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カリナ・ブライン3
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「……」
多分ミリーリアの体に染みついた感情や記憶がショックを受けているのだ。悲しくはないのに、頭が回らない。不思議な感覚だ。
「すみません、このようなことを……ですが大丈夫ですわ。ミリーリア様もフォード・レオニス様とご結婚なさったのでしょう? きっと幸せになれますわ」
隠しきれないニタニタ笑いを浮かべたままカリナはそんなことを言う。くっ、なんて性格の悪い!
……と。
「あら?」
「せんせいに、ひどいことをいわないでください」
アイリスが両手を広げて私の前に立った。カリナから私を庇うかのようだ。
「もちろんです。もう用は済みましたからね。それでは失礼します、ミリーリア様。アイリスさん」
満足したような顔でカリナは去っていった。
「せんせい、だいじょうぶですか!?」
アイリスが心配そうな顔で言ってくる。
「あ、うん。大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ。それよりありがとう、庇ってくれて」
「ほんとうにだいじょうぶですか?」
「全然平気よ」
「わたし、せんせいがげんきになってくれるなら、なんでもします」
何でも。
何でも!?
あれ、急にテンションが上がってきた。さっきまであんなに悲しかったのに!
「うう、アイリス……つらいわ。私、もう駄目かもしれない……」
わざとらしくその場にうずくまり、傷ついたみたいな雰囲気で胸のあたりを押さえる。
「そんな!? せんせい、しっかりしてください!」
必死に私に声をかけてくるアイリス。
「でも、きっとアイリスが抱きしめて私のことを『大好き』って言ってくれたら元気になるわ……!」
「わかりました! せんせい、だいすきです! せかいでいちばん、だいすきです!」
へへ、うぇへへ、うぇへへへへへへへっへへへへ。
あ、やば。鼻血出そう。
まあ、カリナが聖女になるだのフェリックス殿下と婚約するだのと聞いた時には驚いたけど、転生前のミリーリアならともかく、私は特に思うところはない。
なんか体が反応して勝手に動揺していたけど、アイリスの可愛さのおかげであっさり収まってしまった。
今はもう、何であんなにショックを受けていたんだろう? という感じだ。
なのでアイリスに慰めてもらう必要はないんだけど……このチャンスを逃すわけにはいかない。いっぱいスキンシップをさせてもらおう。
「うう、元気になってきたけどまだ足りないわ……そう、アイリスと一緒にカフェでケーキの食べさせあいっこすれば元気になるかも……」
「わかりました、すぐにいきましょう!」
ふへへ、何でも信じちゃって可愛いわねアイリス……
▽
「ふふ、あははははははは! いい気味だわミリーリア・ノクトール! すべてを奪われた気分はどうかしらねえ」
教会からの帰路、私――カリナ・ブラインはこらえきれずに笑ってしまった。
ミリーリアは私にとって目の上のたんこぶ以外の何物でもない。
同い年のくせに名門貴族の出身で、歴代聖女の中でトップクラスの力を持つ“万能の聖女”で、顔もよくて、おまけにこの国の貴族なら誰でも憧れる美男フェリックス王太子殿下の婚約者!
最悪ね。並べただけで吐き気がするラインナップだわ。
でも、それが自分のものとなるなら話は別。
さっき教会で教皇から聖女としての認定をもらった。正式な儀式をするまでは仮のものだけど、これが覆ることはない。“今の”私は聖女として不足ない実力があるのだから。
さらにフェリックス様は私と婚約すると言った。
今思い出しても笑えるわ……フェリックス様から預かった指輪を渡した時のミリーリアの顔! 傑作だったわね!
「ふふっ、うふふふふ」
今までは私を見下す立場だったんだろうけど、これからは逆。
ミリーリア。あなたはこれから生涯、私という存在を見上げ続けるのよ。
▽
「アイリス、あーん」
「あ、あーん」
もぐもぐとアイリスが口を動かす。
それからフォークで自分のケーキをすくって、私の口元に運んでくる。
「せんせい、どうぞ」
「もぐもぐ」
柔らかいスポンジ、滑らかなクリーム――そしてアイリスからの愛情!
これ以上の至福が生前の私にあっただろうか?
いやない。
私はきっと天国にきたのだ。アイリスは天使なので、アイリスがいれば地獄に落ちても私はそこを天国だと言い張るだろう。
カフェでケーキを食べ終えた後、私は馬車の中で胸を押さえた。
「くっ……! まだ足りないわ、アイリス! まだ苦しい……」
「そんな!? せんせい、どうしたらげんきになりますか!?」
「これは……服を買わないと……! アイリスとお揃いの服を買わないときっとよくならないわ……!」
「わ、わかりました! すぐに、いきましょう!」
「――御者をやってくれてる使用人、目的地はフェルネ服飾店よ。場所はわかるわね?」
「かしこまりました」
「……あの、せんせい。もしかして、もうげんきじゃ……」
「くうう……っ! 胸が痛いわ!」
「せ、せんせい! しっかりしてください……!」
いい加減言い訳をするのが苦しくなってきた。でも心配してくれるアイリスが可愛いのでやめられない。自分でやっといてなんだけど、私がアイリスだったらこんな教育係は嫌だ。
……ところで、私ってなんで傷ついてるムーブなんてし始めたんだっけ?
