とトウコが待ち構えていた。
「先生」トウコが歩み寄ってきて、シリュウの前に立つ。「お疲れ様でした。ご無事で何よりです」
うん、などとシリュウは頷いている。
そしてトウコは僕には何も言わない。何か言ってくれよ。
メリッサがテーブルの一つに僕たちを導き、四人で囲んだ。
簡単な料理が用意されている。
トウコが話の詳細を聞きたがったので、それを要点だけまとめて話した。そうすれば彼女は知りたいことを質問するだろう。
案の定、トウコはシリュウに、悪魔の剣術について尋ね始めた。シリュウは身ぶりを交えて、解説しているが、僕には理解できないことも多い。
自然と、メリッサと僕が会話をすることになった。
「上級悪魔と切り結ぶなんて、金輪際、やめてよね」
「僕だって好きでやったわけじゃないよ」思わず苦笑いしてしまう。「僕はシリュウみたいな前衛じゃない。しかし、よく死ななかったなぁ」
何度、思い返しても、ヨヨの一撃が僕の命を奪わなかったのは、奇跡としか言えない。シリュウが投げた剣が当たらなければ、そもそもシリュウにその力が残っていなかったら、僕は死んだだろう。
そしてきっと、シリュウも生きていない。
生き死にというのは、ちょっとしたことで変わるものなのだ。
実力、運、そういう要素は常に、複雑に絡み合っている。
「明日から少し出かけるけど、三日くらいで帰ってこられると思う」
「え? また? 少しは落ち着いたらいいじゃないの」
「まだ全部が終わったわけじゃないんだ。最後の仕上げがある」
メリッサがシリュウの方を見た。シリュウも気づいて、視線を返したが、二人とも何も言わないままだ。
こちらに向き直ったメリッサが、
「心配するのも馬鹿馬鹿しいわ」
と、不機嫌そうに言った。
しばらく食事とおしゃべりの後、お店の営業時間になったので、僕とシリュウは店を出た。
翌日、僕とシリュウはまたリーンを離れた。
行き先は、ゲレス村だ。
屯所と言っても街の中の砦で、空堀と塀に囲まれている。
僕は中に入ったのは今までに数度しかない。今回はかなり奥まで連れて行かれた。
シリュウとは引き離され、一人で取り調べを受けた。もっと強烈な尋問のようなものを想像していたけど、僕からの聞き取りをした男は、軍人らしくない穏やかな中年だった。
肉がたるんでいる顎をさすりつつ、事の経緯を尋ねられた。
シリュウとは事前に打ち合わせしたけど、この段階では、何も偽らずに話す、と決めていた。
僕は仕事で黒の領域へ行ったこと、そこで不足の事態で上級悪魔をシリュウが切ったこと、その後、上級悪魔の仲間がシリュウをつけ狙ったこと。街中で襲われ、次に黒の領域でも襲われたこと、ゲレスの村で最終的に決着がついたこと。そんなことを話した。
取調官は、リーンの街で晒されていた死体について詳細を尋ねてきたけど、僕もシリュウもそれを実際には見ていない。サザだろう、とは思うけど、僕は明言を避けた。
それは、サザが仲間に殺された、と思いたくないからかもしれない。
それから二、三、質問をされて、僕は解放された。ただ、一日ほど屯所に留め置く、ということで、地下の牢獄に連れて行かれた。
いくつか格子が並んでいるが、シリュウの姿はなかった。
食事は結構、良いものが出た。布団もそれほどひどくない。ただ、時間がわからないのが不便だ。仕方ないので、適当に眠り、目覚めそうになっても自然と覚醒するまで、ウトウトし続けた。食事が運ばれてくる音で、やっと覚醒した。
シリュウとは会えないまま、僕は釈放され、屯所を出た。
外に出ると、メリッサが待ち構えていた。こちらを見て、目を丸くしている。僕は落ち着いて歩み寄った。
「この通り」両手を広げて見せる。「無事に帰ってきた」
「……このバカ」
メリッサはそういうと、僕に抱きつき、少しじっとしてからすぐに離れた。きっと周りの視線に気づいたんだろう。
「シリュウさんより遅く釈放なんて、どうしたの?」
その言葉に僕は思わず黙ってしまった。
「シリュウより、遅い? シリュウはもう釈放されたの?」
「そうよ。だから私があなたを待ち構えていたんじゃない」
それもそうか。
