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氷の華を溶かしたら
132話
しおりを挟む「これは失礼。ベラムド・ヴェーバーが、オセニアの星へご挨拶申し上げる。カラロウカ令息も健勝そうで何よりだ」
「ヴェーバー大公へ、キャニス・ヴォロス・カラロウカがご挨拶申し上げます」
ベラムド・アーク・ヴェーバー大公。
シェルビーに匹敵する長身。
エメラルドの瞳と、白皙の頬。
室内でも輝く黄金の髪。
無駄に雄のフェロモンを撒き散らすシェルビーとは、正反対な中性的な美貌の持ち主だ。
「・・・そなたが来ているとはな。気付かなくて悪かったな」
シェルビーが地を這う声を出したのは、キャニスが大公へ頭を下げたからか、単に大公を嫌っているからか。
恐らくはその両方だろう。
「お気遣いなく。王都へは着いたばかりで、タウンハウスへ行く前に、話題の裁判を覗いてみようと思っただけですので」
殿下に面と向かって、今日の裁判を娯楽扱い。しかも盟約も気にせず、声を掛けてくるってことは、大公家の免責特権は、盟約にも有効ってこと?
この人と直接顔を合わせたのは、ほんの数回だけど。相変わらず嫌な感じ。
「タウンハウスにも寄らず、裁判所へ直行か。暇なんだな」
「ええ、退屈する程度には、恙無く過ごさせて頂いております」
「退屈ね・・・では次の出征大公に任せるとしよう。大公も早く初陣を済ませた方が良いだろう?」
大公はこれまで免責特権を盾に、自身が戦場へ立つことも、大公領の騎士を戦場へ向かわせたことも一度も無い。
武門以外の貴族家が、跡取りの令息を戦に出さない事はままあり勝ちだが、家門の騎士をも参戦させず、参戦を呼び掛ける王命を、完全拒否したのは、ヴェーバー大公ただ1人。
「私は殿下のような、膂力も魔力も持ち合わせておりません。戰場ではものの役にも立たないでしょう。殿下は此度の戦でも、ご活躍だったとか。祝宴に間に合わず申し訳ございません」
慇懃に礼を取ったベラムドは、シェルビーの銀の仮面へ蔑みの視線を当て、二人の間で極寒の嵐が吹き荒れて見える。
無表情で、嫌味の応酬・・・。
この二人、相当仲が悪いみたい。
だけど、こういうのは二人だけの時にお願いしたいな。
僕も早く休みたいし。
「殿下。野次馬に気付かれる前に移動しませんか?」
「ん? あぁ、そうだったな」
「殿下、カラロウカ令息。次は王宮で」
え?
嫌だけど?
この人は、僕の商会の邪魔ばかりして来るし・・・。リリアナ嬢の件では今は証拠がないけど、心証としては真っ黒。
見た目は綺麗な人だけど、腹黒って感じで、良い印象は持ってない。
大公みたいなタイプの人は、近くで監視してたほうが、安全だって分かっているけど、できれば関わりたくないしね。
前に商談の邪魔をしてきた時、ラリスの友好国の王族の1人だからって、大目に見るんじゃなかったな。
王宮への帰途、キャニスとシェルビーは馬車の中でグッタリと席に沈み込んだ。
「疲れただろ? 城についたら起こしてやるから、寝てていいぞ?」
「そういう殿下こそ、無駄な心理戦でお疲れでしょう?」
「いつもの事だ。子供の頃はあいつと仲良くなろうとした事もあるが。自分を嫌っている奴に構って居られるほど暇でもなくてな。それに、あいつの陰湿さにはうんざりなんだよ」
その気持、分かるかも。
殿下や他の王家の方達もそうだけど、オセニアの人はおおらかな性格の人が多い。
殿下は大公みたいな陰に籠もった、サイコパスのヤンデレタイプは苦手なんだろうな。
まあ、サイコ好きなんて特殊な人の方が、少ない気はするけどね。
前世で大公とは、挨拶程度の関わりしか無かったし、印象に残るような話も聞いた事が無かったから、今までそんなに警戒してこなかった。
でも、僕は未来を変えてしまった。
今後あんな面倒臭そうな人に目を付けられたら、僕の静かな隠遁生活の邪魔になるよね?
殿下も大公を監視させているけど、僕ももっと警戒を強めるようにパトリックに頼んで、あの計画も前倒しにしたほうが良さそう。
帝国側も皇女を連れ戻してから、これと言った話は来ていないけれど、何かあったら直ぐに動けるようにしておかなきゃ。
「キャス? 眠いなら俺に寄りかかって」
「いえ・・・ぼくは・・・」
あ~?
・・・なんだろう。
あったかくて気持ちいい・・・な。
考えなくちゃいけないことが山積みなのに・・・。
お父様達は、僕をラリスの王に。
・・・なんて馬鹿な事を言っているし。
何度も断ってるのに・・・。
お兄様も、お母様まで一緒になって、ほんと馬鹿みたい。
ルセ王家の王位継承権を持っているのはお母様だし、お父様もお兄様も王様になりたくないなら、国ごと誰かに売っちゃえばいいのに。
帝国以外なら、オセニアでも、どこだって良いじゃない。
・・・なんで僕なの?
僕のことを持ち上げたって、使えないと思ったら、あの二人は梯子を外しちゃうに決まってる。
「そんな寝方をしていたら、首を痛めてしまうぞ? もっと此方においで」
キャニスの肩を抱いていたシェルビーは、力の抜けた体を抱き上げて、太腿の上に抱え直した。
「うーーん」
止めてよ。
勝手に抱き上げるなよ。
せっかく暖かかったのに。
・・・あれ?
こっちの方が、暖かい?
まあ、いいや。
・・・何処まで考えたっけ。
眠くて・・・・考えがまとま・・・らない。
「寒くないか?」
「ん・・・お父様も・・・お・・・・兄様も・・・・大っきらい」
「は?」
これ・・・二人が聞いたら気絶するだろ。
特にトバイアス。
大事な弟に嫌われていると知ったら、城の塔から飛び降りるんじゃないか?
あの二人、本当に何をしたんだよ?
家族の内輪に口出したしたくないが、寝言で言うなんて、よっぽどだぞ?
あの二人は、キャスの前世で前科があるしな。帰ったら、婦人に確かめた方が良いだろう。
「俺がついてる。心配するな?」
小さな呟きへの返事なのか、シェルビーの胸に頬を擦り寄せたキャニスに、嬉しそうに目を細めたシェルビーだった。
王太子と婚約者(暫定)の二人が乗る馬車が王城の馬車停めに止まり、扉を開けた出迎えの侍従は、気持ちよさそうに眠るキャニスと、キャニスを愛し気に抱き抱える王太子が、“静かに” と唇の前に指を立てるのを目撃した。
優しさを湛える隻眼に、侍従はニッコリと微笑み返し、静かに扉を閉め直した。そして馬車の前へ周り、御者へ王城を巡る馬車道を、ゆっくり回るように伝えると、御者も “心得た” と頷き返した。
王太子の婚約者(暫定)への心遣いに侍従と御者は、ホッコリした気分を沁沁と味わったのだった。
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