転生少女は元に戻りたい

余暇善伽

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第53話

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 アルコーズ王立学校に入学して二ヶ月が過ぎ、季節は春から初夏となり制服も冬服から夏服となった。
 冬服に比べて生地が薄く風通しはいいのだが、ボディラインが見えるし周りからの目が余計に増えた気がする。
 生活面では良くも悪くも変化は少なく、冒険者としての新しい知識を手に入れる反面、ロバートの取り巻き達との睨み合いも解消されないままだ。
 ロバートも寂しそうにしているし、何か対策を打ちたいがその対策が見えてこない悶々とした日々を過ごしている。
 「それではアスカさん、冒険者に剣士が多い理由って分かりますか?」
 「はい、少数で密接した陣形を取りがちな冒険者において、長物や飛び道具は味方を巻き込む可能性が高くなる為です。また、戦闘相手がそもそも人間ではなかったり狭い場所での戦闘も多い為、長物や飛び道具の有利を活かせないからです」
 「はい、良くできました。得手不得手はありますが、やはり基本は取り回しが良い武器に行き尽きがちなのが冒険者の性です。では次、隣のジン君、冒険者の重装備が推奨されていない理由は分かりますか?」
 教壇では相変わらず小柄なサーシャが胸元を汚しながら必死に板書し、たまに生徒たちに質問を投げかけている。当てた際の手で丸を作ったりバツを作ったりする仕草が相変わらず子供っぽい。
 「重装備には金も維持費もかかるし、そもそも頻繁に長距離を移動する冒険者には重装備自体が不向きだからだ。騎士達のように威厳や所属を表す必要も無いし、隠密行動にも差し障る。相手が人間じゃなければ鎧を着込んでいるからと言って攻撃を防げるとも限らない。総じてメリットよりデメリットが勝る」
 「はい、良くできました。これも好みがありますが重装備だと移動しにくかったり、そもそも敵の攻撃も斬撃や銃撃以外のものも多いので避ける前提の軽装の人が多いです」
 サーシャが締めると丁度良く鐘が鳴り響き、午前の授業が終わりを迎える。
 「それでは今日の座学はここまでになります。皆さんしっかり復習しておいてくださいね」
 言い終わるとサーシャは教室を後にし、教室には活気が戻ってくる。
 「さて、混む前に飯に行くか」
 「そうだね、広いテーブルが空いてると良いけど」
 二ヶ月も経つと仁への冷たい目も解け、最近は普通に男友達も出来たようだが食事は今も僕達と一緒に摂っている。仁の男友達とも食事を摂ったりしたが、あまり大所帯になるとお店に迷惑だからと控えることにした。
 早々にいつもの五人で集まり、青い屋根の飲食店へと向かう。赤い屋根の食堂にも何度か行ってみたのだが、人や量が多いし清潔感もイマイチなため仁とカンナ以外には不評だったのでもっぱらこっちに通っている。
 食事を済ませ、昼休憩を堪能すると昼からはグラウンドでのトレーニングが行われる。最近は入試の時のように区分けし、武器を持って一対一の訓練なども入ってきて少し張り合いが出てきた。
 「今日こそウチが勝つからね」
 「僕だってまだまだ負けたりはしないよ」
 サーシャの開始の合図で僕とクローディア二人一斉に髪を靡かせながら距離を詰め、木剣と木刀がぶつかり合う高い音が響く。
 実戦形式の訓練が始まれば当然カンナやクローディアと手合わせする機会も出てくるが、結果は身体能力強化魔法を使った僕の方が強かった。使わなければ丁度互角か、若干僕が弱いくらいだろう。
 と言うか、男子を含めてみても僕に勝てる子は今のところいない。
 木と木がぶつかり合う高い音と共に幾度か斬り結ぶと、身体能力強化魔法を使った僕との膂力差でクローディアに隙ができる。
 「もらった!」
 その隙を突いた一撃にクローディアが短い悲鳴あげると共に、その手から木刀が弾き飛ばされると周囲から歓声が上がる。
 「あんたまた魔法で自己強化したっしょ!」
 「ごめんね、僕も生まれ持った物を使っただけだから」
 悔しがるクローディアを横目に礼を済ませ区分けされたリングを降り、一足先に観戦に戻る。
 その後訓練が終わると解散となり、相変わらずへばってるカンナを更衣室まで担ぎ込み着替え終えて三人とはそこで別れ、仁と合流しグラウンドが良く見える近くの茶店に向かう。
 「待ってたよ二人とも、今日も頑張ってたね」
 そこにはロバートが待っており、しばらく談笑するのが僕達の大体のルーティンになっている。
 腰巾着達がいつもそれを苦虫を噛み潰したような顔で見ているのだが、今日はそれだけではなかった。
 「クロト・クロフォードの名において命ずる、お前達は今後ロバート様に近寄ってはならん」
 黒髪の少年クロトが悠然とこちらへと歩いてきて、踏ん反り返利気味に僕達に通達する。一体彼のどこにその権利があると言うのだろうか。
