出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第五章 悪魔騎士団襲来編

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 リーンの街に戻り、僕とシリュウは連合軍の屯所に連れて行かれた。
 屯所と言っても街の中の砦で、空堀と塀に囲まれている。 
 僕は中に入ったのは今までに数度しかない。今回はかなり奥まで連れて行かれた。
 シリュウとは引き離され、一人で取り調べを受けた。もっと強烈な尋問のようなものを想像していたけど、僕からの聞き取りをした男は、軍人らしくない穏やかな中年だった。
 肉がたるんでいる顎をさすりつつ、事の経緯を尋ねられた。
 シリュウとは事前に打ち合わせしたけど、この段階では、何も偽らずに話す、と決めていた。
 僕は仕事で黒の領域へ行ったこと、そこで不足の事態で上級悪魔をシリュウが切ったこと、その後、上級悪魔の仲間がシリュウをつけ狙ったこと。街中で襲われ、次に黒の領域でも襲われたこと、ゲレスの村で最終的に決着がついたこと。そんなことを話した。
 取調官は、リーンの街で晒されていた死体について詳細を尋ねてきたけど、僕もシリュウもそれを実際には見ていない。サザだろう、とは思うけど、僕は明言を避けた。
 それは、サザが仲間に殺された、と思いたくないからかもしれない。
 それから二、三、質問をされて、僕は解放された。ただ、一日ほど屯所に留め置く、ということで、地下の牢獄に連れて行かれた。
 いくつか格子が並んでいるが、シリュウの姿はなかった。
 食事は結構、良いものが出た。布団もそれほどひどくない。ただ、時間がわからないのが不便だ。仕方ないので、適当に眠り、目覚めそうになっても自然と覚醒するまで、ウトウトし続けた。食事が運ばれてくる音で、やっと覚醒した。
 シリュウとは会えないまま、僕は釈放され、屯所を出た。
 外に出ると、メリッサが待ち構えていた。こちらを見て、目を丸くしている。僕は落ち着いて歩み寄った。
「この通り」両手を広げて見せる。「無事に帰ってきた」
「……このバカ」
 メリッサはそういうと、僕に抱きつき、少しじっとしてからすぐに離れた。きっと周りの視線に気づいたんだろう。
「シリュウさんより遅く釈放なんて、どうしたの?」
 その言葉に僕は思わず黙ってしまった。
「シリュウより、遅い? シリュウはもう釈放されたの?」
「そうよ。だから私があなたを待ち構えていたんじゃない」
 それもそうか。
 しかし、わからないな。
「そのシリュウはどこにいる?」
「知らないわよ、あんな人。部屋じゃないの?」
 不機嫌そうにメリッサが応じる、これはシリュウと何かあったな。
 僕はメリッサをなだめつつ、またお店に行くと言って、一人で部屋に向かった。
 中に入ると、床に布団を敷いて、シリュウが眠っていた。あまりのことに、僕はあっけにとられて、しばらく動けなかった。
 時間が経つと、自分たちがとりあえずは無事と分かって、安堵の念が湧き上がってきた。
 時間は昼間で、僕は軽く食事を作った。匂いを感じたのか、シリュウがむくりと起き上がる。
「なんだ、戻ったのか」
「それはこっちのセリフ。とりあえず、食事だ」
 料理を机に運ぶ頃には、シリュウも完全に目覚めていた。
「どういう取引をした?」
「不倒の剣を差し出した」
 なるほど。それなら、早く釈放されるはずだ。
「打ち合わせ通りに話したんだよね?」
「そうだ。指揮官殿の指示の通りに」
 僕たちは食事を平らげてから、二人でクルーゾーの店に出かけた。
 彼は僕たちを見ると嫌そうな顔をしたが、僕がまとまった金額を手渡すと、
「明日、雪が降ってもおかしくないな」
 と、言っていた。これで月賦の半分ほどは解消されたはずだ。
 この金はシリュウが連合軍から受け取ったものだった。上級悪魔を数体倒した、と報告したわけで、確認が完全ではないという理由で額を減らされたが、目撃者がいる場面もあったし、報奨金が出たわけだ。
 クルーゾーより先に砦で高利貸しから借りた金を返せたのは大きかった。クルーゾーはともかく、高利貸しからの利息は、首に縄が絡みついているようなものだ。それも時間が経つごとに確実に締まってくるような。
 僕とシリュウはサザの死体が晒されていた場所を確認した。すでにほとんど痕跡はないし、人も注目していない。
 僕はそこで手を合わせそうになったけど、どうにか自制した。
 二人でメリッサの家族が経営する軽食屋へ向かう。夕方になる前で、営業時間には少し早い。でもこの時間がメリッサの指定だった。
 中に入ると、彼女とトウコが待ち構えていた。
「先生」トウコが歩み寄ってきて、シリュウの前に立つ。「お疲れ様でした。ご無事で何よりです」
 うん、などとシリュウは頷いている。
 そしてトウコは僕には何も言わない。何か言ってくれよ。
 メリッサがテーブルの一つに僕たちを導き、四人で囲んだ。
 簡単な料理が用意されている。
 トウコが話の詳細を聞きたがったので、それを要点だけまとめて話した。そうすれば彼女は知りたいことを質問するだろう。
 案の定、トウコはシリュウに、悪魔の剣術について尋ね始めた。シリュウは身ぶりを交えて、解説しているが、僕には理解できないことも多い。
 自然と、メリッサと僕が会話をすることになった。
「上級悪魔と切り結ぶなんて、金輪際、やめてよね」
「僕だって好きでやったわけじゃないよ」思わず苦笑いしてしまう。「僕はシリュウみたいな前衛じゃない。しかし、よく死ななかったなぁ」
 何度、思い返しても、ヨヨの一撃が僕の命を奪わなかったのは、奇跡としか言えない。シリュウが投げた剣が当たらなければ、そもそもシリュウにその力が残っていなかったら、僕は死んだだろう。
 そしてきっと、シリュウも生きていない。
 生き死にというのは、ちょっとしたことで変わるものなのだ。
 実力、運、そういう要素は常に、複雑に絡み合っている。
「明日から少し出かけるけど、三日くらいで帰ってこられると思う」
「え? また? 少しは落ち着いたらいいじゃないの」
「まだ全部が終わったわけじゃないんだ。最後の仕上げがある」
 メリッサがシリュウの方を見た。シリュウも気づいて、視線を返したが、二人とも何も言わないままだ。
 こちらに向き直ったメリッサが、
「心配するのも馬鹿馬鹿しいわ」
 と、不機嫌そうに言った。
 しばらく食事とおしゃべりの後、お店の営業時間になったので、僕とシリュウは店を出た。
 翌日、僕とシリュウはまたリーンを離れた。
 行き先は、ゲレス村だ。


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