出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第五章 悪魔騎士団襲来編

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 ゲレス村の墓地で僕とシリュウは、ベラとヨヨの墓を確認した。
「さて、やるか」
 僕たちはスコップを手に、土を掘り始めた。
 それほど深く掘らずにそれを見つけることができた。引っ張り出して、土を払う。
「ここまでして、最後に取り上げられたら虚しいな」
 そう言いながら、シリュウがそれを眺める。
 その剣はベラが使っていた剣だった。
 連合軍に引っ張られることは予想できた。だから僕たちはこの剣を隠した。不倒の剣が再び人間のものになる、という事実が彼らの目を奪う、と予想したわけだ。
 結果、シリュウが提出した不倒の剣に連合軍は執着した。もう一本、ベラの剣として剣を提出したが、それは村人に秘密で、彼らの祀っている社にあった剣を拝借した。明らかに魔剣で、ただ、古すぎる。
 この御神体は、いつか、何かを返さないといけない。
 何にせよ、こうしてベラの剣は僕たちの持ち物になった。
「それで」シリュウが振り向いた。僕の背後を見ている。「生きていたのか」
 僕も振り返ると、そこにはサザが立っていた。
 驚きに声も出ない。しかしシリュウは平然としている。
「どういうことか、説明してほしいな」
「ベラ団長は」サザがこちらに歩を進める。「僕の除隊させました。シリュウ殿に拘ることを止める私を、許せなかったのでしょう。僕は彼らに、適当な悪魔を僕の死体と偽って晒しておけば、お二人が動くだろうと、最後に進言し、それを二人は実行したのでしょう」
 サザが僕たちのすぐ近くまで来て、足を止めた。
「葬っていただけたのですね。感謝します」
「黒の領域じゃなくてすまないがな」
「それでも、捨て置かれるよりは良い」
 軽く黙祷のようなことをしてから、サザはシリュウを見た。
「あなたはお強い。我が師が認めるだけはあります」
「俺は師だと思っちゃいない」
「じゃあ、なんだと?」
 この質問はシリュウには相当、厳しかったようで、彼は口をへの字にしてしばらく考え、
「俺はただの実験動物だな。あの悪魔は、俺がどうなるか、興味があるんだろう」
「それは私にもあります。我々、貴族階級の悪魔を一人で倒す人間は、今の世界では、そう多くはありません」
「戦場は一対一じゃないからな、一人が強くても、意味はない。悪魔も人海戦術で来ればいい」
 サザが微笑む。
「いい話を聞きました、では、そう上層部に進言しておきます」
「そうしてくれ」
 シリュウは手に持っていた剣を帯で背中に背負った。
「こいつはもらうぜ」
「こちらとしては大損失ですが、良いでしょう」サザはどこまでも寛容だ。「止水剣は貴重な一振りなんですよ。あれは皇族が持つ剣です」
 皇族、という言葉の差すところ、僕にはよくわからなかった。シリュウもわからないはずだけど、気にしていない。多分、貴族だろうと皇族だろうと、斬って捨てる、ということだろう。
 僕はその場を離れようとした、しかし、シリュウは動かない。
「穏やかじゃないな」
 そう言って、彼はサザを見ている。
 気付くと、サザの手が彼の剣の柄に触れている。
「私にも譲れないものがあるのです」
「もう終わりにしよう」シリュウの口調には感情がない。「無駄なことだ」
「形だけです」
 二人が同時に剣を抜いた。
 火花が散り、二人が飛び離れる。僕は慌てて距離をとった。
 シリュウとサザが向かい合い、動きを止める。シリュウは一本だけ剣を抜いていた。
「同門で戦う機会は珍しい」
 サザが微笑みながら、じりっと円を描くように移動。シリュウも合わせる。
「それも、人間の同門なんて、いないでしょうね」
 さらに二人が移動、半円が描かれ、二人の位置が完全に入れ替わった。日差しは弱い。風はかすか。
 シリュウが踏み込み、剣を振るう。
 サザも少しも遅れなかった。
 剣がぶつかり合い、そのままお互いに捻るような動き。
 お互いの剣を鍔元で絡ませつつ、二人が肩をぶつけるように近づいた。
「さすがに使いますね、八英雄!」
 無言のまま、シリュウがサザを押して、二人が離れる。
 シリュウの剣が飛燕の動き。無数の光の弧が描かれる。
