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第5章
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副理事長の悪行が白日の下に晒された瞬間、厩舎は一瞬の静寂に包まれた。だが、その静寂を破ったのは、玲司の怒りの声だった。
「馬を、道具だと?ふざけるな!」
玲司は俺の背から飛び降りると、副理事長に真っ直ぐ向かっていく。剛もラセツと共に、獣のような唸り声を上げて副理事長の部下たちを牽制した。琴音はユキを庇うように立ち、その小さな体で凛と副理事長を睨みつけている。そして、里央はすでに、最も暴れていた一頭の馬を落ち着かせ、そのたてがみを優しく撫でていた。
「この学園は、馬を愛し、共に未来を築くための場所だ!あなたのような者に、穢させるものか!」
玲司の言葉は、俺たち転生馬の心にも響いた。俺たちは馬語で叫んだ。「そうだ!」「お前なんか許さない!」「玲司、頑張れ!」
もちろん、人間たちには「ヒヒーン!」と「ブルルル!」という声しか聞こえていない。だが、俺たちの気持ちは、確かに玲司に届いているようだった。玲司は、俺たちの頭を一度ずつ撫でると、毅然とした表情で副理事長に向き合った。
副理事長は舌打ちをすると、部下たちに命じた。「構わん、全員捕らえろ!特にあの白い馬は、まだ使えるはずだ!」
部下たちが一斉に襲いかかってきた。玲司は俺の背に再び飛び乗り、俺は玲司を乗せて厩舎内を駆け抜ける。ラセツと剛は、体格差を活かして部下たちを押し返し、ユキと琴音は、ユキの放つ白い光で馬たちの興奮を完全に鎮めていく。里央は、驚くべきことに、その場で動けないラセツを庇うように立ち、迫りくる部下の一人を鮮やかな体術でいなした。
「里央先輩、強い!」
ユキの感動したような馬語が聞こえる。里央の行動に、ユキの琴音への百合的感情が、里央への憧れへと完全にシフトした瞬間だった。
しかし、多勢に無勢。俺たちは徐々に追い詰められていく。その時、厩舎の入口から、一台の車が猛スピードで突っ込んできた。
「何事だ、この騒ぎは!」
車から降りてきたのは、この神之守ホース学園の理事長だった。彼の背後には、数人の警備員もいる。
「理事長!これは……」
副理事長が慌てて言い訳をしようとしたが、理事長は冷たい目で遮った。
「全て聞かせてもらったぞ、お前の悪行は。こんな卑劣な真似を許すわけにはいかん!」
理事長は、俺たち転生馬の存在を知っていた。そして、副理事長の企みも、ある程度察していたらしい。理事長は警備員に指示を出し、副理事長とその部下たちはあっという間に取り押さえられた。
夜が明け、騒動は収束した。学園の馬たちは保護され、副理事長は連行された。俺たち転生馬は、改めて自分たちの身に起きた「勘違い転生」の真実を知らされた。
「つまり、俺たちは、人間として未熟だから、馬になってやり直せってことか?」
俺が馬語で尋ねると、理事長は静かに頷いた。その目には、どこかユーモラスな光が宿っていた。
「君たちは、前世で何かと未熟な点があったようだね。ある意味、神様からの課題といったところか」
ラセツは「ふざけんな!」と怒鳴ったが、ユキは「これも運命ですわ」とどこか達観した表情だった。
そして、理事長は続けた。
「君たちが人間として戻る道は、一つだけ。来たる神之守杯で、最高のパフォーマンスを見せることだ」
神之守杯。学園最大のレース。それが、俺たちが人間に戻るための、最後の試練であり、最大のチャンスだった。
数日後、神之守杯の開催が決定した。学園の危機を乗り越え、俺たち転生馬と人間側のパートナーたちの絆は、以前にも増して強固になっていた。
「シュンライ、いよいよだな」
玲司が俺のたてがみを撫でる。その手は、迷いなく、そして温かかった。俺は玲司の瞳をまっすぐ見つめ、「任せろ!」と心の中で叫んだ。
ラセツも、剛と共に厳しいトレーニングに励んでいた。「てめぇ、俺が人間になったら覚えてろよ!」と、剛に馬語で言い放つが、剛は「なんだよラセツ、今日はやけに気合入ってるな!」と笑うばかりだ。だが、二人の間には、確かに信頼の絆が芽生えていた。
ユキは、琴音との練習中も、常に里央の姿を追っていた。
「琴音様、申し訳ありません……里央先輩のオーラが眩しすぎて……」
ユキの百合的視線は、完全に里央に集中していた。琴音はそれに気づいているのかいないのか、「ユキちゃんたら、里央先輩が大好きなのね」と微笑むだけだ。里央もまた、ユキの熱い視線を感じ取っているのか、時折ユキの方へ目をやり、微かに口元を緩めていた。
レース当日。
神之守ホース学園の特設レース場には、多くの観客が詰めかけていた。俺はゲートインを待つ間、玲司の背中で深呼吸した。
「シュンライ、信じてるよ」
玲司の声が、俺の耳に響く。俺も、玲司を信じている。この馬の体で、玲司と一体になって走る。それが、今の俺の全てだ。
ゲートが開く。
一斉に駆け出す競走馬たち。俺は玲司の指示に従い、完璧なスタートを切った。横にはラセツと剛が並び、その少し前にはユキナと琴音、そして里央が乗る馬が先行している。
これは、ただのレースじゃない。俺たちが人間としての自分を取り戻すための、そして、大切な仲間たちとの絆を証明するための、奇跡のレースだ。
