獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

クレイオスの霊感講座・入門編

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 モーガンの恋愛講座を聞いていて、今更ながらに気が付いたのだが。

 俺はレンへの求愛で、全く苦労をしていなかった。

 レンは俺の話しを聞いて、獣人と番とは、そう言うものだ、とすんなりと俺を受け入れてくれた。

 互いに恋愛慣れしていない事や、文化や考え方の違いで、困る事も有ったが、俺達はずっと仲も良いし、レンも俺を試すような言動を取ったことが無い。

 レンと出逢ったばかりの頃は、良くミュラーに相談に乗って貰ったり、助言を貰う事も有ったが、他の獣人達の様に、相手の要求にどう応えるかではなく、多くを望まない番を、どう喜ばせるか、が多かったと思う。

 モーガンが言ったように、無条件に愛を返してくれる人族は稀だ。

 いや、温厚な事で有名な、ミュラーでさえザックの機嫌を取るのに必死なのだから、皆無と言っても良いだろう。

 それを思うと、俺の様に無粋な男が、レンのような、在るがままを受け入れてくれる人と、巡り会えたのは奇跡と言ってもいい。

 そう・・・レンは人や物の本質を見て、在るがままを受け入れてくれる人だ。

 ロロシュのような、ひねくれ者の扱いには、困る事も有る様だが、それでもレンは全てを受け入れ、その上で対象となる相手の、良い処を見つけ大切にしてくれる。

 だからこそ、誰もがレンに心を開き。癒しを得る。

 そんな俺の番が、受け入れがたいと感じるヨナスとは、如何なる存在なのだろうか。

 似たような存在だったヴァラク相手でさえ、レンはこれ程の拒否反応を見せなかった。

 それにこの気配。
 全身に纏わり付く様な、薄気味悪さ。

 ヴァラクが生み出した瘴気溜まりや、アウラを呪った呪具とも違う。

 俺はこの感覚を表す言葉を知らないが、敢えて言うなら・・・異質。

 俺達とは異なる、異質なもの。
 としか言い様がない。

 今、丘の上から見下ろしている、ドラゴニュートの隠れ里も、この森も。

 以前俺達が訪れた時は、空は抜ける様に青く、もっと大らかと言うか、のんびりした印象を受けた。

 それはヨナスと共に穏やかに暮らしたいと願う、ドラゴニュート達の想いに添った、空間だったように思う。

 それが今はどうだ?

 同じ様に青い空は、いかにも作り物めいて見え。

 里も森も、瘴気とも異なる、薄暗い何かに覆われているようだ。

 これが神話の時代、地上を蹂躙した魔族との血を引く者と、そのものが創り出し、封印を解かれた生物兵器である、ドラゴニュートが、纏う気配なのか。

 それとも長い戦乱の果てに、リザードマンがドラゴニュートへ変じたように、ウジュカを呪い続けたヨナスも、魔族と獣人の混血から、別の何かへと変じたのだろうか。

 そう言えば、クレイオスはヨナスの事を、聡明で気立ての良い雄だったと言っていたな。

 カルは、適当な昔話をするが、子供達に好かれる、気の良い爺さんだったと言っていた。

 しかしアーロンは、ヨナスを執念深く苛烈な性格だと話している。

 ヨナスの本当の姿とは、どのような人物なのだろう。

 それに、クレイオスはヘルムントは生涯番を見つけられなかったと言い、アーロンはヨナスの番だと言う。

 しかし、ヨナスが生涯愛したのは、父親のレジスだけだ、と・・・。

 まるで、学者によって見解が違う、歴史の授業を受けているみたいだ。

 だが、クレイオス達三人のドラゴンと龍は、本物のヨナスと会い、言葉を交わしている。

 それなのに、こうも人物像が定まらない、というのはおかしな話だ。

 まあ、自分で言うのもなんだが、レンにとって俺は、世界で一番恰好の良い番だが、世間一般から見れば、ただの醜男な訳だし?

 騎士としての実績は在るが、身内殺しの悪鬼でもある。

 それにセルゲイから見れば、俺は番にデレ甘な、情けない雄って事だしな。

 人物評価は、評価する側の感じ方で大きく変わるものだ。
 評価される側の、相手に対する好悪もあるだろう。
 神だとて、人の心の中の全てを見通せるものでも無いだろうしな。

 だとしても、子供に人気者の爺さんと、神話の時代から現在に至るまで、ウジュカを呪い続けていたのが、同一人物とは・・・・。

 げに恐ろしきは人の性。と言えばいいのか?