 それに対して、サザは徹底した防御。シリュウの連撃を最小限の動きで防ぐ。
 それでいて下がるということはない、押し込もうとその場に留まり、逆にシリュウの方が間合いを自由にできない。
 手強い。
 何度か、シリュウはドザとの間で習得した間合いの欺瞞を繰り出しているが、サザはそれに乗る気配はない。むしろそこにつけこまれ、シリュウの方が危ない。
 サザはシリュウの動きを予測できる。しかしシリュウにはできない。
 何かで、打開する必要がある。
 僕が割り込むという選択肢もあるけど、それは考えていなかった。
 今は、サザは一人きりで戦っている。つまり、彼は悪魔の例の流儀を実行している。
 この戦いは、一対一であることが、絶対だ。
 そしてシリュウもそれを望んでいる。そう感じた。
 二人の間に間合いができた。
「ベラ殿の剣、散華剣を使ってもいいのですよ」
 シリュウはニヤリと笑うと、「遠慮していたんだ」と言って、ついにベラの剣を抜いた。
 二刀を同時に使うところを、僕は見たことがない。でも経験はあるようだった。
 シリュウがまっすぐに飛び出した。サザも迎え撃つ。
 嵐のような攻撃だった。
 シリュウは二本の剣を全く苦にせず、振るい続けた。
 完全にコントロールして、計算された、緻密な、攻撃。
 それでいて、暴風のように、容赦ない。
 サザが押され始めた。滑るように後退していく。しかしシリュウは間合いを作らせない。
 そのシリュウの膝が、がくりと崩れる。片方の剣が地面に食い込んだ。
 サザがそこを攻めない理由はない。一瞬で姿勢を整え、シリュウに剣を突き出した。
 二人の動きが止まった。
 シリュウは顔を背けて、剣を避けているがサザの剣は首筋に触れている。
 一方、サザも背を逸らしているが、喉元にシリュウの剣の切っ先があった。
 二人はそのまま動かなかったが、何かの同意でもあったかのように剣を引いて、下がった。
「素晴らしい腕ですね、シリュウさん」
「ドザの弟子だけはある」
 二人で褒め合っている。
 いったい何なんだ? さっきまで切り結んでいたのに。
 僕が呆れている前で、二人とも剣を鞘に戻した。
「僕は報告する義務があります、どう書いたらいいですか?」
 そうサザに聞かれたシリュウは少し考え、
「人間を甘く見るな、でいいんじゃないか?」
「あなたのことをどう書いたらいいか、その点は?」
「そうだな」
 シリュウは短い逡巡の後、
「人としては使う」
 と、答えた。
 サザは頷いてから、僕の方を見た。
「なぜ見ていたのですか? あなたがヨヨ殿に止めを刺したのは知っています」
 なんだ、知られていたのか。
「一対一が望みだと……」
「人間の割に、悪魔と呼ぶ存在の意志を尊重するのですか?」
「そういうことになるね」
 サザがこちらへ歩み寄ってくる。そして微笑んだ。
「あなたがヨヨ殿を倒した、ということは報告しないでおきます。あなたには荷が重いでしょうから」
 そう言われてから、もしかしたら自分も悪魔に付け狙われるのかも知れない、という可能性に行き当たった。
 僕はサザに何度も頷いた。彼は苦笑しながら、安心してください、と言った。
 僕はシリュウとは違う、ちょっとしたことでも死ぬし、上級悪魔と渡り合うなんて、まっぴらごめんだ。命がいくつあっても足りない、とはこういう時に言うべき言葉だろう。
「それでは、僕はそろそろ、帰ることにします。お二人と出会えてよかった」
「サザさん」僕は思わず尋ねていた。「あなたは何の罰も受けないのですか?」
「そのことですが、すぐに出奔しようと思っています。我が師が野に下り、自由に生きるように、私もそうしたいと今では思っています」
 それは、また。僕はどう応じるべきか、わからなかった。
「命だけは大事にしたほうがいいぞ」
 僕の困惑をよそに、シリュウは平然とサザに告げた。
 サザは頭を下げると、またどこかで、と言って、その姿が霞んだと思うけど、何の痕跡も残さずに消え去った。まるで煙が風に吹かれたようだった。
 シリュウがやっと息を吐いて、肩の力を抜いたのがわかった。
「俺たちも帰るとするか」
 いつの間にか、日が傾きかけていて、雲の隙間から、西の稜線に日が落ちようとしているのが覗いていた。




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