37 / 43
ホーリッツ魔道具店
しおりを挟む
私がここに何をしに来たのかは簡単だ。アイリスの身を守るための魔道具を作ってもらうためである。今後何があるかわからない以上、アイリスの身の安全にはどれだけ気を遣っても足りないくらいだ。
あ、ちなみに魔道具は不思議な力を持った道具全般のこと。
ポーションやら、魔術効果のある武具やら、特殊なところでは聖女が力を籠める対魔物用の武器“聖具”もその一種だ。
“ホーリッツ魔道具店”。
目の前の看板にはそう書かれている。
ミリーリアの記憶によれば、既存の魔道具を買うなら他の店でもいいけど、新しい魔道具をオーダーメイドで作ってもらう場合はこの“ホーリッツ魔道具店”が最適なんだとか。
私がアイリス用に依頼しようとしているのは個人用の結界みたいなもの。そんな魔道具は既存のものではないはずなので、訪ねるのはこの店で合っている。
というわけで、いざ店の中へ。
店内はいかにも魔道具のお店という感じで、薄暗く、埃っぽい。棚には得体のしれない液体が詰まった瓶やら髑髏型の燭台なんかが置かれている。
バルは少し眉をひそめたけど、私はちょっと感動した。すごくファンタジーっぽい……!
「……いらっしゃい」
奥から痩せ気味の年老いた男性がやってきた。店主のホーリッツだ。これもミリーリアの記憶にあるから間違いない。
「よく見たら、ミリーリア様じゃないか。何の用だ」
うん、このぼそぼと喋る感じ。やっぱりこの人が凄腕魔道具職人のホーリッツである。
「こんにちは、ホーリッツ。あなたに魔道具作成の依頼をしたいの」
「ほう、どんなものを?」
「個人用の結界を作り出すようなものがほしいわ。費用はいくらかかっても構わない。できるかしら?」
「できるともいえるし、できないともいえる」
「……?」
「儂の利き手は、ろくに動かなくなってしまった。話を聞いて魔道具の作り方のアテはつくが、いかんせん腕がない。これでは作りようがないのう。もっと簡単にできるものなら依頼を受けてもよかったが」
ホーリッツはつまらなさそうに言う。よく見ると、皮手袋に包まれた右手はさっきからまったく動いていない。
「何かあったの? まさか、魔物に襲われたとか?」
このホーリッツは変わりもので、魔道具の素材になる薬草な魔物の素材を自ら集めに行くことがある。やめたほうがいいと周りに言われつつも、新たな魔道具の可能性を模索するためにそれをやめようとしないのだ。
ホーリッツは頷いた。
「……ご名答だ。フッ、まさかあんな魔物がいるとはな。やつの毒のせいで、儂の右手はもうまともに動かん」
「毒……? それなら、解毒のポーションで治せばいいじゃない!」
「その魔物の毒は、今までにない特殊な成分が含まれていたらしくてな。普通の解毒ポーションじゃまったく効果がない」
そんな……! 魔道具に詳しいホーリッツでも解毒できないなんて……!
「まさか森蜘蛛の突然変異だなんてな……残念だ。俺はもっと……作りたい魔道具がたくさんあったのにな……」
天を仰いで言うホーリッツ。その瞳には、悔しさからか涙が滲んでいるように見えた。偏屈な魔道具職人として知られるホーリッツは、ただ純粋なだけ。ただ魔道具を作ることに対して真摯なだけで――
え?
「ホーリッツ、右手を出してくれる?」
「ん? ああ」
→ 浄化
「よし、これで大丈夫ね。あとは街の治療院に行けば対応した解毒ポーションを作ってもらえるはずよ」
「儂の腕が治っとるぅううううううううううううううううううううう!?」
目を飛び出させんばかりに驚くホーリッツ。
いやー、まさかホーリッツの右手をむしばんでいた毒が森蜘蛛の突然変異種のものとは。フォードが討伐する前は王都近くの森に大量発生していたらしいので、おそらくその時に森に入って噛まれたんだろう。
本格的にガブリとやられたら、以前治療した騎士のように重体になっていたはずなので、ホーリッツはおそらくちょっと森蜘蛛の牙に引っかかれたというところかしら。
「ど、どうなってるんだ。まさか腕が動くようになるなんて……! ミリーリア様は聖女の力を失ったのではないのか?」
「まったくなくなったわけではないわよ。それに、同じ毒を以前三人まとめて解毒したことがあるわ。今回は一人だし、浄化の対象である毒も少ないし、何とかなったわね。でも、きちんと治療院でそれ用の解毒ポーションはもらってきたほうがいいわ。私の“浄化”は以前よりずっと衰えているから」
「はぁー……聖女でなくなっても、ミリーリア様はミリーリア様ということだな。まさかこうもあっさり治療されてしまうとは……」
「たまたまよ」
「それでも、その偶然に感謝を! ああ、これで儂はまだ魔道具を作り続けることができる!」
そう言ってホーリッツは涙ながらに喜んだ。……まあ、無事ならいいんだけど。
ホーリッツは私からの依頼をきっちり受けてくれた。完成したら屋敷に報せを出してくれるそうなので、私はそれを待つことにしよう。
あ、ちなみに魔道具は不思議な力を持った道具全般のこと。
ポーションやら、魔術効果のある武具やら、特殊なところでは聖女が力を籠める対魔物用の武器“聖具”もその一種だ。
“ホーリッツ魔道具店”。
目の前の看板にはそう書かれている。
ミリーリアの記憶によれば、既存の魔道具を買うなら他の店でもいいけど、新しい魔道具をオーダーメイドで作ってもらう場合はこの“ホーリッツ魔道具店”が最適なんだとか。
私がアイリス用に依頼しようとしているのは個人用の結界みたいなもの。そんな魔道具は既存のものではないはずなので、訪ねるのはこの店で合っている。
というわけで、いざ店の中へ。
店内はいかにも魔道具のお店という感じで、薄暗く、埃っぽい。棚には得体のしれない液体が詰まった瓶やら髑髏型の燭台なんかが置かれている。
バルは少し眉をひそめたけど、私はちょっと感動した。すごくファンタジーっぽい……!
