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冷徹公爵のもとに嫁ぐことになりました
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「汝、ミリーリア・ノクトールは、夫であるフォード・レオニスを生涯愛すると誓いますか?」
静謐な聖堂に、神父の厳かな声が響く。私はヴェールを落とさないように気を付けながら軽く頷いた。
「はい」
次に神父は私の隣にいる人物を見た。
銀髪と青い瞳が特徴的な、整った顔立ちの男性だ。背は高く、すらっとした外見にもかかわらず、要所はばっちり鍛えられている。
完璧な美丈夫である。
豪奢な礼装を纏ったその男性に対し、神父は告げた。
「では、汝、フォード・レオニスは、妻であるミリーリア・ノクトールを生涯愛すると誓いますか?」
「誓おう」
「では、指輪の交換を」
神父に促されて私と隣の男は指輪を交換した。
その後口づけをかわせば結婚は成立、というのがこの国の伝統だ。フォードが美しい所作で身をかがめ、顔を寄せる。
しかしその瞳には何の感情も浮かんでいない。
当然だ。この結婚はただの王命によるもので、私たちの間に愛なんてないのだから。
唇が重なる。
そしてこの瞬間、結婚が成立した。
私――元聖女のミリーリア・ノクトールと、王国きっての名門貴族当主であるフォード・レオニスは、夫婦となったのだった。
▽
結婚式はつづかなく終了し、レオニス家に嫁ぐ日がやってきた。
まあ、同じ王都の中を移動するだけだからたいした距離じゃないんだけど。
馬車の車窓から、教会の屋根が見える。
「ちょっと前まで、馬車で向かうってなったら教会ばかりだったのに」
私、ミリーリアは少し前まで“聖女”と呼ばれる存在だった。
聖女というのは、神様から与えられた力を扱える女性たちのこと。
また、この国には、聖女は王位継承権を持つ男性と婚約を結ぶ制度がある。
私の婚約者は王太子殿下だった。
しかし一か月前、私はとある事故によって聖女の力の大半を失い、その座を追われた。
当然のように王太子殿下との婚約も消滅。
十八歳にしていきなり結婚のあてがなくなった私だったけど、そこに声をかけたのが国王陛下だった。
聖女の力を惜しいと思ったのか、陛下は私に有力な貴族との婚姻を命じた。
その相手がフォード・レオニス公爵である。
レオニス家には聖女候補になり得る女の子もいるということで、その教育係も兼ねて、私はあの家に嫁ぐことになったのだ。
フォードは途轍もない美形だ。
ついでに若くして公爵家の当主。
世の女性からは羨ましいと言われるかもしれないけど……あの男、初対面で「俺はお前を愛することはない」と言ってきたのだ。冷たすぎない? 普通の貴族令嬢なら泣いてるわよ、あの言葉。
まあ、それはいい。
重要なのは――私が本当はこの世界の人間ではないということ。
「まさか“ウェインライト国物語”の世界に転生するなんてね……」
ウェインライト国物語。
それは私が生前日本で生きていた頃にハマッていた女性向けネット小説だ。
とある聖女候補を主人公としたその作品には、敵キャラとして、美しくも儚い悪役聖女が登場する。
その名もアイリス。
聖女の中の聖女と呼ばれ、十五歳という若さで教会の頂点に立っていた彼女は、ある事情で主人公と対立する。
そして主人公と確執を深め、主人公に悪意を向けた結果、少しずつ立場を失っていく。
やがて錯乱したアイリスは邪悪な力に頼り、その反動で怪物になってしまう。
最後にはその姿のまま討たれてしまうのだ。
うう、今思い出しても悲しい……アイリス、私の推しキャラだったのに! 何で死んじゃうの! 作者の鬼! 悪魔!
