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アレクサンドル・クロムウェル
神託の愛し子 / 神託です
しおりを挟む「サインした後は、どうするんですか?」
「ん? ああ、貴族の婚約や婚姻には、皇帝の許可が必要だ。俺はこれでも、貴族の端くれでな? ウィリアムの許可が必要になる。この許可証は、魔法紙で出来ていて、皇帝のサインが記入され、玉璽が押されると、その場で魔法契約が結ばれる」
「魔法契約って、破ったらペナルティーが凄そうですね」
「そうだな。正当な理由もなく、どちらかが一方的に違反すると、凄いことになるぞ」
「へえー。なんか陰陽師の呪詛返しみたい」
おんみょうじの意味を聞くと、話が長くなるから、また今度にしようと言われた。
浮かれ過ぎて、パフォスから安静を言い渡されていた事を、すっかり忘れていた。
ベットにレンを運んで、気が利かなかった事を謝った。
「ウィリアムにサインを貰って来るから、君は、休んでいてくれ」
「はい、いってらっしゃ・・・・あッ!!」
急に大声を上げたレンが、ガバッと起き上がり「しまった、忘れてた」と額をピシャリと叩いた。
「どっどうした?」
「私、大事なこと忘れてました」
俺との逢瀬よりもか?
・・・いや、寝室から出てきた時に、大事な話があると言っていたな。
「アウラ様の神託です」
「神託・・・まさかとは思うが、君はアウラ神と、直接話しが出来たりするのか?」
今、そこ気にします? とレンには言われたが、かなり大事な事だと思うぞ?
「アウラ様に繋がるまで、時間はかかりましたけど。普通に話せましたよ?」
重大発言に、俺は頭が痛くなってきた。
レンは、事の重大さに気づかず、ケロッとしているが、これは大変なことだ。
今まで神殿に降りた神託のように、神官の曲解や解釈不足もなく、神の言葉を直接聞くことが出来るなんて、前代未聞の大事だ。
「アレクさん? 大丈夫ですか?」
片手で額を押さえて、考え込む俺に、レンの声は不安そうだ。
「いや、平気だ。・・・だがレン。アウラと直接話せることは、俺と君の・・・ウィリアムには報告するから、3人の秘密にしてくれ」
レンは、キリリと真面目な顔になり、一つ頷いた。
「あの、それで神託なんですけど」
「ああ、そうだった。神はなんと仰ったんだ?」
「3ヶ月後の風花月?・・・タマス平原の地下洞窟から、スタンピードが起こるから、準備しなさいって」
「すたんぴーど?」
「えっと、こっちの言葉じゃないのかな?」
「そうだな、聞いたことがない」
するとレンは「もう、影響受けすぎです」と誰に対するボヤきなのか、ため息を吐いた。
「スタンピードとは、動物の集団暴走の意味なんですけど、それが転じて、魔物の大発生とか、大暴走を表します」
ここで一拍置いて、レンは瞳を強くした。
「魔物が、大量に湧いて出るんです」
「魔物の大量発生・・・」
「遅くなってごめんなさい。早くウィリアムさんに、お知らせしてください」
これは、洒落にならんぞ。
レンに休むように言い残し、貴賓室の扉に結界を張った俺は、周りの目を無視して、ウィリアムの元に走った。
「陛下は只今、会議中です。会議が終わるまでお待ちください」
震え声で足止めする近衛に「緊急案件だ」と一括し、皇帝の執務室へ押し通った。
押し入る形となった俺に、居並ぶ大臣や文官達が、非難の目を向けてくる。
「アレク、血相を変えてどうした? ちょうど愛し子様と、お前の話をしていたところだぞ?」
「お騒がせして申し訳ございません。至急お知らせしたきことがあり、ご無礼を承知で、罷り越しました」
と俺は頭を下げた。
「アレクがそれ程慌てるとはな、よい発言を許す」
「ハッ。申し訳ございません。お人払いを、お願いいたします」
「皇弟と言えど、なんと無礼な」
ヒソヒソとした、聞こえよがしな皮肉は聞き流す。
「アレクよ、皆忙しいのだ。簡単に人払いは出来ぬぞ」
冷たい物言いだが、ウィリアムの瞳は好奇心に光っている。
「では、お耳を」
「許す」
普段の俺たちを、知っているものには、この遣り取りは茶番だが、公の場では必要なものだ。
大臣達が座る長テーブルを大股に通り過ぎ、皇帝の横に立った俺は、身を屈め、声を潜めて、耳打ちする。
「レンが神託を授かった。レンはアウラと直接話せる」
「なッ?!」
驚愕して俺を仰ぎ見るウィリアムに静かに礼をする。動揺する皇帝に、他の者もざわつき始めた。
「静かに! 一刻の間休憩だ。皆退出せよ」
ウィリアムの命令に、俺に対する文句を、ブツブツと漏らす者も何人かいたが、皇帝の言には逆らえず。皆大人しく出て行った。
「グリーンヒル宰相は残ってくれ」
俺に声をかけられたグリーンヒルは、怪訝な表情を見せたが、黙って執務室に残った。
俺たち3人以外の退出を確認し、遮音魔法をかけた。
「アレク。どう言うこと?」
待ちきれない様子の、ウィリアムを押し留め、申請書と許可証を押し付けて、先にサインを迫った。
「これから忙しくなるからな、先にサインを寄越せ」
「もう! なんなんだよぅ」
ボヤきながらも、サインと玉璽を押して、申請書は宰相へ、許可証は俺へと手渡した。
淡く発光する許可証に、契約の締結を確認し、俺は、大きく息を吸って、しばしの間、感慨に浸った。
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