どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ

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傍受魔術

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『おい……見ろよあれ……』

『魔物が喋ってる……!? いや、まさか神獣様か……!? 実際に見たのは初めてだ……!』


 すさまじく注目を目立つ中、その視線の先にいるフェニ公はばくばくと皿に載った料理をむさぼっている。

「ほう! なかなかの美味ではないか! やはり人間というのは食に関しては貪欲よのう!」

 ここは村の食堂だ。せっかく金が手に入ったので、食事をとることにしたのである。
 どうやらこの村ではりんごが特産のようで、メニューの多くにはりんごが使われていた。近くで獲れたらしい鹿肉にも、さわやかなりんごの風味が香るソースがかけられている。

 美味い。
 美味いが……今の俺は別のことに集中していた。

「……ケントよ。さっきから何を付与の書にかじりついておる。せっかくの食事だというのに」

 フェニ公の言う通り、俺は食事を手早く済ませて付与の書を読み込んでいる。

「この付与の書って、ものすごく大量の魔術が書かれてるよな」

「当然じゃろう。史上最高の魔術師である“賢者”デオドロが付与魔術にまつわるすべての叡智を記したんじゃぞ?」

「でも、知らなきゃ使えない。この世界は色々危険もあるみたいだから、全部は無理でも、よく使いそうな魔術くらいは押さえておきたくて」

「ほほー。勤勉じゃなあ、ケントよ」

 珍しく感心したような声を出すフェニ公。

「いやいや、このくらいは普通だろ」

「そうか? 我の知る人間とは多くが怠惰なものじゃ。その点汝は真面目でよい。最初はなんと無礼な男かと思ったが、その態度は悪くないと――」

「…………真面目……? 俺が、勤勉……ああ、あああっ……!」

「どうしたケント! なぜ急に取り乱しておる!?」

 思い出されるのは前世で勉強ばかりしていた幼少期。俺は真面目人間だと周囲に言われ続けてきた。しかしそのルートの先にあるのは死んだ目をして働く人生だ。俺は知っている。今世では俺は真面目なんかじゃなく、自由に生きるつもりなのに……また無意識のうちに真面目な行動を……!!

 ……はっ! いやいや、今は理由があってのことなんだ。
 不真面目なやつだって、たまには頑張るはずだ。だから今の俺は別に真面目なんかじゃない。

「フェニ公……とりあえず、俺のことを真面目と言うのはやめてくれ……」

「う、うむ。善処しよう」

 心なしかフェニ公が引いている気がするが、気付かなかったことにしよう。俺の精神の安定のほうが重要だ。

 そんなやり取りをはさみつつ、しばらく魔導書の中身を暗記する。

 ある程度使えそうなものを頭に叩き込んだところで店を出る。次は宿探しだ。冒険者ギルドでもらった金があるので支払いは問題ない。村の中に二つある宿のうち、清潔なほうで一部屋確保した。

 硬貨の種類についても、宿の亭主から教えてもらった。

 この大陸で使える効果は七種類。価値の低いほうから順に、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、紅貨。額はそれぞれ百ユール、五百ユール、千ユール、五千ユール、一万ユール、五万ユール、十万ユールらしい。

 百ユール未満のものは抱き合わせで百ユールに届くように取引するんだとか。わりと大雑把な感じもするが、慣れれば気にならないものかね。

 借りた部屋のベッドに腰かけながら、冒険者ギルドで硬貨と一緒にくれた革袋の中身を眺める。

「会計の時に手間取るのもなんだし、硬貨ごとに分けて袋に入れたほうがいいか? いや、でもそれだとかえって手間が増えるか」

「そんな真面目に考えんでも、多少待たせるぐらい構わんじゃろうに」

「真面目……? 俺が……? ああ、あああ」

「汝、案外面倒くさいな」

 フェニ公とそんなやり取りをしていると――
 恐れていたことが起こった。

「やばい! 今すぐ宿を出るぞ、フェニ公」

「む? どうした、急に立ち上がって。だいたい宿にはまだ来たばかりじゃろうに」

「ロナが仲間とかいってた二人に詰められてる。いつ手が出てもおかしくない雰囲気だ」

 フェニ公は怪訝そうな顔をした。

「ロナが殴られそうじゃと? なぜ汝にそんなことがわかる?」

「別れ際に、ロナに【インターセプト】の魔術を使った」

「【インターセプト】……ああ、相手の周囲の物音を遠くから聞く、傍受の魔術か」

 フェニ公の言う通り、【インターセプト】は付与した相手の周囲の音を聞き取る魔術だ。仲間の二人に連れて行かれる際のロナの様子が気になったので、別れる直前にこれをロナにかけておいたのだ。

