巫女の仕事は楽じゃない!?

翠恋 暁

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神主のお仕事?

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「こ、こんなに材料がそろっている……」
 前に来た時はすっからかんだった冷蔵庫にはあふれんばかりの食材が詰まっている。一体何があったのだろう、彼女は自分から進んで買い物に行かない。あるものでどうにかしるしないならないままという生活スタイルだったはずだ。
「ってこの前来た時は買い出し前だったらしいからの」
 鈴蘭が買い出しをしている状況がいまいち想像できないのはこの際おいておくことにする。
 しかし見たことのないような材料もある。
 少し実験も兼ねて試作するのもいいかもしれない。
「あの、サンドイッチを作ったら食べてもらえますか? どんなものなのかっていう試食みたいな感じですけど……」
「もちろん食べさせてもらうのじゃ。お主の料理は菊に負けないくらい美味しいからの、たとえ試食でもなんでも食べるぞ」
「流石に菊さんに負けないっていうのは買い被り過ぎだと思いますよ」
 料理も掃除も洗濯も超一流、何をやらせても玄人《くろうと》レベルという従者の鏡のような人。それが女神様の従者、菊さんだ。
「ふふ、照れているのかの。可愛いの、これは鈴蘭《すずらん》がああなるのも分からんでもない」
「女神様までああならないでくださいよ」
 女神様までああなってはいよいよ収集がつかなくなる。
 10分程でサンドイッチとスープ作り終えた。きっと材料が良かったのだろう、とてもいい出来上がりとなった。というか過去一番のできかもしれない。
「うむ、やっぱり美味しいのじゃ」
 と、女神様の太鼓判を頂いたサンドイッチを冷蔵庫にしまい鈴蘭に食べるように促しておく、そこはかとなく屋敷を掃除をしたのちに女神様の瞬間移動によって再び神社へと帰ってきたのが夕暮れ、すっかり日は傾きというか今にも沈みそうな頃である。
「その後ろの光輪、なんか暗くなってきてません?」
「ん、そうじゃな。そろそろ日も沈むからの。いわんかったかの、妾の力は太陽によって変わるのじゃ」
 初耳である。ということは夜は弱体化するということだろうか。
「そういうことじゃ」
 なんだかんだ言っても女神様でも弱点はあるということだ。
「……というか結局、私は何をしにあそこに行ったんですか?」
 鈴蘭の膝枕をして、家事をこなしてきたという記憶しかない。
「ふむ、あれは警告じゃな。あんな地球外もいいところなものが出てきたから今後気おつけてくれ、ということじゃろ」
 確かに持ち主から何らかの形で接触があるかもしれない。だだ純粋に忠告だけならばよかったのだけれど、きっと別の目的があってさらにはそっちのほうが主な目的ではないだろうかと思う。だって接触があるとすれば私ではなくあの球体を持っている鈴蘭自身にコンタクトがあるだけで知りもしない私達には影響はないはずなのだから……あれ? そうすると私はとんでもないことに巻き込まれたのではないだろうか。
「……まぁ、それだけお主に会いたかったのじゃろうな。こうでもしないとお主はあの竹林に足を運ばんじゃろ」
「そんなことは……あるかもしれませんけど」
 とても嫌な予感がする。本当に何もないといいにだけれど……。
 そもそもそんなに会いたいのなら鈴蘭から会いに来ればいいのに。いやでも今回のような厄介ごとは流石に勘弁して欲しいけれど。
「ふむ?   向こうから会いに来るのは別に構わないのか?」
「特に、これと言って問題も無いですから……まぁ、流石に抱きついてくるのとかは止めて欲しいというか抱きついてきたら躊躇《ちゅうちょ》なく警察に引き渡しますけど」
 そこら辺は鈴蘭に常識があることを願う事にする。
「ならばあやつにそう伝えておくのじゃ、しかし変じゃな。鈴蘭はこの神社に行くことは出来ない、と言っていた気がしたのだが……お主が来るなと言ったのではないのか?」
「いいえ、そんなことは」
 私はそんなことは言っていない、別に特段断る理由もないのだから。というか確かに今思えば不自然でしかない。私が行くたびにあんなにもべったりしてくるにも関わらず彼女と出会ってから彼女がこの神社に訪れたことが一度もないというのは。
「まぁ、それはまた今度聞いてみるのじゃ。それよりも、わらわのことも名前で呼んでほしいのじゃ」
「唐突ですね。どうしてまたこのタイミングで?」
 今までそんなことを言われたことはなかった。
「わ、妾以外にも女神はおるのじゃ。それに妾はお主に名前で呼ばれたいのじゃ」
