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第2章
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俺の馬生、いや、シュンライとしての学園生活は、想像以上にドタバタと、そして意外なほどに順調に進んでいた。
岩井玲司は、噂通りの完璧なホースマンだった。俺の担当調教は、玲司によって徹底的に管理された。朝の運動から始まり、厩舎での手入れ、軽い調教、そして夜の馬房での餌やりと、玲司は寸分の狂いもなく俺と向き合った。
「シュンライ、今日の走りも素晴らしかったよ。君は本当に賢い馬だ」
玲司が俺の首筋を優しく撫でる。その手つきは繊細で、思わず身を委ねたくなるような心地よさだった。人間だった頃の俺なら、間違いなく顔を赤くしていただろう。だが、今の俺は馬。喜びを表現したくても、「ヒヒーン!」と高らかに鳴くのが精一杯だ。もちろん、玲司には「喜んでくれてるんだね」と、とんちんかんな解釈をされるだけだ。
くそ、もどかしい!このイケメンの好意を、馬として受け取ることしかできないなんて!
隣の馬房からは、ラセツの呆れたような鼻息が聞こえてくる。
「お前も大概チョロいな、シュンライ。あんなイケメンに優しくされたら、馬の俺でもキュンとくるぜ」
「あんたも金本剛に首筋撫でられてデレてんだろうが!」
「うるせぇ!あれは男と男の絆ってもんだ!」
俺たちが馬語で罵り合っていると、向かいの馬房からユキの興奮した声が聞こえてきた。
「琴音様ぁ!今日もお美しいわ!ああ、この蹄であなたの手を握れたら……!」
大倉琴音がユキのたてがみに花を飾って遊んでいる。ユキは身悶えながら、琴音に全身を預けていた。本当に切羽詰まってるのはユキだよな。百合の相手は人間なのに、馬の姿じゃ限界がある。
そんな日常の中で、俺たちの調教風景を興味深げに観察する一人の人物がいた。望月里央だ。
「シュンライ、もっと腰を落とせ。重心がブレている」
「馬にそんな高度な指導をされても……」
口には出せないが、里央の指示は的確だった。彼女は、まるで俺たちの内側を見透かすかのように、馬としての動きの癖や、力を最大限に引き出す方法を理解していた。里央が乗る馬は、どんなに荒っぽい馬でも、まるで手足のように動く。その騎乗技術は、玲司も舌を巻くほどだ。
「里央先輩、今日もお美しい……!」
ユキは里央の姿を見るたび、瞳を輝かせている。琴音への百合的な感情と、里央への憧れが入り混じっているようで、見ていて飽きない。里央が通りかかると、ユキはわざとらしいほど優雅に首を振り、美しい毛並みをアピールしていた。里央は「ユキも熱心だな」と、涼しい顔でユキの頭を撫でるだけだが。
そんなある日のことだった。
学園内のトレーニングコースで、奇妙な事故が相次いだ。
「今日の練習中に、2頭の馬が突然暴走したらしい」
ラセツが馬語で情報をもたらした。学園の厩務員たちの会話を盗み聞きしたらしい。
「しかも、その馬たちは普段は大人しいって評判だったらしいぜ」
「暴走?何かの病気か?」
俺が首を傾げると、ユキが真剣な顔になった。
「いいえ。もしかしたら、私たち転生馬が関わっているのかもしれません」
ユキはそう言って、遠くを見つめる。彼女の瞳の奥には、どこか憂いを帯びた光が宿っていた。
その日の夜、玲司が俺の馬房を訪れた。いつも通りの手入れを終え、玲司は少し沈んだ表情で俺のたてがみを梳いた。
「実は、最近学園内で馬が暴走する事故が続いているんだ。原因は不明で、皆不安がっている」
玲司の声は、いつもより重かった。
「馬たちが心の闇を抱えているのかもしれない。俺は、君たちの心を理解したい。君たちの苦しみを、少しでも和らげたいんだ」
玲司はそう言って、俺の顔に頬を寄せた。その優しい眼差しに、俺の胸は締め付けられた。
玲司は、俺たちが人間だと知らずに、それでも真剣に俺たちの心を理解しようとしている。この温かい気持ちに、俺は馬として、どう応えればいいんだろう。
そして、その日の夜。
俺たちの馬房の周りを、何者かが徘徊している気配がした。ひそひそと交わされる人間の声。闇に溶け込むような、不気味な影。
「おい、シュンライ。なんか嫌な予感がするぜ」
ラセツが低い声で呟いた。ユキも恐怖に震えている。
学園に忍び寄る謎の影。それは、単なる事故ではない。俺たち転生馬の存在と、無関係ではないのかもしれない。
俺たちの馬生は、ただのドタバタコメディでは終わらないらしい。
岩井玲司は、噂通りの完璧なホースマンだった。俺の担当調教は、玲司によって徹底的に管理された。朝の運動から始まり、厩舎での手入れ、軽い調教、そして夜の馬房での餌やりと、玲司は寸分の狂いもなく俺と向き合った。
「シュンライ、今日の走りも素晴らしかったよ。君は本当に賢い馬だ」
玲司が俺の首筋を優しく撫でる。その手つきは繊細で、思わず身を委ねたくなるような心地よさだった。人間だった頃の俺なら、間違いなく顔を赤くしていただろう。だが、今の俺は馬。喜びを表現したくても、「ヒヒーン!」と高らかに鳴くのが精一杯だ。もちろん、玲司には「喜んでくれてるんだね」と、とんちんかんな解釈をされるだけだ。
くそ、もどかしい!このイケメンの好意を、馬として受け取ることしかできないなんて!