しかし、わからないな。
「そのシリュウはどこにいる?」
「知らないわよ、あんな人。部屋じゃないの?」
不機嫌そうにメリッサが応じる、これはシリュウと何かあったな。
僕はメリッサをなだめつつ、またお店に行くと言って、一人で部屋に向かった。
中に入ると、床に布団を敷いて、シリュウが眠っていた。あまりのことに、僕はあっけにとられて、しばらく動けなかった。
時間が経つと、自分たちがとりあえずは無事と分かって、安堵の念が湧き上がってきた。
時間は昼間で、僕は軽く食事を作った。匂いを感じたのか、シリュウがむくりと起き上がる。
「なんだ、戻ったのか」
「それはこっちのセリフ。とりあえず、食事だ」
料理を机に運ぶ頃には、シリュウも完全に目覚めていた。
「どういう取引をした?」
「不倒の剣を差し出した」
なるほど。それなら、早く釈放されるはずだ。
「打ち合わせ通りに話したんだよね?」
「そうだ。指揮官殿の指示の通りに」
僕たちは食事を平らげてから、二人でクルーゾーの店に出かけた。
彼は僕たちを見ると嫌そうな顔をしたが、僕がまとまった金額を手渡すと、
「明日、雪が降ってもおかしくないな」
と、言っていた。これで月賦の半分ほどは解消されたはずだ。
この金はシリュウが連合軍から受け取ったものだった。上級悪魔を数体倒した、と報告したわけで、確認が完全ではないという理由で額を減らされたが、目撃者がいる場面もあったし、報奨金が出たわけだ。
クルーゾーより先に砦で高利貸しから借りた金を返せたのは大きかった。クルーゾーはともかく、高利貸しからの利息は、首に縄が絡みついているようなものだ。それも時間が経つごとに確実に締まってくるような。
僕とシリュウはサザの死体が晒されていた場所を確認した。すでにほとんど痕跡はないし、人も注目していない。
僕はそこで手を合わせそうになったけど、どうにか自制した。
二人でメリッサの家族が経営する軽食屋へ向かう。夕方になる前で、営業時間には少し早い。でもこの時間がメリッサの指定だった。
中に入ると、彼女とトウコが待ち構えていた。
「先生」トウコが歩み寄ってきて、シリュウの前に立つ。「お疲れ様でした。ご無事で何よりです」
うん、などとシリュウは頷いている。
そしてトウコは僕には何も言わない。何か言ってくれよ。
メリッサがテーブルの一つに僕たちを導き、四人で囲んだ。
簡単な料理が用意されている。
トウコが話の詳細を聞きたがったので、それを要点だけまとめて話した。そうすれば彼女は知りたいことを質問するだろう。
案の定、トウコはシリュウに、悪魔の剣術について尋ね始めた。シリュウは身ぶりを交えて、解説しているが、僕には理解できないことも多い。
自然と、メリッサと僕が会話をすることになった。
「上級悪魔と切り結ぶなんて、金輪際、やめてよね」
「僕だって好きでやったわけじゃないよ」思わず苦笑いしてしまう。「僕はシリュウみたいな前衛じゃない。しかし、よく死ななかったなぁ」
何度、思い返しても、ヨヨの一撃が僕の命を奪わなかったのは、奇跡としか言えない。シリュウが投げた剣が当たらなければ、そもそもシリュウにその力が残っていなかったら、僕は死んだだろう。
そしてきっと、シリュウも生きていない。
生き死にというのは、ちょっとしたことで変わるものなのだ。
実力、運、そういう要素は常に、複雑に絡み合っている。
「明日から少し出かけるけど、三日くらいで帰ってこられると思う」
「え? また? 少しは落ち着いたらいいじゃないの」
「まだ全部が終わったわけじゃないんだ。最後の仕上げがある」
メリッサがシリュウの方を見た。シリュウも気づいて、視線を返したが、二人とも何も言わないままだ。
こちらに向き直ったメリッサが、
「心配するのも馬鹿馬鹿しいわ」
と、不機嫌そうに言った。
しばらく食事とおしゃべりの後、お店の営業時間になったので、僕とシリュウは店を出た。
翌日、僕とシリュウはまたリーンを離れた。
行き先は、ゲレス村だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる