さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ

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迷宮攻略(八層)②

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 諦めつつ、シグは「【石板スキルボード】」と唱える。

 練度上げをするためだ。精霊石に溜めた『経験値』を石板に吸わせる。黒煙じみた魔物由来のマナが石板に流れ込んでいく。

 クゥは特に興味もなさそうにバックパックから出した食糧をばくばく食べ始めた。

 しばらくすると、経験値の供給が止まったので、シグはブレスレットを石板から離した。

 石板の内容を確認する。

(まあ、あんだけ魔物倒したわけだし練度がいくつになってても驚きゃしねえけど……)


 練度 → 5


「……おいクゥ。なんか練度が5までしか上がらねえぞ」
「へ?」

 通常、練度というのは低ければ低いほど上がりやすい。また、倒した魔物が強いほどより多くの経験値を得られる。

 今日は普段より深く潜って強い魔物と戦ったし、進化したクゥの練度は1からスタートしていたはずだが、5。5である。想定外だ。

 もぐもぐごくん、とクゥは口の中のものを呑み込んだ。

「ぼくは特別だからね」
「あん?」


「精霊の練度上げは、魔物のマナを取り込んで自身のマナ密度を上げることで起こる。けど、ぼくは最初から大量のマナを抱えて生まれた存在だ。今更ちょっとくらいマナを取り込んでもたいした変化がない」


「わかりやすく言え」
「実はぼく、めちゃくちゃ練度上がりにくいんだ」

 シグは再び石板に視線を戻す。

 どうやら反則級の精霊であるクゥにも欠点はあったらしい。

 危険度D、Cを含む魔物を百体殺しておきながら練度の上昇幅がこれである。精霊は下級、中級、上級、特級と階位が上がっていくにつれ練度上げが難しくなるが、これは特級精霊以上の効率の悪さではないだろうか。

 と、考えて。

(……ん? ってことはこいつ、特級クラスの潜在能力を持ってる可能性があんのか……?)

 シグはそんなことに思い至った。

 現在、この国に特級精霊使いは七人いる。七人しかいない。

 ある程度の特権が与えられ、代わりに有事の際は王家から強制招集をかけられる王国の最大戦力だ。

 シグはその中の三人と面識がある。全員化け物のような精霊使いだった。

 それと同等以上の潜在能力を、仮にクゥが持っているとしたら?

 なかなか恐ろしい話だ。否定できないあたりが特に。

 (……何かしら対策を考えとく必要があるか)

 隣を見ると、クゥが物悲しげに空になった食料袋を逆さにして振っている。

 あれだけあったのにもう食べ終わったらしい。

 とりあえず、こいつが精霊だと公言しないほうがいいだろうなとシグは結論した。

 クゥは単なる旧知であり、自分の契約精霊は上級の複合精霊である。
 そういうことにしよう。

 さて他に何か変わったことはあるか、と石板を流し読んでいたシグだったが。

 最下部に新たな文字列を発見した。

「……精霊術が増えてる?」

 それも複数。どうやら練度が上がったことで使用可能になった術があるらしい。

 実際に使ってみてもいいが、効果がわからなくては危険だ。
 先に確認したほうがいいだろう。

「おい、クゥ。ちっと聞きてえんだが、この術の効果って――」

 シグの言葉はそこで途切れた。


 なぜなら、隣でクゥがブーツを脱いで素足になり、ケープも放り出し、さらに袖のない上衣まで半脱ぎという状態だったからだ。
 白い肌が眩しかった。


「……」

 シグの脳が停止する。

 クゥが半裸だ。
 座ったまま、下履きとショートパンツを除いて装備をすべて脱ぎ捨てている。

 隣にシグがいることなど忘れたかのように自然な動作でシャツを脱ぎ、それに合わせてわずかに甘い香りが流れてきた。

 クゥがシグの視線に気付き、きょとんと首を傾げる。

「? どうかしたの、シグ」
「殴るぞ」
「ま、待って待って! 話せばわかる!」

 慌てたように両手を振るクゥ。

 むき出しの胸をほとんど庇わないあたり、やはり微妙に人間とは異なる価値観を持っている少女だった。

「俺はお前には何度も勝手に服を脱ぐなって言ったはずだなよな……?」
「今回は違うんだ! まず周りに他の人はいない」
「ああそうだな。入口から他の冒険者が来る可能性はあるけどな」
「ぐ。そ、そうかもしれないけど、汗でべたべたするし、体を拭きたかったんだよ」
「……あー」

 クゥの膝には水で濡らされた布が用意されていた。

 それで体を気休め程度でも綺麗にしたかったらしい。

 迷宮には水源がないため水は貴重なのだが、ハイペースでここまで来られたこともあって消費量が予想よりも少ない。布を湿らせるくらいは構わないだろう。

 そうなると、特に否定する理由も思いつかない。

 クゥの肌を意識していると悟られるのも癪だった。

「……さっさと済ませろよ」
「うん。シグは話がわかるなあ」

 シグが許可を出すと、クゥは濡らした布で体をぬぐい始める。首もと、鎖骨、肩、わき、腕……小さな手が白い肌を這い、態勢を変えながら全身を清めていく。

(……ああくそ、落ち着かねえ)

 シグは気合で視線を逸らしたが、音だけでじゅうぶん生々しかった。

 契約精霊はある種家族以上に身近な存在だが、外見が十四歳前後の少女である以上簡単には割り切れない。クゥが無防備なせいで妙な背徳感がある。

「シグ、どうしよう。背中に手が届かないんだ」
「諦めろ」
「……ぼくはシグにやってほしいなあ」
「俺が知るか」
「……そっか。うん、わかった。シグが嫌なら仕方ないね」

 笑みを浮かべてはいるが、クゥの声は明らかに落ち込んでいた。
 シグは小さく溜め息を吐く。

「……荷物運びと、魔物を何十体も倒したことへの報酬ってことならやってやる」

 その言葉に、クゥは目を輝かせる。

 濡れた布を受け取り、シグは真っ白なクゥの背中を拭い始めた。

 しみも傷も何一つない背中だ。

 くすぐったいのか、シグが手を動かすたび、邪魔にならないよう髪を抑えるクゥの手が震える。

「おら終わったぞ」
「ありがとう。気持ち良かったなあ」

 髪を下ろし、んんっ、とクゥは伸びをする。満足げな声だった。

 満足したなら服を着ろ、と言いかけたところで勢いよくクゥが振り返ってきた。

 なぜか目を輝かせて。

「よし、それじゃあ今度はぼくがやってあげるよ!」
「こっち向くんじゃねえ馬鹿精霊! 服着ろっつってんだろ!」

 すぱーん、とシグの投げた布がクゥの額に衝突した。
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