獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

開戦

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「予定通りか?」

「はい。侯爵はオーベルシュタイン城に向け敗走中。オズボーンはゴトフリーに入りました」

「オズボーンが持って来た横流しの物資と、護衛の騎士は監視下にあるな?」

「そちらも、抜かりないとのことです。ただ、侯爵家の騎士は負け戦を演じるのに、苦労しているようです」

「ははっ! だろうな。子供相手に負けてやるようなものだ。それらしく見せるのも一苦労だろう」

 副団長に復帰させたマークは、その有能さを発揮し、そつなく任務をこなしているが、レンがロロシュを糾弾したあの日から、笑顔を見せることが無くなった。

 レンと二人きりになる時は、多少表情が和らぐようだが、再教育中のロロシュが傍に居る事も多く、気の休まる間が無いのだろう。

 マークとロロシュには、距離を置かせる必要はあるが、二人が番である以上完全に没交渉にしてしまうと、番恋しさにどんな悪影響が出るとも限らない。

 レンがロロシュを預かる事にしたのは、二人にとって、気まずさは有っても、ある意味英断だったとも言えるのだ。

「さて。レンも仕込みが終わったと言っていたな。何と言ったか・・・」

「細工は流々仕上げを御覧じろ。です」

「あぁ。それだそれ。いつも思うのだが、レンの故郷の言葉は、奥が深いと言うか、その状況にピッタリの言葉があって、驚かされる」

「そうですね。我々の言葉だと、同じ単語でニュアンスを変える事が多いですから」

「レンの国には言霊という考えがあるそうでな。言葉一つにも不思議な力が宿るのだそうだ。だから良い言葉をたくさん使えば、人生は豊かになるそうだぞ?」

「左様ですか・・」

「・・・俄かには信じがたい話だが、やってみて損がある訳でも無いからな、レンに言われた通り、俺は良い言葉を使うよう心がけているのだ」

「例えばどのような?」

「そうだな。今の状況なら、完全勝利。勝利は我が手にあり。と言った処か?」

「気の持ち様なのでは?」

「その通りだ。だがな負けるかもしれないとビクビクしている上官と、根拠は無くとも ”勝つ” と言い切る上官なら、後者の方が気が楽だろう?」

「まあ、そうですね」

「勝つための準備はしてある、レンの言う通り、細工は流々。明日の夜には美味い酒が飲めるぞ」

「楽しみにしております」

 全然楽しみしている様子ではないな。

 マークがすっかり根暗になってしまったぞ。
 これは困った、落ち込む部下を慰めるのは、あまり得意ではないし、作戦決行前に、士気が上がらんのは、本当に困る・・・。

 ・・・・やはり、こういう時は、レンに相談だな。
 
 俺のもっとうは適材適所、人の機微に聡いレンに任せるのが一番だ。


「・・・・・・という感じでな?仕方ないとは思うのだが、戦さの最中、あまり落ち込まれても、部下の士気に関わってくる。それで如何したものかと思ってな?」

「ん~~。失恋した訳では無いですけど、気持ちの整理は必要ですよね。仕事に集中したら、少しは気が紛れるかもって思ったけど、やっぱり直ぐには無理よね」

 腕を組んで考え込む番の姿は可愛いが、ここ数日で少し瘦せてしまった気がする。やはり不便な野営暮らしに、奴隷首輪を解除する魔法陣の設置と、無理をさせてしまっているからだろう。

「苦労ばかり掛けてすまん」

「急にどうしたの?」

「少し痩せてしまっただろ?」

「ああ、これ? 体の調子が悪いとかでは無いから、気にしないで?逆に健康かも」

「痩せてしまったのにか?」

「ずっと抱っこ移動だったのが、最近自分で良く歩くようになったから、無駄なお肉が引き締まって来たみたい。だから気にしなくて大丈夫」

「そうなのか?何処も具合が悪くはないのだな?」

 レンは、笑いながら ”ないない” と手を振って見せた。

「こっちに来たばかりの時に言ったでしょ?歩くのは健康にいいんです。私の事より、マークさんの事なんですが、明日の作戦は、ロロシュとマークさんをトレードしません?」

「とれーど?」

「え~と。二人を交代させましょう。魔法陣の発動には、沢山魔力が必要なので。ロロシュよりマークさんの方が魔力値は高いですよね?」

「まあ、そうだな?」

「魔法陣の発動は失敗したくありませんし、二人が交代してくれたら、マークさんの様子を見る事も出来ます。それにロロシュがそっちに回ったら、暗部からの報告や連絡も受け易いでしょ?」