 あ~~~。それにしても。
 力の使い方の伝授とやらは、まだ終わらんのか?

 何時まで俺は、他人の膝の上に乗せられた番を。見て居なければならんのだ。

 本当に腹の立つ。
 力の使い方を教えるにしても、もっとこう・・・・な?

 無駄な触れ合いは、減らした方が良くはないか?!

「うひゃひゃ~~。カリカリしてんなぁ」

「やめなさい。ゲオルグ、お前だって明日は我が身だぞ」

「そうだけどよ~~。閣下ッてさあ。乱暴な口聞いても、なんだかんだで、育ちの良さってもんが滲み出てるじゃんか」

「そうだな。閣下が人族に生まれて居れば、皇帝になって居てもおかしくないからな」

「だろ?そんな閣下がさあ。あんなちっこい番相手に、オロオロしてんの見ると、なんつ~か、ほのぼの?うん。ほのぼのした気分になるんだよなぁ」

「言いたいことは分かる。分かるが。それは胸の中にしまっとけ?」

「なんでだよ」

「お前が求愛に成功すれば、嫌でも分かる。お前、本当に頑張れよ?私も閣下も、同僚が番に振られて、焦がれ死ぬのを見るのは御免だぞ」

「縁起でも無い事言うなよ」

「考えを改めないで、今のままなら、8割方焦がれ死にだぞ?」

「マ・ジ・で・止めてくれ」

 モーガンは真面目な奴だが、結構おしゃべりだな。

 ・・・・そうか。

 第3の連中は真面目過ぎて詰まらんと言っていたのは、話し相手になってくれないからか。

 それにしても。

 ・・・・・はあ。

 まだか?まだ終わらんのか?

 ロロシュは、フゲフゲ煩いし。
 まったく、さっさと治せよ。

 ん?
 クレイオスが、レンの手を放した。
 終わりか?
 やっと終わったのか?

『アレクサンドル。こっちに来い』

 言われなくとも!

「終わったのか?」

『うむ。完璧ではないが、前よりは楽になるだろう』

「レン。おいで」

 屈んで番に腕を伸ばすと、レンは俺の首に腕を絡め、大人しく抱き上げられた。

 最初の頃は、抱いて歩くにも、大騒ぎだったのが嘘のようだ。

 あぁ。
 やはり、レンの香りには癒しの効果があるな。

「それで?どうしてレンは、こんなに怖がっているのだ?」

『ふむ。其方達獣人は、人よりも感覚が優れて居るが、見えぬものが見える。という者は稀だの?』

「見えないものが見える?謎掛けか?」

『言葉のままの意味だ。レンの世界ではこれをシックスセンスとか、霊感、第六感とも呼ぶのだが。其方、何かの気配を感じる事は在っても、目で見ることは出来んだろ?』

「感覚としては分かるが、見えたりはしないな」

『瘴気と似たようなものなのだ、其方らは、レンのアミュレットが無ければ瘴気は見えんが、見えなくとも、なんとなく嫌な感じはしたであろう?』

「まあ、そうだな」

「ヴィースで生き物が死ねば、その魂は輪廻の輪に戻るか、地上に留まった場合は、瘴気を経てレイスなどの魔物へと変じ、実態を伴ったものになるのが基本じゃの』

「ふむ」

「しかし、瘴気にも、魔物へも変じる事なく、怨念と化したものは、それなりの力を持たなければ、見る事は出来ない。レンは力が増した事で、彼方で云う処の霊感と言う物を、体得してしまったのだ』

「それが見えない物を見る力。という事か?」

『その通り。人の想いは、楽しい嬉しいという、明るい感情よりも、辛い、痛い、恨めしい。という暗い感情の方が強く作用するものでの。それが、瘴気を生み出す原因でもあるのだが、その瘴気よりも質の悪いもの、と考えれば良い』

「・・・・レンには、何が見えている?」

『人の醜い感情の全てが、今のレンには象られて、見えて居るのだ』

「ちょっと、よく分からないな」

 首を傾げる俺に、クレイオスは目を眇め、眉根を寄せて見せた。

 こいつ、馬鹿にしてるな?
 
 知ったか振りをするよりマシだろ?
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