獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

モーガンの恋愛講座・基本編

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「レン様~?どっか、いたい~?」

「アレク~。レン様、なきそうだよ~」

 肩を震わせるレンは、ドラゴン達の首に縋る事で、やっと立って居られる状態の様だ。

「レン、こっちにおいで」

 背後から抱き上げると、レンはすぐに俺の首にしがみ付いて来た。

「ヨナスが、そんなに怖いのか?」

「・・・・お化け怖い」

 おばけ?
 おばけとは?
 魔物よりも、恐ろしい存在なのか?

「ホラー映画嫌い」

 映画は、前に教えてもらったから分かる。
 しかし・・・ほらー?

 ”おばけ” と ”ほらー” は分からんが、兎に角、ヨナスをレンが苦手としている、という事は理解した。
 
「俺が居るだろ?心配するな」

「う~~~」

 う~~む。

 いかん、これは重症だぞ。
 こんな状態のレンを、ヨナスの所へ連れて行っても良いものか?

「レン様は、さっきから、どうしちゃったんだ?」

「お加減が悪そうだが」

「それが、レンはヨナスの何かを、感じ取って居る様なのだが、それを酷く恐れていてな、話す事も儘ならん」

「クレイオス様が、こっちに無い感覚って、言ってたやつか?」

「恐らく」

「本当に血の気が引いて、顔色が真っ白だな。・・・クレイオス様に、対処して頂いた方が良いのではないか?」

「う~~ん」

 クレイオスに、対処できるものなのか?
 レンの国の神へ、祈る事を勧めて来たんだぞ?

「駄目元でも何もせんよりは、良くはないか?何よりこのままだと、レン様が御可哀そうだ」

「だよな。一度こえ~と思っちまったもんを、乗り越えるのって、結構つれ~もんだし、後になるほど酷くなんだろ?」

 おぉ!
 セルゲイが、まともな事を言っているぞ。
 大人になった・・・いや。
 さては、中身が別人に入れ替わっているな?

「2人の言う通りだ。クオン、ノワール。クレイオスはどこに居る?」

「「あっち~!」」

 二匹は揃って同じ方向を羽で指し示した。

「お前達、ひとっ飛びして、クレイオスを呼んで来てくれ」

「「は~い」」

「レン様、まっててね~」

「すぐ、もどってくるよ~」

 チビ助二匹が心配するくらいだ。
 レンの状態は、本当に良くないのだろう。

「マーク。ロロシュはどうだ?」

 マークは蹲るロロシュの前にしゃがみ込み、氷で顔を冷やしてやって居る。

「それが、痛みで集中できないらしく。まだ治せていません」

「ロロシュ。レンは今、治癒どころではない。レンを頼りにするなよ。自力で何とかしろ」

「はぁがぃ」

 まだ喋れんか。
 森に生えている物を、不用意に口にする馬鹿がどこに居る。

 自業自得。

 普段から、余計な事ばかり言う、悪い口への天罰だ。

 ちびドラゴン達に呼びに行かせたクレイオスは、程なくレンの元に舞い降りて来た。

 地上に降り立ったクレイオスは、レンの様子を一目見るなり、俺の腕からレンを奪い取った。

 俺に、なんの断りもなくだ。

 この様な横暴に対し、俺は断固抗議する!

 と、息まきたい処ではあるが、今はレンの回復が急務だ。

 今は我慢。我慢だ。

 それは分かって居る。
 分かって居ても、腹の立つことに変わりはないがな!!

 何が腹が立つかって?

 俺からレンを奪い取ったクレイオスは、近くの倒木に腰かけ。幼子をあやす様に、膝に乗せやがった!

 それは、番の俺だけに許された行為だ!

 幾らクレイオスが、レンの父親を僭称しようと、実際は赤の他人だぞ?!

「グッルルル・・・」

「閣下。気持ちは分かるが、今は堪えて」

「喉。喉鳴ってるって、獣歯が出ちゃってるから!」

 ワタワタと、俺を宥めようとするセルゲイとモーガンが鬱陶しい。

「おい!アーチャー!!どうにかしろよ!!」

「はい?閣下はそれが平常ですから、放って置いても問題ありません」

 おい、マーク。
 いくらロロシュに掛かりきりだからって、その言い方はどうなんだ?