 前はロロシュさん、だったが・・・・。
 あいつがレンの信用を取り戻すには、生半可な努力では足りなさそうだ。

「分かった。ロロシュの様子はどうなんだ?」

「そうですねぇ・・・矯正できるって断言しちゃったけど、道は遠そうですね。心の持ちようを変えるのに、時間が掛かるのは当然なのですが、長年抱えて来たものを、無かった事にはできませんから」

「そうだよな」

「ある意味彼にとって、影の仕事は天職だったと思うんです」

「何故だ?」

「貴族に対する嫌悪感や劣等感を、相手を貶める事で、ある程度発散できますからね。でも、大本の叔父達を排除し、後継に収まり地位が上がったのは良いけれど、影で培った知識では侯爵として足りないことだらけ。帝国一の婿がねのマークさんの番だったことで、周囲からはやっかみの対象にされるでしょ?」

「うむ」

「優越感に浸って居られた最初の内は良かったけれど、マークさんの洗練された物腰を、毎日間近で見ていたら、自分との差を意識せずにはいられなかったみたいです。ここで健全な精神を持っていれば、自分も負けない様に頑張ろうと思えたのでしょうが、貴族社会に対する、根深い嫌悪感が邪魔をして、もう一度学び直す気にはなれなくて、フラストレーションはたまる一方。なのに影とは違い、騎士団の暗部の仕事は、彼からしたら正攻法で満足できるものではなくて」

「その矛先がマークに向かったと?」

「ええ、そうみたい」

「子供か!」

「言ったじゃないですか、子供返りだって。私はよく分からないのだけど、獣人の人達は、番にマーキングをするのでしょう?魅了の制御が出来なかったときに、アレクも私にしてるって言ってたよね?」

「あぁ、まあな・・・・それがどうかしたか?」

 今もバリバリしてるとは言い難い。

「ロロシュは、マークさんに一度もマーキングしたことが無いんだって。気付いてた?」

「あぁ。俺は異常だと思ったがな」

「うん。そうみたいね。でもロロシュからすると、マーキングなしでも、マークさんは浮気なんかしない、俺のものだ。って歪んだ意思表示だったみたい」

 あいつが俺のマーキングに文句を言うたびに、違和感を感じていたが、そういう事だったのか。

「確かに歪んでるな」

「素直じゃないのよね。好きなら好きって全力で意思表示すればいいのに。その方がお互い幸せだと思うのよ?」

「君は・・・俺の執着やマーキングをどう思っている?」

「大事にされてて、幸せだなぁって思います。それにマーキングかどうかは分からないけど、偶にアレクの香りが自分についていると、安心します」

「そうか!」

 そうかそうか。俺の匂いで安心するのか。
 かわいい奴め。

「あっでも、ローガンさんが蹲るくらい強いのは、ちょっとどうかと思いますよ?」

「あ・・・・すまん」

「いえいえ。それより、ロロシュなんですけど。あの人、騎士団に配属されてから、どんどん言葉遣いや態度が悪くなっていったでしょ?あれも劣等感の現れみたいです」

「成る程な。それにしても、この短期間でよくそこまで聞き出せたな」

「へへ。最初にきついのをお見舞いしましたからね。口を割らせるのが楽になりました」

「・・・頭が高い。か?」

「もう!! 言わないでって言ったじゃん!!」

 俺は格好良かったと思っているんだぞ?
 恥ずかしがらなくても良いと思うが?
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