華蝶の舞

弥架祇

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蠢く

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「ねぇ。あんたまたつまらない平凡な女になり下がるつもり?」
女は楽しそうにケタケタ笑いながら私に囁く。
「殺っちゃいなさいよ。いつもみたいに」
私の後ろには可愛い甥っ子が震えている。

「躊躇うことはないのよ?だってあんたはいつもそうやって殺してきた。目も当てられないほどグチャグチャにね。」

「だめ…駄目よ…」
震える唇を必死で動かす。
女は目を細めた。

「あんたが殺らないなら、私が殺してあげましょうか?」
女の赤い唇がニヤリと笑う。

「やめて……やめて…やめて!
この子だけは譲れない!譲らない!
もう…あんたには…何一つ渡さないわ!」

「そう。」
女は目を閉じた。

私は女を睨みつける。
可愛い可愛い私の甥っ子。
貴方だけは絶対守るから。

「じゃあもう、あんたに用は無いわ。さようなら」

刹那、私の胸に熱く熱く脈打つ痛み。

赤が、辺りに散る。
花の花弁のように。

「ハァ…ハァ……」
痛みに歯を食いしばる。
悲鳴なんてあげてやらない。
この女が喜ぶだけだ。

私のコートの裾を掴んでいた甥の手が離れる。

ごめんなさい。
私、もう貴方の側にいてあげられないみたい。

「大好きよ…」
そのまま私は地面に崩れ落ちた。

冷たい地面に、私の血が広がり血だまりを作っていく。
流れる涙は血だまりに消え、甥っ子の声が聞こえた気がした。

甥っ子に向かって手を伸ばす。
可愛い、可愛い私の天使。

柔らかな栗色の髪を撫でられたらどんなにかと思った。

でも、その右手にも激痛が走る。

月光に鈍く輝く刃が、私の右手を貫いていた。
無駄よ。
無駄なのよ…。
あんたなんかが、私の甥っ子への思いを断ち切ることなんて出来ない。

消えそうになる意識の中、甥っ子に触れるために右手はもがき続ける。

血に汚れるのも、傷口が大きく開くのも気にせずに。

甥っ子の声はもう聞こえなかった。

何か、言っていたのかもしれない。
でも、ごめんなさい。
もう私の耳には遠すぎて。

甥っ子の名を呼ぼうとした口からまた血が溢れる。

こんな無様な姿を見せてしまって、ごめんなさい。
好きよ。
だれ、より…も_______
                                  
                                *
嗚呼、つまらないわ。
本当に。
復讐に溺れた女の行く末がこれだなんて。
あまりにも退屈すぎる。
愛に悪逆は勝てないとか、そんな戯れ言は聞きたくないのよ。

ありきたりすぎて、退屈すぎる。
そんな世間が好きそうな物語は望んじゃいない。
世の中なんてね、人が思う以上に冷酷なものよ。

違うでしょう?
あんたら人間は。
もっと汚い。
地を這いずりながら、泥に塗れてもなお貪欲に、愚かに己の欲を求め続ける。
何かの為、誰かのためならなんだってやる。
そういう奴らでしょう?

綺麗ごとほざいて、綺麗なフリしてんじゃないわよ。

もっと壊して殺して。
私を楽しませなさいよ。

クソみたいにくだらない、退屈な虫けらなんてこの世にいらない。

汚いくせに綺麗なフリしても無駄なのよ。
汚い。
お前ら全員汚い。

私も…
_________________汚い。


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