 2人が誤解するだろう。

「平常・・・・天下のクロムウェル大公が?」

「まぁ・・・番を前にした雄なんて、皆こんなものだ」

「マジか・・・俺の方が理性的じゃないか」

「お前はそうやって気取ってるから、何時まで経っても、番を落とせないのだ!!」

「うわぁ。そういう事言うのかよ?!酷くない?!」

『煩いッ!!我は今、繊細な力の使い方を伝授しようとしておるのだ!邪魔をするなら、其方ら全員吹き飛ばしてしまうぞ!!』

「あ・・・・」

「はい」

「すみませんでした」

 クレイオスに一喝され、俺達はすごすごと後ろに下がった。

「閣下の所為で、俺まで叱られちゃったじゃねぇかよ」

「煩い」

「なんだよ。自分の遣り様を見て学べとか言っといて。番相手にデレてるだけじゃん」

 小馬鹿にしたように、セルゲイは両掌を竦めて見せた。

 コイツ、求愛も上手く出来ないくせに。

 地面に埋めてやろうか。

「だ・ま・れ」

「ゲオルグ団長。何か誤解している様だが、閣下の反応は正常だぞ?もし大袈裟だと思うのなら、考えを改めた方が良い」

 諭そうとするモーガンに、向けられたゲオルグの眼は懐疑的だ。

「何でだよ」

「分からないのか?お前は、まだまだ子供だな」

「はあ?!」

 クレイオスの、怒気を含んだ視線を向けられたセルゲイは、肩を竦めて声を落とした。

「なんで、考えを改めなきゃいけないんだ?」

「なんでって、レン様は人族だぞ?人族には獣人が番に感じる、絶対的な感覚は理解できない。獣人同士なら互いに番を求めあうが、人族は違う。いつ何時、番に捨てられるかもしれないというのは、恐怖だろ?」

「番に捨てられる?・・なんて・・・ない」

「いや、在る。レン様は無条件に、閣下を受け入れて下さったそうだが。番だからと言って、レン様のように、無条件で愛を返してくれる人族は稀だ。彼等は、自分が愛するに値する相手だ。と認めなければ、愛を返してはくれない。そして、愛が足りないと感じたら、直ぐに離れて行ってしまう」

「マジか・・・」

「人族を番に持つという事は。一生愛を乞い続け、番に相応しく在ろうと、努力し続けねばならない。だからこそ人族は、獣人の事を情熱的だと言うのだ」

 なんとなく、セルゲイとの会話が、噛み合っていない気がしていたが、そこを理解していなかったのか。

 基本が分からねば、俺がいくら言って聞かせたとしても、身が入らない訳だ。

「お前の番が人族かどうかは知らんが、部下に人族を番に持つ者は多い。そこの所を理解した人員配置も必要だな」

 流石モーガン。
 話しの持って行き方が、実に巧い。
 勉強になるな。

 王都を焼け野原にした、首謀者との対決を目前にして、恋愛話しなど、巫山戯ているのか!と人族なら言うだろう。

 しかしだ、獣人にとって番との関係は、生死に関わる重大事項なのだ。

 そして、生きる為、戦う為の、意欲と動機となる。

 決して脳内が、お花畑な訳では無いのだ。

 クレイオスがレンにヨナスへの対処の仕方を伝授している間、モーガンの恋愛講座は続いていた。

 その熱い語り口調から、モーガンもセルゲイの不甲斐なさに、歯がゆい思いをしていたのだ、と察することが出来た。

 レンもクレイオスの教えを理解したのか、幾分顔色が戻って来たように見える。

 レンの為には必要な事だった。

 と理解はしているが、それでも自分の番が他人の膝の上で、手を握られている姿を見せ付けられる、というのは、拷問に近い苦行だった。

 もしこれが、ロロシュがかぶれる事を知って居ながら、見て見ぬふりをした事への罰なのだとしたら、腹の立つ奴にも、優しく接してやらねばならん、という事か?

 本当に、世の中と言うものは、理不尽の塊なのだと、改めて感じてしまうな。
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