「……いらっしゃい」
奥から痩せ気味の年老いた男性がやってきた。店主のホーリッツだ。これもミリーリアの記憶にあるから間違いない。
「よく見たら、ミリーリア様じゃないか。何の用だ」
うん、このぼそぼと喋る感じ。やっぱりこの人が凄腕魔道具職人のホーリッツである。
「こんにちは、ホーリッツ。あなたに魔道具作成の依頼をしたいの」
「ほう、どんなものを?」
「個人用の結界を作り出すようなものがほしいわ。費用はいくらかかっても構わない。できるかしら?」
「できるともいえるし、できないともいえる」
「……?」
「儂の利き手は、ろくに動かなくなってしまった。話を聞いて魔道具の作り方のアテはつくが、いかんせん腕がない。これでは作りようがないのう。もっと簡単にできるものなら依頼を受けてもよかったが」
ホーリッツはつまらなさそうに言う。よく見ると、皮手袋に包まれた右手はさっきからまったく動いていない。
「何かあったの? まさか、魔物に襲われたとか?」
このホーリッツは変わりもので、魔道具の素材になる薬草な魔物の素材を自ら集めに行くことがある。やめたほうがいいと周りに言われつつも、新たな魔道具の可能性を模索するためにそれをやめようとしないのだ。
ホーリッツは頷いた。
「……ご名答だ。フッ、まさかあんな魔物がいるとはな。やつの毒のせいで、儂の右手はもうまともに動かん」
「毒……? それなら、解毒のポーションで治せばいいじゃない!」
「その魔物の毒は、今までにない特殊な成分が含まれていたらしくてな。普通の解毒ポーションじゃまったく効果がない」
そんな……! 魔道具に詳しいホーリッツでも解毒できないなんて……!
「まさか森蜘蛛の突然変異だなんてな……残念だ。俺はもっと……作りたい魔道具がたくさんあったのにな……」
天を仰いで言うホーリッツ。その瞳には、悔しさからか涙が滲んでいるように見えた。偏屈な魔道具職人として知られるホーリッツは、ただ純粋なだけ。ただ魔道具を作ることに対して真摯なだけで――
え?
「ホーリッツ、右手を出してくれる?」
「ん? ああ」
→ 浄化
「よし、これで大丈夫ね。あとは街の治療院に行けば対応した解毒ポーションを作ってもらえるはずよ」
「儂の腕が治っとるぅううううううううううううううううううううう!?」
目を飛び出させんばかりに驚くホーリッツ。
いやー、まさかホーリッツの右手をむしばんでいた毒が森蜘蛛の突然変異種のものとは。フォードが討伐する前は王都近くの森に大量発生していたらしいので、おそらくその時に森に入って噛まれたんだろう。
本格的にガブリとやられたら、以前治療した騎士のように重体になっていたはずなので、ホーリッツはおそらくちょっと森蜘蛛の牙に引っかかれたというところかしら。
「ど、どうなってるんだ。まさか腕が動くようになるなんて……! ミリーリア様は聖女の力を失ったのではないのか?」
「まったくなくなったわけではないわよ。それに、同じ毒を以前三人まとめて解毒したことがあるわ。今回は一人だし、浄化の対象である毒も少ないし、何とかなったわね。でも、きちんと治療院でそれ用の解毒ポーションはもらってきたほうがいいわ。私の“浄化”は以前よりずっと衰えているから」
「はぁー……聖女でなくなっても、ミリーリア様はミリーリア様ということだな。まさかこうもあっさり治療されてしまうとは……」
「たまたまよ」
「それでも、その偶然に感謝を! ああ、これで儂はまだ魔道具を作り続けることができる!」
そう言ってホーリッツは涙ながらに喜んだ。……まあ、無事ならいいんだけど。
ホーリッツは私からの依頼をきっちり受けてくれた。完成したら屋敷に報せを出してくれるそうなので、私はそれを待つことにしよう。
19
あなたにおすすめの小説
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる