獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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エンドロールの後も人生は続きます

挙式前夜2 side・レン

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「魅了を? どうして?」

「どうしてって。私、明日アレクさんと結婚するんです」

「そうだね。おめでとう」

「ありがとうございます。・・・って、そうじゃなくて!」

「そうだ。お祝いは何が良いかな?」

「いえいえ。お気遣い無く・・・だから、魅了をですね」

「そうだ!レンに似合いそうな羽衣がある。あれは薄くて綺麗だけど、防御力も高いし、何より神聖力を帯びている。消耗した分をレンが付与することもできるし、あれにしよう」

「アウラ様! わざと話し逸らしてますよね?」

「・・・・どうしても、消さなきゃ駄目かい?」

 クウーーーー。
 なんでしょう、このあざとい上目遣いは。
 これ、絶対、確信犯ですよね?
 目が潰れそうな美しさですが、今回は負けませんよ?

「私、結婚するんです。相手は獣人のアレクさんですよ?魅了なんて、邪魔なだけです」

「必要になると思うのだけど」

「何故ですか? 私に逆ハーTLなんて無理ですよ?」

「あはは。それは分かって居るよ? 其れに樹海の王が許すはずもないしね」

「分かってるなら、なんとかして下さい。楽しい新婚生活の邪魔です」

「ん~~~でもねぇ」

 何故、こんなに渋って居るのでしょうか?

 アレクさんは、あんなに素敵なプロポーズをしてくれて、式の後、頑張って半月もお休みを取ってくれたのです。
 魅了なんて厄介なスキルの所為で、邪魔されたくないのですが?

「アウラ様? 何か隠してます?」

「そんなことは・・・・ないよ」

 めちゃくちゃ目が泳いでますけど?

「ア・ウ・ラ・さ・ま?」

「ごっごめんよ。最初は私の愛し子に、皆んながメロメロだったら良いなぁ。って思っただけなのだよ? でもほら、私呪われちゃったでしょ?その時に封印が弱くなって、逃げられてしまって・・・・」

「にげた? なにが?」

「あの時は、もうさ、人も世界もどうでもいいや! って投げやりな気分だったから、でも反省して居るのだよ?」

「で? 何が逃げたって?」

「ううぅ。レンが怖い・・・・幻獣の・・・ベヒモス・ハスタリク・リヴァイアサン・グラシャラボラス・・・です」

「4体も? 古典ですか?ゲームですか?」

「・・・ゲームの方です」

「聖? F? 他の?」

「Fです」

 マジかぁ・・・・。
 超巨大モンスターかぁ・・・。

 思わず額に手を当てて、見えないお空を仰いじゃいましたよ。
 
「それで魅了を使って、捕まえるか倒すかしろと? それ本気で言ってます? 私、なんですけど? 明日なんですけど?」

「いっ今の所は、大人しくしてるから、ゆっくり、ゆっくりで良いから、なんだったら、浄化のついででも・・・・」

「ついでって、なんですか? 私達は、魔物の討伐と水の浄化が残ってるんですよ? アウラ様が逃しちゃったんだから、アウラ様とクレイオス様の二人で、なんとかして下さい」

「私はこんなだし、クレイオス一人で全部は、ちょっと・・・」

「はあぁぁ~~~~」

「それに、君の仲間がヨルムガンドを飼って居るよね? あれも今は大人しくしてるみたいだけど、大きくなったら言う事を聞かなくなると思うの・・・・だけれど・・・・」

 思わず額に当てた指の隙間から、アウラ様を睨んでしまいました。
 
「クレイオス様が、一人で無理なのはどれですか?」

「リヴァイアサンとグラシャラボラス」

 それでも2体。
 マークさんのヨルムガンドは・・・・。
 後で考えよう。

「ちょっと、アウラ様、ここに座って下さい」

「えっ? もう座っているよ?」

 それはカウチに腰掛けて居るのです。

「・・・正座で」

「あっはい」

 優雅な仕草でカウチの上に正座した、アウラ様ですが、この北欧系の美麗なお顔に、正座まったくは似合いませんね。

「常々思っていたのですが、何故食文化や、娯楽、文明の発展は遅れて居るのに、あちらの、危険なモンスターばっかり、真似して創造されるのでしょうか? この前のキングギドラもそうですよね? クレイオス様と怪獣大戦争でしたよ? アレクさんも危うく死にかけたんですけど?」

「あのね。魔物に関しては、私が創造した訳じゃないのだよ? あれらは自然発生的に生まれた生き物だからね。ただ私の記憶が影響したというか・・・」

「では。 アウラ様の娯楽の所為で、多くの人が苦しみ、犠牲になった、と言うことですね?その事について、どう思われますか?」

「それは・・・申し訳ないと・・・」

「でも、アウラ様は神様の規則で、自分では何も出来ないと仰しゃる。 彼方の神話では、神様が率先して魔物の類を退治したり、英雄達に力を貸していますが、この違いはなんですか?」

