獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
333 / 765
愛し子と樹海の王

リアンパパは活躍中2

しおりを挟む
 ◇◇◇

「オーベルシュタイン侯爵、これはいったいどうなされた?」

 クソッ、オズボーンめ。ぶよぶよと醜い腹を揺らしおって。
 お前の様な親父が、わざとらしく目を見開いても、気味が悪いだけだわい。

「オズボーン伯、遠路ご苦労でった。其方、殿下より何も聞いていないのか?」

「殿下からは、侯爵が困っているから助けよ、とだけ」

「成る程。殿下は今お忙しいからな。文官辺りから、説明があると思われたのだろう。この有様で、3日後にはエスカル殿下の引き渡しもあるのだ。頭の痛い事ばかりだ」

「3日後・・・」

 ふむ、食いついたか?

「侯爵様、あれは宝物ではないのか?!あんな物まで運び出すとは、本当にどうされたのです?」

 食いついたのはそっちか。
 それよりも、あれが我が家の宝物だと、何故知っている?

「・・・・・カビだ」

「は・・・カビ?」

「そうカビだ。城の食糧庫に質の悪いカビが生えてな。食料が粗方やられてしまった。そこで殿下に援助を頼んだのだが、食糧庫のカビは除去できたのだが、今度は城の中でもカビが見つかってな。先祖伝来の宝物やら、家具などが被害にあわぬよう、除去が済むまで一時的に、非難させている処だ」

「たかが、カビで?」

「そうは言うがな。今年は猛暑が続いているであろう?一旦カビが生えてしまえば、何もかも駄目になるまで、時は掛からん。私もこれ程の被害になるとは思っていなかった。其方も重々気を付けられよ」

「なっなるほど」

 こんな、見え透いた嘘を、本気で信じたのか?
 閣下は,誰かを騙すなら、相手のレベルに合わせた嘘の方が信じ易い、と言っておられたが・・・今までこの男に抱いていたイメージと違うように感じるのは気のせいか?

「そういう訳でな。遠路遥々物資を運んでくれた、其方には申し訳ないのだが、城に泊める事が出来んのだ、代わりに別宅を用意させたから、そちらで休んで欲しいのだが」

「それは構いませんが」

「その別宅も、たいして広くなくてな。この有様で、準備まで手が回らんのだよ」

「そう・・・ですか」

「折角物資を運んでくれた、其方や護衛の面々を、もて成すことも儘ならんとは、いやはや面目次第もない」

 落胆と好奇心が隠せていないぞ。
 これが演技なら、大したものだが、こんな小物感を醸し出す奴だっただろうか?

「しかし、これ程大勢の護衛をとは、流石伯爵だ。だが別宅では、全員の宿泊は無理そうだ」

「さっ左様ですか。前回のように、盗賊に物資を奪われては、侯爵様に合わせる顔がございません。公爵家の騎士団の足元にも及びませんが、せめて人数だけでもと」

 はっ!いけしゃあしゃあと、舐め腐りおって。
 まこと面憎い奴だわい。

「成る程。気を使って貰ったのに申し訳ないのだが、別宅へは身近な者たちだけ連れて行き、残りはうちの騎士の宿舎で休んでもらうと言うのは如何か?」

「何人ほど連れて行けそうですかな?」

「そうですなあ。10名」

「ほとんど置いて行かねばならんのですか?」

「何か問題があるか? 別宅は街中にあり、魔物の心配も無い。帰る時に合流すれば良いだけだろう?」

「それはそうですが・・・この人数が寝泊まりできるほどの、部屋があるのですか?」

「見ての通り、宝物を非難させているのでな。その警護で半数以上が城を離れて居るのだ。空き部屋はいくらでもある」

「そうでしたか・・・・」

 軍事に疎いお前でも、城が手薄だと分かるな?上手くゴトフリーを油断させるのがお前の役目だぞ?

「それに、ご令息とじっくり話し合うのに、騎士が大勢うろうろしていると、落ち着かんだろう」

「は?・・・・息子?息子がなにか?」

「おや? まさかその連絡も受けていないのか? 皇宮も人員が入れ替わったばかりとは言え、流石に怠慢すぎるな、殿下に報告しなくては」

「殿下? オレステスに何かあったのですか? もしや王配に選ばれたとか?!」

 目をギラつかせて、何を言っているのだ?