で、そのウェインライト物語にはもう一人悪役がいる。
それがアイリスの教育係――ミリーリア・ノクトール。
原作のミリーリアは聖女の座を失った腹いせに、弟子のアイリスを素晴らしい聖女に育て上げ、その指導者として脚光を浴びようとした。
そのためにアイリスを苛烈に鍛え、追い込み、最後にはアイリスが破滅する原因を作ったのだ。
原作ではついでのように処刑される哀れな女。
それが今の私である。
原作のミリーリアは悪役聖女の教育係なのだ。
現在はウェインライト国物語の始まる十年前だ。
このまま私がレオニス家に行き、出会ったアイリスを厳しく教育したら原作の未来と重なってしまうけど……そうはさせない。
「冷たい結婚相手なんてどうでもいいわ。私は死亡フラグを回避するため、アイリスと仲良くなるのよ!」
馬車の中で、私は拳を握って決意を固めるのだった。
静謐な聖堂に、神父の厳かな声が響く。私はヴェールを落とさないように気を付けながら軽く頷いた。
「はい」
次に神父は私の隣にいる人物を見た。
銀髪と青い瞳が特徴的な、整った顔立ちの男性だ。背は高く、すらっとした外見にもかかわらず、要所はばっちり鍛えられている。
完璧な美丈夫である。
豪奢な礼装を纏ったその男性に対し、神父は告げた。
「では、汝、フォード・レオニスは、妻であるミリーリア・ノクトールを生涯愛すると誓いますか?」
「誓おう」
「では、指輪の交換を」
神父に促されて私と隣の男は指輪を交換した。
その後口づけをかわせば結婚は成立、というのがこの国の伝統だ。フォードが美しい所作で身をかがめ、顔を寄せる。
しかしその瞳には何の感情も浮かんでいない。
当然だ。この結婚はただの王命によるもので、私たちの間に愛なんてないのだから。
唇が重なる。
そしてこの瞬間、結婚が成立した。
私――元聖女のミリーリア・ノクトールと、王国きっての名門貴族当主であるフォード・レオニスは、夫婦となったのだった。
▽
結婚式はつづかなく終了し、レオニス家に嫁ぐ日がやってきた。
まあ、同じ王都の中を移動するだけだからたいした距離じゃないんだけど。
馬車の車窓から、教会の屋根が見える。
「ちょっと前まで、馬車で向かうってなったら教会ばかりだったのに」
私、ミリーリアは少し前まで“聖女”と呼ばれる存在だった。
聖女というのは、神様から与えられた力を扱える女性たちのこと。
また、この国には、聖女は王位継承権を持つ男性と婚約を結ぶ制度がある。
私の婚約者は王太子殿下だった。
しかし一か月前、私はとある事故によって聖女の力の大半を失い、その座を追われた。
当然のように王太子殿下との婚約も消滅。
十八歳にしていきなり結婚のあてがなくなった私だったけど、そこに声をかけたのが国王陛下だった。
聖女の力を惜しいと思ったのか、陛下は私に有力な貴族との婚姻を命じた。
その相手がフォード・レオニス公爵である。
レオニス家には聖女候補になり得る女の子もいるということで、その教育係も兼ねて、私はあの家に嫁ぐことになったのだ。
フォードは途轍もない美形だ。
ついでに若くして公爵家の当主。
世の女性からは羨ましいと言われるかもしれないけど……あの男、初対面で「俺はお前を愛することはない」と言ってきたのだ。冷たすぎない? 普通の貴族令嬢なら泣いてるわよ、あの言葉。
まあ、それはいい。
重要なのは――私が本当はこの世界の人間ではないということ。
「まさか“ウェインライト国物語”の世界に転生するなんてね……」
ウェインライト国物語。
それは私が生前日本で生きていた頃にハマッていた女性向けネット小説だ。
とある聖女候補を主人公としたその作品には、敵キャラとして、美しくも儚い悪役聖女が登場する。
その名もアイリス。
聖女の中の聖女と呼ばれ、十五歳という若さで教会の頂点に立っていた彼女は、ある事情で主人公と対立する。
そして主人公と確執を深め、主人公に悪意を向けた結果、少しずつ立場を失っていく。
やがて錯乱したアイリスは邪悪な力に頼り、その反動で怪物になってしまう。
最後にはその姿のまま討たれてしまうのだ。
うう、今思い出しても悲しい……アイリス、私の推しキャラだったのに! 何で死んじゃうの! 作者の鬼! 悪魔!
で、そのウェインライト物語にはもう一人悪役がいる。
それがアイリスの教育係――ミリーリア・ノクトール。
原作のミリーリアは聖女の座を失った腹いせに、弟子のアイリスを素晴らしい聖女に育て上げ、その指導者として脚光を浴びようとした。
そのためにアイリスを苛烈に鍛え、追い込み、最後にはアイリスが破滅する原因を作ったのだ。
原作ではついでのように処刑される哀れな女。
それが今の私である。
原作のミリーリアは悪役聖女の教育係なのだ。
現在はウェインライト国物語の始まる十年前だ。
このまま私がレオニス家に行き、出会ったアイリスを厳しく教育したら原作の未来と重なってしまうけど……そうはさせない。
「冷たい結婚相手なんてどうでもいいわ。私は死亡フラグを回避するため、アイリスと仲良くなるのよ!」
馬車の中で、私は拳を握って決意を固めるのだった。
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