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アレクサンドル・クロムウェル
神託の愛し子 / 神託と兄弟
しおりを挟む膨らむ期待で、ワクワクするウィリアムから、俺の無茶振りに身構えるグリーンヒルに視線を巡らせ、改めてレンが授かった神託へ、話を戻した。
「宰相どの、レンにアウラ神より神託が降りたのだ」
「しっ神託ですと?!」
永い年月、神殿に降りなかった神託が、レンの招来と、続けて降りた事にグリーンヒルも驚いたのだろう。
「ああ。三月後の風花月、タマス平原の地下洞窟から、スタンピードが起こる、準備を怠るな。という神託だ」
やはりスタンピードと言う、耳慣れない言葉に怪訝な顔を見せた2人に、レンがしてくれた説明を伝えた。
すると
「魔物の大量発生・・・」
「大暴走」と、2人の顔色が、見る見る白くなっていった。
「タマス平原は、第3の管轄だ、まずは団長のモーガンと話したほうが良いだろう」
「モーガンは今、アイオス砦かな?」
「いや。月番で今は、皇宮の筈だ」
「では、直ぐに人をやりましょう」
席を立つグリーンヒルに、ウィリアムは大規模討伐に関係する、大臣達以外の解散を命じた。
「アレク。レンちゃんって凄いねぇ」
椅子に深く腰掛け、背を預けたウィリアムが、天井を見上げて、深く息を吐いた。
「そうだな」
「愛し子の記録は、全部読んだけど、アウラ神と直接話せる人なんて、1人も居なかった」
「レンはアウラ神から、多くの加護を授かったと言っていたから、これもその一つなんだろう」
「言ってた、言ってた」
無自覚に、ケロッと重大なことを話すレンを思い出したのか、ウィリアムは、クツクツと喉を鳴らして笑っている。
「でもさ、他の加護がどう言うものか分からないけど、色々規格外な感はあるよね」
あの美しさの上に、更に多くの加護を持つ
やはり、レンこそ天使なのかもしれない。
「そう言えば、仲直りできたんでしょ?」
と俺の前に置かれた許可証を指さす。
「心配かけたか?」
「すっごくね」
「すまんな。だがあれは、俺にじゃなく、説明不足のアウラ神に対する怒りだったそうだ」
「レンちゃん、神様に怒るって」
呆れとも感心とも取れる表情を浮かべるウィリアムに、俺も苦笑を返した。
「これは他言無用だが、レンが言うには、呼び出しに時間は掛かるが、神と直接会話が出来るらしい。タマス平原の事も、あの後の会話で知らされたようでな」
「なんかさ。もう神殿とか神官とかいらなくない?」
「同感だ」
モーガンを待つ間、レンの体調が回復するまで休みたいと、ウィリアムに願い出ると
「仕事人間のアレクが、休暇願いとか。お兄ちゃん、ちょっと感動」と揶揄われた。
「レンちゃんが来ただけで、アレクがこんなに変わるなんてねぇ」
子育て中の親みたいに
しみじみ言うなよ。
「魔力詰まりを治してた筈なのに、ちゃっかり婚約紋刻んでるし。それに何? 人前で尾を使って、レンちゃんあやすとか、他の獣人がやってるの、見た事ないよ?」
まぁ。そうだろうな。
「レンは、こちらの常識を何も知らない。触りたいと言うから、好きにさせたら、気に入ったようだ」
「触りたい? やだっ、レンちゃんたら大胆!」
ウィリアムの頬に朱が差して、妙に嬉しそうだ。
「そういう意味じゃないって、分かってるだろ?」
俺が唸ると、ウィリアムが声を上げて笑った。
「いや~。レンちゃんが皇宮に入って、まだ一日も経ってないのに、楽しくてしょうがないよ」
「あぁ」
俺の仏頂面を見て、ウィリアムがクツクツと笑う。
「何が可笑しい?」
「あはは・・。アレクがさ、レンちゃん抱っこして、寝室から出てきた時のこと、思い出しちゃって」
「笑うほどの事か?」
ムッとする俺に、ウィリアムは益々ご機嫌だ。
「僕これでも喜んでるんだよ?」
「面白がってるの、間違いじゃないのか?」
そんなことないよ! とウィリアムは慌てたように顔の前で手を振った。
「まぁ、ワクワクはしてるけどね?僕もそうだけど、アレクとレンちゃんって、ほぼ初対面なんでしょ?」
「そうだな」と頷き返した。
「レンちゃんはさ。僕が皇帝だって知って、驚いてたけど、特に態度が変わる事も無いし、アレクの事も全然怖がらない。逆にアッサリ婚約紋付けさせてくれてさ。番だからなのかも知れないけど、なんか2人が仲良さそうで、僕は嬉しい」
しんみりと語る、兄の姿に、自分達が抱えるものの重さも、レンが溶かしてくれる様な気がした。
「レンは・・・俺たちと物の見方が全く違う様でな?」
「うん?」
話の切り替えが、唐突すぎたのか、ウィリアムが戸惑っている。
「レンは、自分のことを、平凡で地味な顔だと言うんだ」
「嘘でしょ?」
だが、俺の顔を見て、本当の事だと分かった様だ。
「俺たちの事を、よく似た兄弟だと言うし、驚くなよ・・・レンは俺の事を “美形” だと言うんだ」
「えっ?!レンちゃんって、目が悪いのかなぁ~?」
俺も同じことを考えたが、ウィリアムに真顔で言われると、腹が立つな。
「目は良い方だそうだ」
ジロリと睨むと、ウィリアムは開きかけた口を慌てて閉じた。
「彼方との、文化の違いもあるのだろうが、レンは、物の本質を見ているような気がする」
「あ~。なんか分かるかも」
「だから、レンは、この国を変えてくれるような、そんな気がしてな」
頼り切りにする気はないがな。
ウィリアムも同感なのか、大きく頷いてみせた。
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