さあ、爆走しよう。俺たちの恋と友情と、そして大転生の物語が、今、最終章へと向かっていく。
「馬を、道具だと?ふざけるな!」
玲司は俺の背から飛び降りると、副理事長に真っ直ぐ向かっていく。剛もラセツと共に、獣のような唸り声を上げて副理事長の部下たちを牽制した。琴音はユキを庇うように立ち、その小さな体で凛と副理事長を睨みつけている。そして、里央はすでに、最も暴れていた一頭の馬を落ち着かせ、そのたてがみを優しく撫でていた。
「この学園は、馬を愛し、共に未来を築くための場所だ!あなたのような者に、穢させるものか!」
玲司の言葉は、俺たち転生馬の心にも響いた。俺たちは馬語で叫んだ。「そうだ!」「お前なんか許さない!」「玲司、頑張れ!」
もちろん、人間たちには「ヒヒーン!」と「ブルルル!」という声しか聞こえていない。だが、俺たちの気持ちは、確かに玲司に届いているようだった。玲司は、俺たちの頭を一度ずつ撫でると、毅然とした表情で副理事長に向き合った。
副理事長は舌打ちをすると、部下たちに命じた。「構わん、全員捕らえろ!特にあの白い馬は、まだ使えるはずだ!」
部下たちが一斉に襲いかかってきた。玲司は俺の背に再び飛び乗り、俺は玲司を乗せて厩舎内を駆け抜ける。ラセツと剛は、体格差を活かして部下たちを押し返し、ユキと琴音は、ユキの放つ白い光で馬たちの興奮を完全に鎮めていく。里央は、驚くべきことに、その場で動けないラセツを庇うように立ち、迫りくる部下の一人を鮮やかな体術でいなした。
「里央先輩、強い!」
ユキの感動したような馬語が聞こえる。里央の行動に、ユキの琴音への百合的感情が、里央への憧れへと完全にシフトした瞬間だった。
しかし、多勢に無勢。俺たちは徐々に追い詰められていく。その時、厩舎の入口から、一台の車が猛スピードで突っ込んできた。
「何事だ、この騒ぎは!」
車から降りてきたのは、この神之守ホース学園の理事長だった。彼の背後には、数人の警備員もいる。
「理事長!これは……」
副理事長が慌てて言い訳をしようとしたが、理事長は冷たい目で遮った。
「全て聞かせてもらったぞ、お前の悪行は。こんな卑劣な真似を許すわけにはいかん!」
理事長は、俺たち転生馬の存在を知っていた。そして、副理事長の企みも、ある程度察していたらしい。理事長は警備員に指示を出し、副理事長とその部下たちはあっという間に取り押さえられた。
夜が明け、騒動は収束した。学園の馬たちは保護され、副理事長は連行された。俺たち転生馬は、改めて自分たちの身に起きた「勘違い転生」の真実を知らされた。
「つまり、俺たちは、人間として未熟だから、馬になってやり直せってことか?」
俺が馬語で尋ねると、理事長は静かに頷いた。その目には、どこかユーモラスな光が宿っていた。
「君たちは、前世で何かと未熟な点があったようだね。ある意味、神様からの課題といったところか」
ラセツは「ふざけんな!」と怒鳴ったが、ユキは「これも運命ですわ」とどこか達観した表情だった。
そして、理事長は続けた。
「君たちが人間として戻る道は、一つだけ。来たる神之守杯で、最高のパフォーマンスを見せることだ」
神之守杯。学園最大のレース。それが、俺たちが人間に戻るための、最後の試練であり、最大のチャンスだった。
数日後、神之守杯の開催が決定した。学園の危機を乗り越え、俺たち転生馬と人間側のパートナーたちの絆は、以前にも増して強固になっていた。
「シュンライ、いよいよだな」
玲司が俺のたてがみを撫でる。その手は、迷いなく、そして温かかった。俺は玲司の瞳をまっすぐ見つめ、「任せろ!」と心の中で叫んだ。
ラセツも、剛と共に厳しいトレーニングに励んでいた。「てめぇ、俺が人間になったら覚えてろよ!」と、剛に馬語で言い放つが、剛は「なんだよラセツ、今日はやけに気合入ってるな!」と笑うばかりだ。だが、二人の間には、確かに信頼の絆が芽生えていた。
ユキは、琴音との練習中も、常に里央の姿を追っていた。
「琴音様、申し訳ありません……里央先輩のオーラが眩しすぎて……」
ユキの百合的視線は、完全に里央に集中していた。琴音はそれに気づいているのかいないのか、「ユキちゃんたら、里央先輩が大好きなのね」と微笑むだけだ。里央もまた、ユキの熱い視線を感じ取っているのか、時折ユキの方へ目をやり、微かに口元を緩めていた。
レース当日。
神之守ホース学園の特設レース場には、多くの観客が詰めかけていた。俺はゲートインを待つ間、玲司の背中で深呼吸した。
「シュンライ、信じてるよ」
玲司の声が、俺の耳に響く。俺も、玲司を信じている。この馬の体で、玲司と一体になって走る。それが、今の俺の全てだ。
ゲートが開く。
一斉に駆け出す競走馬たち。俺は玲司の指示に従い、完璧なスタートを切った。横にはラセツと剛が並び、その少し前にはユキナと琴音、そして里央が乗る馬が先行している。
これは、ただのレースじゃない。俺たちが人間としての自分を取り戻すための、そして、大切な仲間たちとの絆を証明するための、奇跡のレースだ。
さあ、爆走しよう。俺たちの恋と友情と、そして大転生の物語が、今、最終章へと向かっていく。
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