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千年王国
妊活開始
しおりを挟む毒を撒くのだって酷い話だけれど、ここまで堅牢な壁を建設するほどの事ではないような?
「それで、果樹園を壁で覆ったの?」
「それもあるが、侍従が毒を撒くのに失敗した後。追い詰められた大司教が、神官や王都の民を先導し、暴動を起こした」
「王城に火をかけた、首謀者不明って本にあったやつ?」
「それだ。まともな武器も持たない平民の集団を制圧できず、城に火を放たれた当時の騎士団を ”無能” と記した歴史書もあるが、暴動に加わったのは本来護るべき相手だ。それに大司教に従ったのは、子を欲する若い民達だった。当時の騎士達の剣も鈍ろうというものだろ?」
「うん」
「最終的に大司教と、彼に追随した神官が打ち取られた事で暴動は治まったが、王家のラシルの木は、半分が燃やされてしまった」
「だから要塞化しちゃったのね?」
「一度あることは二度あると言うだろ? 同じ事が二度もあってはならないが、用心に越したことはない、と考えたようだ」
「なるほどねぇ。それで神殿に植え替えられた、ラシルの木はどうなったの?」
「うむ。民達は元の場所に戻してほしい、と要望していたそうだが、以前のように街中に植えるはどうなんだ? 不用心ではないか? という話になってな」
「それはそうよね。大司教みたいな変な人が、悪さをするかもしれないものね」
「疑いたくはないが、悪い意味での前例が出来てしまったからな。それ以降、ラシルの木は王家と各領主が管理、保全に努めることになり、果樹園への無断立ち入りが禁止されたのだ」
「だから、どこに行ってもラシルの木を見かけなかったのね」
「うむ。稀に山や森の中で自生していることもあるが、そちらは離木と呼ばれている。しかし僻地の農村でも離木を利用する者は少ないな」
「どうして?」
「単純に実付きが悪いからだ。ラシルの木は一年中花が咲き実が生るが、必要な時に必要な数を収穫できるとは限らんだろ?」
「そっか」
「離木と比べ、街木は人の手で管理され、果樹園と呼べるほど数も多い。天候によっては不作の年もあるが、供給が間に合わないと言う程ではないからな」
こうやって話していると、アレクさんて、やっぱり博識だと思う。
皇家の一般教養って、どれだけ詰め込まれるのかしら?
「閣下~」
「入らないんですか~?」
あら?
門番の人が困ってる。
扉を開けて待っていてくれたのに、悪いことしちゃった。
門番の二人にヘコヘコ頭を下げて、見るからに重そうな鉄製の門をくぐると、門から続くアプローチの先は、敷地いっぱいに白壁が張り巡らされ、その内側に平屋建ての建物が見えます。
「お外の壁に比べて、随分スイートな建物ですね?」
「ここに来る目的が目的だからな。無骨な建物では夢が無かろうと、暴動の後焼け落ちた建物の代わりに、建てられたのがこの管理棟だ」
なるほど。
「たしかに夢いっぱい、って感じではありますね」
ここを建てさせたお方は、なかなかのロマンチストだったようですね。
青い屋根、換気の為でしょうか、開け放った窓から風に揺れる純白のカーテンが、陽の光を浴びてきらきらと。真っ白な壁にはつる薔薇が巻き付き、玄関までのアプローチも、奥の半分は薔薇のアーチが続いています。
花の盛りの頃にここを訪れたら、きっと夢のように美しい景色なのだろう、と想像が出来。小さな妖精が、ひらひらと舞い踊っていてもおかしくないファンタジー感と、ハートが飛び交う新婚さんのスイート感がマッチしたような。
平たく言えば、リゾートの可愛いペンションを大きくした、そんな感じです。
と言っても王族や皇族は、政略結婚が基本なので、どんなに冷え切った関係でも、外側だけでも甘々じゃなきゃ、遣ってられなかったのかも知れませんね。
次に来る時は、お花が咲いている時がいいな。
なんて、思ったりもしましたが。
よく考えたら、その頃には私達はエストに居るかもだから、ここに来るのは最後かもしれないのよね。
う~ん。
すごく残念。
まあそれも、一度で赤ちゃんが出来れば、の話なんですけどね?
アレクさんが涙を見せたあの夜から、私達は家族計画について話し合い、彼の理想は子供は5人。双子が生まれれば尚良し。とのことで。
それを聞いた私は、彼が本当に子供を望んでいたのだと、漸く納得できたのでした。
「でも5人は多過ぎない? しかも双子って。お世話もすっごく大変よ?」
「俺は4人兄弟だぞ? それに双子は一度で幸せが2倍。特じゃないか」
「特って、子供はセール品じゃないのよ? それにアレク達は、お母さんが違うでしょ? お母さん3人で子供4人と、一人で5人を一緒にしちゃいけないと思うの」
「なら、俺が3人産むか?」
「は? ・・・その手があったか」
「な?」
「あの・・・な? じゃなくて。そもそも私が、どうやってアレクを妊娠させるの?」
「・・・そうだった・・・だが、何か方法があるかもしれんだろ? 色々試してみても良いかと思うのだが」
色々って・・・。
そっちの方が怖いけど・・・。
ここは想像したら負けな気がする。
と言うやり取りを経て、後継ぎその他、諸々の諸事情を鑑みて、子供の数は最低3人。それ以上はその時の状況に応じて臨機応変に。と言う事で一応話は纏まりました。
後は、ラシルの実を貰いに行って、1週間食べ続ければ、妊活準備完了です。
話し合いの後は慣例に則り、皇内庁へラシルの実の収穫申請を行い、本日満を持して、ラシルの実の収穫にやって来た。というわけです。
管理棟に入り受付を済ませると、ロイド様以来の皇族の来訪に、興奮した様子の係の人が果樹園へと案内してくれました。
係の人の話だと、皇宮にあるラシルの木は、他の場所の木とは見た目から違うのだそうで「特別感とでも言うのでしょうか。ここの木々の世話をしていると、神の息吹を感じるというか、とにかく神聖な気持ちになるのです」
と熱く語るこの方こそ、神官になるべきなのでは? と思ってしまいました。
係の人の後について、受付の反対側から外に出て、しばらく歩くと今度は私の背丈くらいある木の柵に囲まれた、木々の梢が見えてきました。
「あちらの柵の中に植わっているのがラシルの木です。この果樹園は大まかに4分割されていまして、それぞれ実の生る時期が異なります」
「へぇ~。この優しいいい香りは、ラシルの花の香り?」
「はい。ここは1年中花が絶えることが有りません。ラシルは花が散るとすぐに実を結びます。そして熟した果実が落ちるまでが、2か月ほどになり。そして次の花芽が出来るまで休眠状態になります。そのサイクルが大体3か月。1本の木が実を付けるのは、1年で4回なのです」
「真冬でも同じなの?」
「はい。ラシルが実を付けるのに、寒暖差は関係ありません。ただ雹や雪の影響で、実が落ちてしまったり、傷がつくことは在ります」
「不思議な木なのね」
「神がお与えになった樹木ですからね。他の植物とは存在から違うのでしょう」
やっぱりこの人、神官に向いてそう。
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