隣の馬房からは、ラセツの呆れたような鼻息が聞こえてくる。
「お前も大概チョロいな、シュンライ。あんなイケメンに優しくされたら、馬の俺でもキュンとくるぜ」
「あんたも金本剛に首筋撫でられてデレてんだろうが!」
「うるせぇ!あれは男と男の絆ってもんだ!」
俺たちが馬語で罵り合っていると、向かいの馬房からユキの興奮した声が聞こえてきた。
「琴音様ぁ!今日もお美しいわ!ああ、この蹄であなたの手を握れたら……!」
大倉琴音がユキのたてがみに花を飾って遊んでいる。ユキは身悶えながら、琴音に全身を預けていた。本当に切羽詰まってるのはユキだよな。百合の相手は人間なのに、馬の姿じゃ限界がある。
そんな日常の中で、俺たちの調教風景を興味深げに観察する一人の人物がいた。望月里央だ。
「シュンライ、もっと腰を落とせ。重心がブレている」
「馬にそんな高度な指導をされても……」
口には出せないが、里央の指示は的確だった。彼女は、まるで俺たちの内側を見透かすかのように、馬としての動きの癖や、力を最大限に引き出す方法を理解していた。里央が乗る馬は、どんなに荒っぽい馬でも、まるで手足のように動く。その騎乗技術は、玲司も舌を巻くほどだ。
「里央先輩、今日もお美しい……!」
ユキは里央の姿を見るたび、瞳を輝かせている。琴音への百合的な感情と、里央への憧れが入り混じっているようで、見ていて飽きない。里央が通りかかると、ユキはわざとらしいほど優雅に首を振り、美しい毛並みをアピールしていた。里央は「ユキも熱心だな」と、涼しい顔でユキの頭を撫でるだけだが。
そんなある日のことだった。
学園内のトレーニングコースで、奇妙な事故が相次いだ。
「今日の練習中に、2頭の馬が突然暴走したらしい」
ラセツが馬語で情報をもたらした。学園の厩務員たちの会話を盗み聞きしたらしい。
「しかも、その馬たちは普段は大人しいって評判だったらしいぜ」
「暴走?何かの病気か?」
俺が首を傾げると、ユキが真剣な顔になった。
「いいえ。もしかしたら、私たち転生馬が関わっているのかもしれません」
ユキはそう言って、遠くを見つめる。彼女の瞳の奥には、どこか憂いを帯びた光が宿っていた。
その日の夜、玲司が俺の馬房を訪れた。いつも通りの手入れを終え、玲司は少し沈んだ表情で俺のたてがみを梳いた。
「実は、最近学園内で馬が暴走する事故が続いているんだ。原因は不明で、皆不安がっている」
玲司の声は、いつもより重かった。
「馬たちが心の闇を抱えているのかもしれない。俺は、君たちの心を理解したい。君たちの苦しみを、少しでも和らげたいんだ」
玲司はそう言って、俺の顔に頬を寄せた。その優しい眼差しに、俺の胸は締め付けられた。
玲司は、俺たちが人間だと知らずに、それでも真剣に俺たちの心を理解しようとしている。この温かい気持ちに、俺は馬として、どう応えればいいんだろう。
そして、その日の夜。
俺たちの馬房の周りを、何者かが徘徊している気配がした。ひそひそと交わされる人間の声。闇に溶け込むような、不気味な影。
「おい、シュンライ。なんか嫌な予感がするぜ」
ラセツが低い声で呟いた。ユキも恐怖に震えている。
学園に忍び寄る謎の影。それは、単なる事故ではない。俺たち転生馬の存在と、無関係ではないのかもしれない。
俺たちの馬生は、ただのドタバタコメディでは終わらないらしい。
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