 珍しいことがあるものだ。女神様が私にお願いらしい頼みをするのは初めてではないだろうか。というか神様が一般人に願うというのは大丈夫なのだろうか。
「……分かりました。けれど1つ、条件があります。代わりと言っては何ですが私のこともお主ではなく花撫と呼んでください」
「うむ。分かったのじゃ、花撫」
 そうしてとても嬉しそうに微笑むのだ。
「あっ、そうじゃ。妾も様はいらんからの。むしろ鈴蘭のようにアマちゃんでも構わん」
「いえ、流石にそれは厳しいです。私はアマテラスと呼ばしてもらいますね」
 やはり神様に対して様をつけないというのは気が引けるが本人の頼みなのだし、何より彼女が頑固なのはよくわかっている。一度決めたらことを成し遂げるまで決して諦めない。
「うむ、とりあえず今日はこれで帰ることにするのじゃ。それとちかじか宴会を開くつもりじゃ、それとなく準備をしといての」
 そう言って最後まで満面の笑みで帰っていった。
「というか宴会ってどういうこと……」
 春とは言えどまだまだ日は短い。少し肌寒い風が吹き抜ける。
「……夕飯作らないと」
 それに今日のこともしっかり謝らないといけない。仕事をサボった挙句こんな時間まで帰って来なかったのだからきっと怒っているよね。
 恐る恐る玄関まで向かう、こういう時に裏口があったらなと心底思うのだ。
「あの、今日はすいませんでした」
 神主は思った通り玄関の前に仁王立ちをしていた。いつものように長い説教があると思ったのだけれど……。
「あぁ、問題ないよ。花撫の代わりに女神様の従者さんがやってくれたし、ご飯も作っていってくれたし……とりあえず今日はもう寝るよ」
 なぜだろう、物凄く元気がない。それにいつもアマテラスのことを女神様なんて呼ばない、何やら相当疲れているようだ。
「あ、あとお帰り」
 神主は振り向きざまに笑顔でそう言った。その笑顔がすごく不気味である。
「た、ただいまです……」
 なにかの依頼でもきたのだろうか。そういうのは普段私がやっているから、迷惑をかけてしまったのかもしれない。
 というかここでずっと私が帰って来るのを待っていたのだろうか、そんなことを考えながら靴を脱ぐ。
「あ、あの……」
 しかし、声をかけたときには神主はとっくに自分の部屋へと消えてしまっていた。
「花撫様。今日のご報告を致します」
 やはり今日は背後からよく話しかけられる。
 振り返ると腰まである長い黒髪を後ろで束ねた碧眼のメイドが立っていた。
「お願いします」
 彼女がアマテラスの従者でかなり謎が多い女性、菊である。
 というかなぜこんなにもメイド服が似合っているのだろう。何の違和感もなくピッタリとはまっている。最近まで彼女は和服だったと思うのだけど……イメチェンだろうか。
 わけがわからず心の中で首をかしげる。
「あぁ、これはアマテラス様が最近アニメにハマった影響です」
「……菊さんも考えていることが読めるんですか?」
「いえ、あそこまでまじまじと見つめられていますといやでも……」
 どうやら思っていたよりも長い時間眺めてしまっていたようだ。というかアマテラスもアニメを観るんですね……
「それで、報告をしますと屋根に破損箇所がいくつかあったので神主様にもご協力いただき修繕しておきました。それとカレーを作っておきましたのでよろしければお食べください、その他はとくにありません」
 本当になんでも出来る、だからこそアマテラスの従者がつとまるのだろうけれど。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ、これが仕事ですので。それと花撫様、差し出がましいのですがこれからもアマテラス様をお願い致します。花撫様にお会いになってから毎日とても楽しそうなのです」
 本当に主人思いの優しい従者である、アマテラスをこんなにいい従者を持っているなんて羨ましい限りである。
「私はいつまでも一緒にいるつもりですよ」
「感謝申し上げます。では失礼いたします」
 そうして瞬間移動を使って帰っていった。
 あれ、結局神主はなんであんなに疲れていたんだろう。すっかり聞き忘れていた。それに菊さんは何も無かったって言っていたし、明日本人に聞けばいいのだろうか。流石に屋根数ヶ所の修理で疲れるわけない……と思うのだけれど。
「でもとりあえず今はカレーを食べよう!」
 まさか言ってたそばから菊さんの料理が食べられるというのは本当についている。本当に冗談抜きで絶品なのだ、普通にお店で出せるくらいというか下手するとお店で出るものよりもおいしい。
 なんだかんだあった一日だけど終わり良ければ総て良し。
 そうだよね。

 ***

「それで昨日はどうしたんですか?」
 一夜明けた食卓で昨日の疑問をぶつけてみる。
「あぁ、昨日屋根の修理をしたわけさ。それも母屋と本堂の両方とも、何度も材木を抱えて階段を上り下りそれが予想以上にきつかったってわけ」
 まさかのまさかだった。そうではないと思いたかったのだけれど現実はそんなに甘くない。
「お、お疲れ様です……」
 とは言っても普段から運動していればもう少し動けるようになるのではないだろうか。と思うけれどきっとそれは言わない方がいいことだろう。
「あ、そんなことよりも気を付けた方がいいぞ」
 急に真剣な顔になりそう告げる。
「何に気を付けるんですか?」
「最近な、この神社の周辺で変なやつを見かけるんだ。だから十分に注意してくれ」
「は、はぁ、気を付けます」
 しかしいつどこでもそういう人はいるものだな。それにしても神社周辺を変な目的でうろうろ徘徊しているというのは罰当たりもいいところである。気を付けろと言われている手前自分から動くということはできないのだけれど、どうにかしてお灸を据えたいものだ。
 それにしても、なんで神社周辺なのだろうか。言っちゃ悪いけれど駅とか人が多いほうが活動しやすいのではないだろうか、そう言う人達は。
 ともあれそんなことを考えていても何も始まらない。
「それよりも昨日はすいませんでした」
「気にしなくていいよ。それに女神自ら出てこられたらね」
 かなわないよ、と苦笑いをこぼした。
 
 そうしていつものように参道を掃除していた時だった。
「花撫、すぐそこで人が襲われたのじゃ」
 こちらもいつものように背後に音もなく、しかも風を起こして登場するのだった。
「あぁぁ、せっかく集めたのに……は?」
 今、とんでもないことが聞こえた気がする。
「す、すまんのじゃ。ってそうではなくの、本当に目と鼻の先じゃ。住宅地で人が切り付けられたのじゃ」
 切り付けられた? まさか最近徘徊しているという変質者だろうか。にしても住宅地でとは随分とおおちゃくなことをするものである。それに目と鼻の先とは言ってもここからは10分程度はある。まぁ、だとしてもこんな昼間から穏やかではない。
「死人はでたんですか?」
「でておらんのじゃが、少しまずい事態になっておるのじゃ」
 まず死人が出ていないというので一安心だ。でも一体まずい事態とは何なのだ。不安をかきたてる要素しかない。
「それで、まずい事態って?」
「うむ、切り付けられたと言ったじゃろ。被害者によると切り付けられたのは刀のような物だったそうじゃ」
 刀のような物……それを振り回しているというなら確かにまずい事態だけれども話を聞く限りそういうわけでもなさそうだ。しかし犯人はまだ捕まってない状況なのだろう。まぁ、そんなにすぐに捕まるはずもないがそこは警察に任せておけばどうにかなるのではないだろうか。なんせこの時代に刀を所有しているというのは限られたごく少数であるということ。ならば捕まるのも時間の問題ではないだろうか。
「違うのじゃ、問題なのはそこではない。被害者の記憶を覗いたのじゃが確かに刀で切り付けられておった。しかし警察はその犯人を捕まえられないのじゃ」
「どういうことですか?」
 なんで切られたことが分かっていて捕まえられないのだろう。だって何で切られたのかとか被害者の証言とかがわかれば……。
「犯人は人間ではないのじゃ」
 そこに追い打ちをかけるように衝撃の事実が突き付けられた。
「……は?」

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