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わたしの男

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 方法があるんだ。そう思ったらなんだか安心して、急にレンブラントのことが気になった。ずいぶん待たせてしまっている、怒ってないかしら?

「えっと、ごめんなさい、ちょっと待ってて」
「何よいいとこなのに」
「人を待たせてて。ごめんなさい」
「なあに? あれ」

 呆れるアンネリーゼの大声に、申し訳ないと思いながら外へ出ると、レンはいなかった。立哨の兵士に聞くと、厩舎へ行ったという。そうか、そうよね。馬も休ませなければ。

 ついてきてってお願いしておいて、着いたら放っておくなんて、わたし何考えてるの? レンは何も言わずに来てくれたのに。
 話はまだ長くなりそうだし、そうなったらわたしはいいけど、レンはどこへ行けばいいの? 眠る場所も用意してあげられないわ。本当、考え無しだった。ごめんなさい、レンブラント。

 とぼとぼ戻ると、アンネリーゼが向かってきてにらんだ。なに?

「男がいるの?」
「なんてはしたない口の聞き方!」
「うるさい! ペトラから聞いたわ、ローゼンダールの王子とくっついたって」
「くっつ……」

 あり得ない。一体どういう育ち方したのこの子。

「言い直しなさい!」
「許せない!」

 同時に発した言葉の、怒りはアンネリーゼが上回った。彼女はもう一度しっかりと言った。「許せない!」

「どうして⁉︎ 男がいるのになんでいつまでも人の男使ってるのよ!」
「意味が分からないんだけど?」
「あんたも好きなんだと思ってたから我慢してたのに!」

 あっ────……
 そうか。
 アンネリーゼは王が好きなんだ。そういえばキスしていたわ。忘れてた。

 色々雑に育っているけれど、望んだことには一直線だもの、好きに決まっている。考えたら、聖女なんてものに収まっているのも、形の上だけでもそれが正妃だからだわ。こんなところで我慢しているのも、ぜんぶ王のため。ちょっと考えれば分かるのに、わたし、本当に何も見えていないのね。

 アンネリーゼは顔を真っ赤にして、涙目で睨んでる。そりゃあそうだよね、わたしが馬鹿だった。

「ごめんなさい。わたしにとっては許せない人だったから、つい、いい気味だと思ってた。そういえば好きなのよね、王が」
「好きよ! おじさんでも女好きでも、あんないい男はいないのよ! 当たり前じゃない!」

 確かに格好良いし、倍も年が違うけれど素晴らしい男ではある。百歩譲って制度のせいだとしたら、許せなくも────許せないわ。

「悪いけれど、わたしも長いこと奉仕したの。たかだかひと月働かせたところで心は痛まないわ。あともう少しだし、カミラの言う世代交代が済んだら返してあげるわよ」

 そもそも、わたしがぼろぼろになったのは、浮気癖のせいだから、貴女も同罪なのよ、アンネリーゼ。
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