群青の部屋

Moma

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「では、私も手伝おう」

そう言って、ザイオンは必ず一緒にキッチンに立ち、細々とした作業を手伝ってくれる。まるで俺の料理の助手のように。
二人で他愛のない会話を交わしながら料理を作り、隣り合って食べ合う。たったそれだけのことなのに、俺にとっては癒される、大切な時間になりつつあった。

「シェズ…毎日のように食事を作って貰ってしまっているので、グローサリーの代金を払いたいと思う」

食後、思いがけない申し出に、俺は少し考え込む。確かに、一人分の食事を作るのと二人分では手間は変わらない。しかし材料費となると話は別だ。

「では、こうしたらどうでしょう。毎月食費として6万ギル俺が用意します。その内半分は部屋代としてザイオンが受け取る3万ギル、残り半分は俺の食費として3万ギル。余った時は折半し、足りなければ出し合う…という形でどうですか?」

「それではシェズの負担が大きくは無いか?仕事から帰って作るだけでも大変だと思うが…」

「いえ、料理をする事は全く苦ではないんです。それにザイオンが手伝ってくれるし、お皿洗いも引き受けてくれるし…。あ、でも買い出しだけは、ザイオンの手が空いている時に付き合って貰えると助かります。俺、高位の魔導士じゃないので転移魔法とか使えないんですよね。ちょっと多めに買うと持ち帰るの大変で…」

「分かった。買い出しはいつでも言ってくれ。荷物持ちとしてお供しよう」

知的イケメンを従えて、ワンピースに身を包んだ俺が食材を抱え街を闊歩する姿を想像して、思わずくすりと笑ってしまった。一緒に買い物に行けば、ザイオンの好みも分かるし、荷物も持ってもらえる。これは良いこと尽くしだ…週末が楽しみになった。

* * *

共同生活が始まってから2か月近くが経過する。毎日学園で仕事をし、夜はザイオンと過ごす時間が増えていた。とは言え、増えると言っても、食事を共にし今日の出来事を話す、愚痴を聞いてもらう、チェスをする、リビングで二人まったり本を読む…程よい距離感での生活だ。

その日の仕事を終え、足りない食材を少し買い足して帰宅すると、リビングには見慣れない大き目の箱が置かれていた。ザイオンの姿は見えない。珍しいな…と思いながら、自室で家着に着替える。
入居してから可愛い家着をいくつか購入していたので、可愛い服を着る欲求は十分に満たされていた。しかもザイオンは毎回”可愛い、良く似合ってる”と褒めてくれる。自分の容姿はそこまで可愛い訳ではないことは承知しているが、彼の言葉は素直に心に入ってくる。

晩御飯の下準備を終えた頃、階段を上る足音が聞こえる。

「おかえりなさい、ザイオン。もうすぐご飯出来るよ?」

出迎えると、彼は手に持っていた書物をバサバサと床に落としてしまった。

「シェズ…その服は……」

「一度着てみたかったんだ、ニーハイ。俺、脚に自信あるからこんな服も似合うんじゃないかなって…ね、ほら、本拾わないとページ折れちゃう」

俺は落ちた書物を拾いテーブルに置く。文字は見慣れない外国語で、翻訳の仕事がまた忙しくなるのか…と少し寂しい気持ちになる。

「ザイオン?」

彼は難しい顔で、じっと俺の脚を見つめている。姿見で確認した時は、オーバーサイズの薄手ニットとよく合っていたと思うんだけど…。

「その服装で出かけたり、その…するんだろうか?」

「変…かな?ザイオン的には無しな感じ?」

「変では無い…変では無いんだが…家の中だけでは駄目だろうか」

やはり男の俺にとってはハードルが高かったか、と内心がっかりする。家の中だけなら、ザイオンしか見ていないからギリギリOKってことなんだろう。

「あ…い、いや、家の中なら毎日着用しても問題無い。だからそんなにしょんぼりしないでくれ」

「ううん、大丈夫。じゃあ家の中だけは遠慮なく好きな服着ちゃうね!さあ、ご飯作るの手伝ってくれる?俺、お腹減っちゃった」

落ち込んだ気持ちは表に出さないようにしてたんだけど。それより慌てて俺を慰めようとする困り顔のザイオンの姿が可愛らしくて、思わずクスリと小さく笑ってしまった。
今日のメニューはアボカドサラダとニョッキ。サラダの盛り付けはザイオンに任せ、俺はニョッキを茹で、ソースと絡める。
カウンターテーブルにサラダを並べたザイオンが、リビングで見つけた箱の中から流線形の瓶を手に取った。

「ザイオン、それは何?」

「一年に一度だけ発売される、私の地元の酒だ。友人に翻訳資料を頼んだら、偶然手に入ったから送ってくれた。美しい形の瓶だから、飲み終わった後も飾っておける。シェズは明日休みだろう?偶には一緒に飲まないか?」

「希少なお酒じゃない?お酒の味もよく分からない俺でいいのかな」

「一人で飲むより、一緒に飲んでくれた方が私は嬉しい」

「そう?じゃあ、お言葉に甘えて…」

* * *

「んふふふふ…ザイオン、未だ女の子と付き合ったことないの?」

実際、酒はすごく美味しく飲みやすく、酔いもあって気分はふわふわ。楽しくて、普段は聞けないこともたくさん聞けた気がする。あんまり覚えてないけど…。

「出会いのチャンスが無かったのと、女性とあまり関わる事が無かったから、未だにどう扱っていいか分からない。シェズはその様子だと?」

「うん、俺はたーーーくさんの子と付き合ってる。向こうから告ってくる癖に、すぐにフラれちゃうんだよ。酷くない?俺のこと好きって言ってたのに、なんか違うとか、やっぱり無理とか…フラれる理由もよく分からないことばかり!」

「たくさん…か…」

ザイオンはグラスを一気に傾け、再び注ぐ。

「まあ、俺も断る理由が無いってだけで付き合っちゃってたから…特に好きだった子はいないんだよね。デートもお買い物やスイーツ巡りばかり。楽しかったけど…」

ふへへっと笑いながら、俺もちびちびとお酒を舐める。
俺はこの辺りまではまだ記憶がちゃんと残っているんだけれど…。

そして、気づいたら朝になっててザイオンの腕の中にいたってワケ。

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