【リメイク版連載開始しました】悪役聖女の教育係に転生しました。このままだと十年後に死ぬようです……

ヒツキノドカ

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ホーリッツ魔道具店

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 私がここに何をしに来たのかは簡単だ。アイリスの身を守るための魔道具を作ってもらうためである。今後何があるかわからない以上、アイリスの身の安全にはどれだけ気を遣っても足りないくらいだ。

 あ、ちなみに魔道具は不思議な力を持った道具全般のこと。
 ポーションやら、魔術効果のある武具やら、特殊なところでは聖女が力を籠める対魔物用の武器“聖具”もその一種だ。

 “ホーリッツ魔道具店”。
 目の前の看板にはそう書かれている。

 ミリーリアの記憶によれば、既存の魔道具を買うなら他の店でもいいけど、新しい魔道具をオーダーメイドで作ってもらう場合はこの“ホーリッツ魔道具店”が最適なんだとか。
 私がアイリス用に依頼しようとしているのは個人用の結界みたいなもの。そんな魔道具は既存のものではないはずなので、訪ねるのはこの店で合っている。

 というわけで、いざ店の中へ。
 店内はいかにも魔道具のお店という感じで、薄暗く、埃っぽい。棚には得体のしれない液体が詰まった瓶やら髑髏型の燭台なんかが置かれている。
 バルは少し眉をひそめたけど、私はちょっと感動した。すごくファンタジーっぽい……!

「……いらっしゃい」

 奥から痩せ気味の年老いた男性がやってきた。店主のホーリッツだ。これもミリーリアの記憶にあるから間違いない。

「よく見たら、ミリーリア様じゃないか。何の用だ」

 うん、このぼそぼと喋る感じ。やっぱりこの人が凄腕魔道具職人のホーリッツである。

「こんにちは、ホーリッツ。あなたに魔道具作成の依頼をしたいの」


「ほう、どんなものを?」

「個人用の結界を作り出すようなものがほしいわ。費用はいくらかかっても構わない。できるかしら?」

「できるともいえるし、できないともいえる」

「……?」

「儂の利き手は、ろくに動かなくなってしまった。話を聞いて魔道具の作り方のアテはつくが、いかんせん腕がない。これでは作りようがないのう。もっと簡単にできるものなら依頼を受けてもよかったが」

 ホーリッツはつまらなさそうに言う。よく見ると、皮手袋に包まれた右手はさっきからまったく動いていない。

「何かあったの? まさか、魔物に襲われたとか?」

 このホーリッツは変わりもので、魔道具の素材になる薬草な魔物の素材を自ら集めに行くことがある。やめたほうがいいと周りに言われつつも、新たな魔道具の可能性を模索するためにそれをやめようとしないのだ。
 ホーリッツは頷いた。

「……ご名答だ。フッ、まさかあんな魔物がいるとはな。やつの毒のせいで、儂の右手はもうまともに動かん」

「毒……? それなら、解毒のポーションで治せばいいじゃない!」

「その魔物の毒は、今までにない特殊な成分が含まれていたらしくてな。普通の解毒ポーションじゃまったく効果がない」

 そんな……! 魔道具に詳しいホーリッツでも解毒できないなんて……!

「まさか森蜘蛛の突然変異だなんてな……残念だ。俺はもっと……作りたい魔道具がたくさんあったのにな……」

 天を仰いで言うホーリッツ。その瞳には、悔しさからか涙が滲んでいるように見えた。偏屈な魔道具職人として知られるホーリッツは、ただ純粋なだけ。ただ魔道具を作ることに対して真摯なだけで――
 え?

「ホーリッツ、右手を出してくれる?」

「ん? ああ」


 → 浄化


「よし、これで大丈夫ね。あとは街の治療院に行けば対応した解毒ポーションを作ってもらえるはずよ」

「儂の腕が治っとるぅううううううううううううううううううううう!?」

 目を飛び出させんばかりに驚くホーリッツ。

 いやー、まさかホーリッツの右手をむしばんでいた毒が森蜘蛛の突然変異種のものとは。フォードが討伐する前は王都近くの森に大量発生していたらしいので、おそらくその時に森に入って噛まれたんだろう。
 本格的にガブリとやられたら、以前治療した騎士のように重体になっていたはずなので、ホーリッツはおそらくちょっと森蜘蛛の牙に引っかかれたというところかしら。

「ど、どうなってるんだ。まさか腕が動くようになるなんて……! ミリーリア様は聖女の力を失ったのではないのか?」

「まったくなくなったわけではないわよ。それに、同じ毒を以前三人まとめて解毒したことがあるわ。今回は一人だし、浄化の対象である毒も少ないし、何とかなったわね。でも、きちんと治療院でそれ用の解毒ポーションはもらってきたほうがいいわ。私の“浄化”は以前よりずっと衰えているから」

「はぁー……聖女でなくなっても、ミリーリア様はミリーリア様ということだな。まさかこうもあっさり治療されてしまうとは……」

「たまたまよ」

「それでも、その偶然に感謝を! ああ、これで儂はまだ魔道具を作り続けることができる!」

 そう言ってホーリッツは涙ながらに喜んだ。……まあ、無事ならいいんだけど。

 ホーリッツは私からの依頼をきっちり受けてくれた。完成したら屋敷に報せを出してくれるそうなので、私はそれを待つことにしよう。
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