 「クロト君、どうしたの急にそんなこと言って」
 「クロト様だと言っているだろう愚民、何度言ったら分かる」
 「それでクロトサマ、一体お前のどこに俺たちがロバートと会うのを禁止する権限があるって言うんだ?」
 「決まっているだろう?俺が貴族でお前達が平民だからだ」
 良く分からない理屈で偉そうに踏ん反り返っているが、その理屈で言うならロバートは貴族だからロバートが会いに行くのを止めることはできないのではないか?
 「困るよクロト君、どうしたの突然」
 「突然も何も、私は前々からこの二人はロバート様に相応しくないと申し上げていたではないですか。それなのにロバート様が言うことをお聞きにならないからこうするしか無いのです」
 「随分勝手な物言いじゃないかクロトサマ、せめてロバートにくらい許可を取ったらどうだ?」
 「黙れ平民、貴様達に何が分かる」
 僕と仁の発言は平民だからを理由にクロト君に一蹴されてしまう。なんか変だな、元々気位が高かったし貴族意識も高かったけどここまで横暴ではなかったと思うんだけど。
 「もういい加減にしてよ。大体勝手に着いて来られるのだって迷惑なのに、その上僕の友人まで馬鹿にするなんて」
 「お言葉ですがロバート様、ご友人は選ぶべきかと。このような口の利き方も知らない下賤な者達とご友人など品位を疑われてしまいます」
 「二人は友達だって言ってるでしょ、それをさっきから愚民だ下賤だって。いくら貴族でも言って良い事と悪い事があるよ!」
 流石のロバートも色々我慢の限界だったのだろう、珍しく顔を赤くして捲し立てる。
 「まぁまぁロバート落ち着いて、僕達は何言われても良いからさ」
 「二人が良くても、友達をここまで虚仮にされちゃボクが黙ってられないよ」
 仲介に入るもなおいがみ合う二人。ロバートの気持ちは嬉しいが、店内でこれ以上騒ぐのは目立つので止めて欲しい。でもこれで頑固だから言い始めたらこちらの話を聞きはしないしどうしたものか。
 解決策は二つ。一つ目は一旦クロトの言うことを聞いてほとぼりが冷めるのを待つ方法。しかし、これは今のロバートの様子を見るに難しいだろう。
 二つ目はあまり取りたくないがロバートより先にクロトの喧嘩を買う方法。今日のクロトの様子が明らかに変なのは恐らく喧嘩を売りに来ているのだろう。ならば、ロバートより先に僕達がそれを買ってしまえばこの場は落ち着くはずだ。なんか嫌な予感はするけど。
 色々考えたが他に策はない、本当はあまり取りたくは無かったけどここは大人の対応をするとしよう。
 「分かった、そこまで言うのなら決闘で決着を着けよう」
 この学校には生徒間での暗黙のルールが存在する。それが決闘だ。男子ならネクタイを、女子ならばタイを叩きつけるのがその合図とされ、それを拾えば合意となる。要はロバートの時の手袋がわりなのだろう。
 主に揉め事を解決するための手段として用いられ、騎士科や貴族科だけでなく商業系の学科の生徒なんかもしたりするらしい。
 「ほう?俺がクロフォード家の者だと知ってなお決闘を持ち出すのか」
 どこまでも愚かな奴らだと僕達の前で初めてクロトが笑うが、その小刻みに肩を揺らす笑い方はどうにも小物くさい。
 「大丈夫アスカ、こんなんだけどクロト君結構腕が立つよ?」
 「分からないけどいつまでも着いてこられてもロバートも迷惑でしょ、この辺でキッチリしておいた方がいいと思うんだ」
 クロフォードの名前自体はボルドーの授業で聞いたことがあるが、主に武勲で辺境伯まで登り詰めた家柄だったはずだ。恐らく彼の自信もそこに由来しているのだろう。
 「良いだろう、生まれの違いと言うやつをたっぷり教えてやる」
 そう言いながらクロトがネクタイを外し、床に叩きつける。これを拾えば決闘に合意したことになる訳だ。
 一拍おいて僕がそれを拾い、クロトへ返すと今まで黙っていた周りから歓声が上がる。
 「決闘は明日午後五時グラウンドでだ。逃げるなよ?」
 精々最後の一時を楽しみたまえと言うだけ言ってクロトは満足げに去っていく。
 「よかったのか?あんな安請け合いして。ありゃ絶対裏があるぞ」
 「僕もそう思う。でもどうせ何か手を打たないととは思ってたし、色々ハッキリして丁度良いんじゃない?」
 もしかしたら負けるかもしれないが、何もしなくてもこの調子じゃいずれロバートとは会えなくなるだろうし、それなら何かやってみた方が良い。
 それより、また飲食店で騒ぎを起こしてしまったことの方が恥ずかしい。
 「ごめんね、厄介ごとに巻き込んじゃって」
 「ロバートが謝ることじゃないよ、僕が勝手に買った喧嘩だからさ」
 それに腐っても冒険者科の人間なんだ、貴族科の子に腕っぷしで負ける訳にはいかない。
 クロトとは明日決着をつけよう。
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