「それは・・・創造神ではないから・・・」

「なるほど? この世界はアウラ様の一神教ですもんね。 だからと言ってアレクさん一人に背負わせるには、重過ぎるとは思いませんか? 彼はとても強い。 まさに軍神と言って良いほどです。でも、彼だって最初から強かった訳ではありません。 死ぬ程辛い思いをして得た力です。 たった一人、アウラ様の助けもなく、得た力なんですよ?」

「その通りだね」

「頑張って居る人には、それなりの対価を支払うべきではないですか?」

「対価?」

「別に金銀財宝の話ではなくて、頑張って居る人が困って居るときに、助けてあげるだけでも良いと思うのですけど」

「・・・・」

「彼方には、神の奇跡と呼ばれる物や場所が、結構あります。神様の存在や痕跡を感じ取れる機会が多い。それに比べて此方では、アウラ様の神託だけって言うのは、かなり弱い気がします」

「う~ん?」

「人の世界の事象に関与できなくても、困難に立ち向かう人を、助ける事は出来ないのですか? それが神様が引き起こした事象なら尚更ね?」

「ふむ」

「彼方の神様は、どんな形であれ、人と関わりを持って居るように思います。実際、どこそこの神社に参拝したら、運がひらけた、とか宝くじが当たった!とか、ただの偶然かもしれませんが、それが神様のお陰だ、と思える環境が整って居て、それが信仰に繋がって居るのではないでしょうか?」

「確かにそうだね」

「だから、どこまで関与して良いのか、全能の神様、大神様?にもっと相談されたらいかがですか?」

「・・・・・・」

 あらら。黙っちゃった。
 神様相手に、言いすぎたかしら?

「コホンッ。兎に角私が言いたいのは、私達は結構頑張った。って事です」

「それはもう、頑張ってくれたよ!感謝している」

「なら、人として幸せを追求する権利を主張しても、構いませんよね?」

「えっ?・・・うん。そうだね」

「だったら、蜜月の半月は邪魔しないで頂きたい。それと、家庭円満の妨げになるので、魅了も消して下さい」

「うぅぅ・・。蜜月の間は邪魔しなし、幻獣も、出来るだけクレイオスに対処してもらう。けど、魅了は消さない。絶対必要になるから」

「そんな、困ります! アウラ様は、アレクさんの嫉妬深さをご存知でしょう?」

「知っているよ? だいぶ拗らせて居るよね? でも駄目だよ。 それに有象無象が寄ってきたって、君の伴侶が蹴散らすでしょ?問題ないと思うのだけど?」

 だから、それが問題なんですってば!!

「どっちにしろ、ニックスの呪具をクレイオスが壊したばかりだから、加護を取り消せるほどの力は戻っていないし。ちょうど良いよね?」

「ん?ちょうど良い?」

 あら?
 なんて明らさまに視線を逸らすのかしら?

「・・・幻獣以外にも、隠してる事が有るんですね?」

「・・・・有ると言ったら、許してくれる?」

「内容によります」

「君達の婚姻を祝福もする。生まれてくる子供達にも、加護を与えよう。でも、内容は話せないし、魅了は絶対必要になるから、消さないよ」

 “だって、君達のことが大事だから”

 そんな、悲しげに言われたら、これ以上文句も言い辛いじゃないですか。

「それって、魅了が無いと命に関わります?」

「関わるね。けれど、これ以上は話せない。未来を変えて良いのは、小説の中だけだ。因みに魅了込みの状態が、本筋だからね」

 もうお手上げです。

「はあぁぁーーー。分かりました。受け入れます」

「分かってくれて良かったよ」と私の頭を撫でる手首は、こんなに細かったでしょうか?

 アウラ様も、苦しんでおられるのよね?
 これ以上は、我儘になってしまうわね。

「アウラ様?」

「なんだい?」

「私をこの世界に連れてきてくれて、ありがとうございます。アレクさんと出会うことが出来て、私は幸せです」

「・・・そう。私の方こそありがとう。ヨシタカも君に感謝していた。君を愛し子に選んで、本当に良かったよ」

 “君たちの人生に幸多かれ”

 アウラ様が私の額に口付けし、祝福を贈って下さると、鈴の音が聞こえてきました。

「アウラ様。早く元気になって下さいね!」

「次はお茶を用意しておくよ」

 アウラ様の、細くなってしまった腕に抱かれ、私は光に溶けて行ったのでした。
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