多分ミリーリアの体に染みついた感情や記憶がショックを受けているのだ。悲しくはないのに、頭が回らない。不思議な感覚だ。
「すみません、このようなことを……ですが大丈夫ですわ。ミリーリア様もフォード・レオニス様とご結婚なさったのでしょう? きっと幸せになれますわ」
隠しきれないニタニタ笑いを浮かべたままカリナはそんなことを言う。くっ、なんて性格の悪い!
……と。
「あら?」
「せんせいに、ひどいことをいわないでください」
アイリスが両手を広げて私の前に立った。カリナから私を庇うかのようだ。
「もちろんです。もう用は済みましたからね。それでは失礼します、ミリーリア様。アイリスさん」
満足したような顔でカリナは去っていった。
「せんせい、だいじょうぶですか!?」
アイリスが心配そうな顔で言ってくる。
「あ、うん。大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ。それよりありがとう、庇ってくれて」
「ほんとうにだいじょうぶですか?」
「全然平気よ」
「わたし、せんせいがげんきになってくれるなら、なんでもします」
何でも。
何でも!?
あれ、急にテンションが上がってきた。さっきまであんなに悲しかったのに!
「うう、アイリス……つらいわ。私、もう駄目かもしれない……」
わざとらしくその場にうずくまり、傷ついたみたいな雰囲気で胸のあたりを押さえる。
「そんな!? せんせい、しっかりしてください!」
必死に私に声をかけてくるアイリス。
「でも、きっとアイリスが抱きしめて私のことを『大好き』って言ってくれたら元気になるわ……!」
「わかりました! せんせい、だいすきです! せかいでいちばん、だいすきです!」
へへ、うぇへへ、うぇへへへへへへへっへへへへ。
あ、やば。鼻血出そう。
まあ、カリナが聖女になるだのフェリックス殿下と婚約するだのと聞いた時には驚いたけど、転生前のミリーリアならともかく、私は特に思うところはない。
なんか体が反応して勝手に動揺していたけど、アイリスの可愛さのおかげであっさり収まってしまった。
今はもう、何であんなにショックを受けていたんだろう? という感じだ。
なのでアイリスに慰めてもらう必要はないんだけど……このチャンスを逃すわけにはいかない。いっぱいスキンシップをさせてもらおう。
「うう、元気になってきたけどまだ足りないわ……そう、アイリスと一緒にカフェでケーキの食べさせあいっこすれば元気になるかも……」
「わかりました、すぐにいきましょう!」
ふへへ、何でも信じちゃって可愛いわねアイリス……
▽
「ふふ、あははははははは! いい気味だわミリーリア・ノクトール! すべてを奪われた気分はどうかしらねえ」
教会からの帰路、私――カリナ・ブラインはこらえきれずに笑ってしまった。
ミリーリアは私にとって目の上のたんこぶ以外の何物でもない。
同い年のくせに名門貴族の出身で、歴代聖女の中でトップクラスの力を持つ“万能の聖女”で、顔もよくて、おまけにこの国の貴族なら誰でも憧れる美男フェリックス王太子殿下の婚約者!
最悪ね。並べただけで吐き気がするラインナップだわ。
でも、それが自分のものとなるなら話は別。
さっき教会で教皇から聖女としての認定をもらった。正式な儀式をするまでは仮のものだけど、これが覆ることはない。“今の”私は聖女として不足ない実力があるのだから。
さらにフェリックス様は私と婚約すると言った。
今思い出しても笑えるわ……フェリックス様から預かった指輪を渡した時のミリーリアの顔! 傑作だったわね!
「ふふっ、うふふふふ」
今までは私を見下す立場だったんだろうけど、これからは逆。
ミリーリア。あなたはこれから生涯、私という存在を見上げ続けるのよ。
▽
「アイリス、あーん」
「あ、あーん」
もぐもぐとアイリスが口を動かす。
それからフォークで自分のケーキをすくって、私の口元に運んでくる。
「せんせい、どうぞ」
「もぐもぐ」
柔らかいスポンジ、滑らかなクリーム――そしてアイリスからの愛情!
これ以上の至福が生前の私にあっただろうか?
いやない。
私はきっと天国にきたのだ。アイリスは天使なので、アイリスがいれば地獄に落ちても私はそこを天国だと言い張るだろう。
カフェでケーキを食べ終えた後、私は馬車の中で胸を押さえた。
「くっ……! まだ足りないわ、アイリス! まだ苦しい……」
「そんな!? せんせい、どうしたらげんきになりますか!?」
「これは……服を買わないと……! アイリスとお揃いの服を買わないときっとよくならないわ……!」
「わ、わかりました! すぐに、いきましょう!」
「――御者をやってくれてる使用人、目的地はフェルネ服飾店よ。場所はわかるわね?」
「かしこまりました」
「……あの、せんせい。もしかして、もうげんきじゃ……」
「くうう……っ! 胸が痛いわ!」
「せ、せんせい! しっかりしてください……!」
いい加減言い訳をするのが苦しくなってきた。でも心配してくれるアイリスが可愛いのでやめられない。自分でやっといてなんだけど、私がアイリスだったらこんな教育係は嫌だ。
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