 その結果……聞こえてきたのは、一部理解できない単語もあったが、おおよそ予想通りのものだった。

 ロナはあの二人に――アルスとブレンダという二人組に、まるで召使いか何かのように罵倒されたり、怒鳴られたりしている。
 言葉だけならともかく、【インターセプト】の向こうからはそろそろ手が出そうな不穏な気配も感じる。
 さすがに放っておけない。

「付与の書を熱心に読み込んでおったのもそのためか?」

「ああ。ロナのもとに行ったあと、何があるかわからないからな」

「汝、随分ロナのことが気に入ったようじゃの?」

「別れ際にあんな怯えた顔をされたら、嫌でも気になるだろ」

 付与魔術の基本機能なのか、かけた相手がどこにいるのかは何となくわかる。俺はフェニ公をひっつかむと、急いで部屋を出た。





「何でこんな簡単なお使いもできないのかなぁ、このゴミは!」

「本当よねえ。腕っぷしと頑丈さ以外にとりえがないっていうのに……」

「ごめん、なさい……」

 冒険者ギルドでケントを別れた後、ロナは自分の主であるアルスと、その仲間であるブレンダに村の外まで連れ出された。理由は単純で、二人がロナをいたぶるのに、誰が聞いているかわからない村の中では都合が悪いからだ。

「ごめんなさい、じゃないんだよ!」

 ぐいっ!

「……っ」

 髪を引っ張られ、上を向かされるロナ。その至近距離には、怒りに染まったアルスの顔があった。

「この僕が、何のためにこんな村まで来たと思ってる? ルビーワイバーンの素材が僕の武器――いいや、バルメイル伯爵家の“使命”を果たすのに必要だからだ! お前があの竜を倒してこれば、素材はタダで手に入った! なのにあんな妙な黒髪の男に横取りされたせいで、僕は大金を払うことになる! 最悪だ! お前のせいだぞ!」

 つばを飛ばしてわめくアルス。
 彼は冒険者であると同時にこのロージア王国に属する貴族、バルメイル伯爵家に連なる人間である。そんな彼は強力な魔道具――魔術効果のある武器を作るため、ルビーワイバーンの素材を欲していた。そのために戦闘が得意なロナを危険な森に向かわせたのだ。

「もっと言ってやりなさいな、アルス様。人の言葉がわかるといっても、獣人など畜生と同じ。一度言っただけでは自分の無能さが理解できないでしょう」

 アルスの後ろでそんなことを言うブレンダは、アルスが雇った護衛の魔術師である。

「申し訳ありません……」

「フン」

 掴んでいたロナの髪を離すアルス。
 うずくまるロナに対し、アルスはさらに吐き捨てた。

「僕が一番気に入らないのは、黒髪の男……ケントだったか? お前がケントにすり寄ろうとしていたことだ」

「そ、そんなことはしていません」

「してただろう、一緒に村に戻ってきて。なあ、お前は自分の立場がわかってないのか?」

「……!」

 アルスはにやりと笑うと、「動くな」と告げた。
 硬直したロナに歩み寄ると、アルスはその首の裏――普段は髪に隠れて見えない紋様に触れた。そこからアルスが魔力を流し込むと、途端にロナは呼吸ができなくなった。

「が、はっ……かふ、あ、あっ」

 息を吸おうとしても、喉に異物が詰まったようにうまくいかない。冷や汗が噴き出し、息ができないことによる焦りが脳を支配する。

「はは、いい表情だ! 息ができないのは苦しいだろう?」

「……っ、……っっ」

「お前が悪いんだぞ、ロナ。奴隷の分際で僕に逆らうから!」

 奴隷。
 それがロナの立場だ。

 里を焼かれ、奴隷として売られたロナは、アルスによって買われた。そして戦いの道具として使われている。首の裏にある奴隷の紋章は、主人であるアルスの命令に逆らったり、アルスが直接紋章から魔力を流し込んだりすることで、ロナから呼吸する権利を奪う。

 犯罪奴隷などの例外を除き、このロージア王国で奴隷の所有は厳禁である。
 しかしアルスはロナに対して自らが奴隷だと明かさないよう命令しているので、ロナは誰かに助けを求めることもできない。

 そして人前ではアルスは好青年なので、違法な奴隷を所持しているとは誰も思わないのだ。

「あぅ、あ……!」

「哀れだなあ。獣人の中で最強格だと言われた虎人族も、奴隷になっては何もできないんだから」

 ニタニタと笑うアルスに見下ろされながら、ロナは地面をのたうち回る。

(苦しい、苦しい、苦しい)

 だんだん意識が薄れてきて、視界が狭まってくる。
 アルスかブレンダかわからないが、蹴飛ばされ、肺から残り少ない酸素を吐き出させられる。

(苦しい、誰か、誰か)

 助けてと念じる暇もなく、気絶する寸前。

「何やってるんだよ、お前ら!」

(――え)

 黒髪の魔術師、ハヤミケントと名乗った青年が現れた。
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