 やっと分かった。
 コイツはアホなのだ。
 アホすぎて、逆に裏があるのでは、と周りが勝手に勘繰ってしまうだけなのだ。

 まぁ、アホな分簡単に踊ってくれるのだろうが・・・・。

「何を言っているのだ。其方がすべきことは、急ぎ殿下に謝罪する事だ」

「謝罪?それは・・・どういう・・・」

「其方の息子オレステスは、グレコ伯爵の令息、テイモンに暴行を加え、それを諫めた、大公閣下と愛し子様に暴言を吐き、砂を投げつけ唾を吐いたのだ。それに対し殿下は大層ご立腹でな、オレステスは蟄居を命ぜられた」

「なっ?!  なんですと?」

 皇宮には、こやつの手勢も居たであろうに。

 自分の城が制圧されたことも、気付いた様子は全くないな?

 ここまで情報漏れを防ぐとは、閣下の部下は誠に優秀だな。

 しかし、ここまで閣下の予想通りとは。
 コイツがアホすぎるのか。
 閣下が恐ろしいのか・・・。

「初めは其方の城に送り返される予定だったが、其方は城を出た後でな。このような蛮行を働いたのは、オレステスは精神に異常があるのではないか、と殿下が仰られ、直ぐに父親である其方が監視・・面倒を見られるようにと、ここへ送り届けて下さったのだ」

「そんな、いつ」

「其方の息子が到着したのは、昨日の事だ。しかし到着早々騒ぎを起こしてな。うちの長男の顔に傷をつけられた。殿下が仰るようにあれは正常とは言えんだろうな」

 8割の真実に2割の嘘。
 早々見抜けはせんだろう。

 さてさて、今後の展開がどうなるか。

 閣下の描いた筋書き通りに行くかどうか。
 久方振りに胸が躍るわい。


 ◇◇◇

「オズボーンは、ゴトフリーの陣営に逃げ込んだか?」

「それはもう、一目散に」

「隠してあった物資と奴の私兵も、全て押さえてあるな?」

「抜かり無く」

「ゴトフリーの兵の動きは?」

「閣下の予想通りです」

「・・・・ブレイブ伯は何か言ってきたか?」

「あの特使ですか?これと言った動きはありませんが」

「ふむ・・・・あれは武官ではないし、まだ若い、戦意を見せなければ、適当に見逃してやれ」

「侯爵様、人が良すぎますよ?」

「そうか? 私は臆病だからな。これまで奪って来た命と、これから奪う命。 私は地獄行き確定だろうが、一つくらい善行を施しておけば、永劫の地獄の責苦も、多少は短くなるやも知れんだろう?」

「成る程。確かに永劫と言われるより100万年と言われた方が、先が分かる分、楽かもしれませんな」

「そう言う事だ。 あとはエスカルを引き渡したら、城まで逃げるだけだな」

「逃げですか・・・」

「どうした?」

「いえ。うちの連中に、逃げる演技など出来ますかね?」

「そうだなぁ。今まで、人でも魔物でも、叩き潰せとしか言って来なかったからなぁ」

「駆け引きや、騙しは侯爵様達が引き受けて下さっていましたし、うちの連中は単純ですから」

「確かにそうだ。閣下の要求されることは、簡単なようで、気を使う事柄が多い気がするな。中々に興味深いお方だ」

「私は閣下を遠目でしか、拝見したことがないのですが、噂通り恐ろし気な方なのですか?」

「そうだな・・・見た目はかなり迫力があるな。貴族の子弟が泣き出すのも納得な、見た目ではある」

「ほほう、やはりそうでしたか」

「だがな、その恐ろし気な閣下も、愛し子様にはとろける様な、甘い視線を送られるのだ」

「ほう? それを愛し子様はどう受け止められるのですか?まさか泣き出したりはしませんよね?」

「それがな、恥ずかしそうに、それでいて閣下以上に、甘い表情を返されるのだ。お二方の仲睦まじさは、噂以上だぞ?」

「・・・・・さすがは獣人とその伴侶、と言うことですか」

「信じられんだろうが、見ればわかる。そんなことより、我らは閣下の言いつけ通り、逃げる算段をしなくてはな」

「はあ。面倒ですが、仕方ないですね」

 予想通りなら、開戦は明日。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 今から楽しみだわい。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...