爆走☆UMADORU

こおえい

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第1章

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 俺が「シュンライ」として馬房に押し込められてから、もう3日が経った。
 最初はパニックのあまり、壁に頭を打ちつけそうになったり、寝藁をめちゃくちゃに散らかしたりと、散々な目に遭った。いや、遭わせた、と言うべきか。厩務員のおじさんたちが困った顔で俺を見ていたのが印象的だ。きっと「なんて手のかかる新入りだ」と思われているに違いない。人間だった頃はどちらかといえば手のかからない優等生だったはずなのに、馬になった途端これか。
 そして、この神之守かみのもりホース学園 には、俺以外にも元人間の馬がいることが判明した。
 それが、隣の馬房にいる黒い馬「ラセツ」と、向かいの馬房の白い馬「ユキ」だ。
「おい、シュンライ!まだ慣れねぇのか、この身体に!」
 ラセツが鼻を鳴らして問いかけてくる。その声は、俺の耳にはハッキリと「野太い男の声」として聞こえる。ラセツは元々、松木ラセツ諒まつき らせつ りょうという名の高校生だったらしい。見るからにヤンキー上がりのような強面で、馬になってもその威圧感は健在だ。
「慣れるわけないだろ!いきなり馬とか意味わかんねぇし!スマホも触れねぇし、ゲームもできないし、どうすんだよこれ!」
 俺がそうまくし立てると、「ヒヒーン!」という情けない声が響いた。ラセツには俺の心の叫びが聞こえているのに、人間の厩務員や生徒たちにはただの馬の鳴き声にしか聞こえない。この理不尽さ、誰かにわかってほしい。
「仕方ねぇだろ、転生モンはみんな通る道だ。それより、お前の担当はイケメンの生徒会長様らしいじゃねぇか。なかなかやり手じゃねぇか、お前」
 ラセツがニヤニヤとからかってくる。確かに、俺の担当になった岩井玲司いわい れいじは絵に描いたような美青年だ。生徒会長で成績優秀、馬術も完璧らしい。人間だった頃の俺だったら、遠巻きに眺めて終わるような高嶺の花だ。それが今や、俺の世話係だなんて。
「ラセツは誰が担当なんだ?」
「俺は、あの脳筋野郎だよ。金本剛かねもと ごうとか言ったか?いつも汗臭ぇんだよな」
 ラセツの言う「脳筋野郎」とは、背が高く筋肉質な体格のごうのことだろう。確かに、彼はいつも元気いっぱいで、ラセツの馬房を訪れると「よっしゃラセツ!今日も元気に暴れようぜ!」と叫びながら、やたらと頭を撫でてくる。ラセツはいつも嫌そうにしているが、ごうが離れるとどこか寂しそうにしているのを知っている。
「ユキの担当は、あの可憐なお嬢様よね?」
 馬房の向かいから、鈴のような声が聞こえてきた。ユキ、元・白石雪しらいし ゆきは、元々はお嬢様学校のマドンナ的存在だったらしい。真っ白な毛並みが彼女の気品を際立たせている。
「ええ、大倉琴音おおくら ことね様よ。本当に可愛らしい方で……ああ、私のこの姿が憎い!人間だったら今すぐ抱きしめているのに!」
 ユキは興奮したように嘶く。彼女の言う「お嬢様」とは、柔らかな笑顔が印象的な琴音ことねのことだ。琴音ことねはユキの毛並みを優しくブラシで整えながら、「ユキちゃん、本当に可愛いわねぇ。今日も一段と綺麗よ」などと話しかけている。ユキは琴音ことねの言葉にうっとりしながら、馬の姿で琴音の顔に頬をすり寄せようとする。しかし、単語ことね琴音はそれを愛馬の愛情表現として受け取っているだけで、ユキの熱い思いには全く気づいていないようだ。
「……切ねぇな、お前ら」
 俺は思わずそう呟いた。この学園では、馬になった俺たちの言葉は人間には伝わらない。それが一番のコメディであり、一番の悲劇だ。

 そんな3日目の昼下がり。馬房の前に、聞き慣れない足音が止まった。
「失礼。君が、噂のシュンライ君か」
 声の主は、学園の制服をクールに着こなした、すらりとした人物だった。短く刈り込んだ黒髪、中性的な顔立ちに、切れ長の瞳。その表情は、まるで凍てついた湖面のように冷静で、感情を読み取れない。
「私は望月里央もちづき りお。この学園で、唯一の女性騎手を目指す者だ」
 その言葉に、俺は息をのんだ。女性騎手?しかも、この端正な顔立ちで?いや、俺、玲司れいじのことまだ何もアプローチできてねぇのに、ここにきていきなりBLだけじゃなくて百合展開も本格化するのかよ!?
 隣のラセツは「なんだ、新入りか」と興味なさげに鼻を鳴らしているが、向かいのユキは凍り付いたように立ち尽くしている。その真っ白な身体が、微かに震えているのが見えた。
「ま、まさか……里央りお先輩……?」
 ユキが震える声で呟いた。ああ、そうか。ユキが憧れていた先輩って、この人だったのか。
 望月里央もちづき りおは、俺たち3頭をじっと見つめる。そして、その透き通るような瞳が、俺の眼に強く向けられた。
「面白い目をしてるな、シュンライ。君は、走るために生まれてきた目だ」
 里央りおはそう言って、俺のたてがみに軽く触れた。その手は、冷たいように見えて、どこか熱い。
「君には、計り知れない可能性がある。私に、その力を引き出させてくれないか?」
 有無を言わさぬ、しかしどこか引き込まれるような声だった。
 俺はまだ、自分の身に何が起こっているのか、この学園がどんな場所なのか、完全に理解しているわけじゃない。けれど、この瞬間、俺の馬生が、一筋縄ではいかない運命をたどることを、直感的に悟ったのだった。
 そして、隣の馬房から聞こえるラセツの「ヒヒーン!(かっこつけやがって!)」という呆れたような鳴き声と、ユキの「ヒヒヒーン!(里央りお先輩が私を見てる!)」という興奮したような鳴き声が、俺の混乱に拍車をかけた。
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