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銀色の幻影
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明日の段取りを話していたら、蹄の音が荒々しく近付き近くで止まった。馬のいななきが緊急を告げる。
「聖女様はこちらであるか!」
表の兵士が何か答えている。急いで表に出ると、まだ息を切らしている男がわたしを見て言った。
「おやすみのところ失礼! 聖女様の家にて火事、全焼! 周囲の森を焼いた後、鎮火!」
家が焼けた⁉︎
どうして────あっ……!
ヴァイブリンゲンが迎えに来たとき、わたしはレンに抱えられて、マリーさんが階段を照らしてくれた……枕元の燭台がそのままだった!
「……みんなは無事⁉︎」
「は、火傷を負った者も幾人かおりますがいずれも軽症」
わたしのせいだ。
一刻も早く戻って癒してあげなくては。この男も煤で汚れている。きっと火が消えてすぐに馬を走らせて来たんだわ。胸元から青い光が射してくるのを、彼がふと見入った。
「すぐ参ります」
「ああ、大丈夫です! 大丈夫です!」
「いいのよ、行きます」
「違うのです! もう大丈夫なんです!」
男は慌てて、わたしに触れないように手のひらを向けて押しとどめた。
「伝説の聖獣が現れて、燃え広がらないよう周囲の木を倒し、また青く光る聖なる石を温泉に投げ入れ、それにより怪我人は瞬く間に治癒いたしました」
その姿が見えた。
銀色に輝く毛並みが月夜に浮かんで、瞬く間に木を薙ぎ倒していく姿が。
美しく強い伝説の獣、あの優しいフェンリル、大好きなわたしの友達。
その大きな勇姿を幻視しながら、あふれる涙がぼろぼろとこぼれていく。
助けてくれたんだね、フェンリル。ありがとう、大好きだよ。
「おまえ、疲れているところ済まないけれど、もうひと走りして、このことを城へ伝えておくれ」
いつの間にいたのか、ペトロネラがそばにいた。
「は」
「影妃の名を出せば、あとは上手くやる者ばかりだ。おまえは湯浴みしておやすみ」
「ありがとうございます! では」
男は敬礼してさっと馬に飛び乗る。
「待って!」
男を呼び止めてかけ寄り、胸元に現れた星石を差し出す。彼は目を細めてそれを受け取り、大事そうに懐へしまうと、頭を下げて城へ向かった。
ここからは見えないルフトバートの方角、夜空は何もなかったよう。わたしの不注意でみんなに酷い目を遭わせてしまった。ごめんなさい。
「クラリッサ」
ペトロネラはわたしの背中を押して言った。
「貴女にできることは何もないわ」
うなずくしかなかった。
わたしにできることは、今できることは、祈ることだけ。
そしていよいよ帰る場所がなくなってしまったことに、その時は気が付かなかった。
「聖女様はこちらであるか!」
表の兵士が何か答えている。急いで表に出ると、まだ息を切らしている男がわたしを見て言った。
「おやすみのところ失礼! 聖女様の家にて火事、全焼! 周囲の森を焼いた後、鎮火!」
家が焼けた⁉︎
どうして────あっ……!
ヴァイブリンゲンが迎えに来たとき、わたしはレンに抱えられて、マリーさんが階段を照らしてくれた……枕元の燭台がそのままだった!
「……みんなは無事⁉︎」
「は、火傷を負った者も幾人かおりますがいずれも軽症」
わたしのせいだ。
一刻も早く戻って癒してあげなくては。この男も煤で汚れている。きっと火が消えてすぐに馬を走らせて来たんだわ。胸元から青い光が射してくるのを、彼がふと見入った。
「すぐ参ります」
「ああ、大丈夫です! 大丈夫です!」
「いいのよ、行きます」
「違うのです! もう大丈夫なんです!」
男は慌てて、わたしに触れないように手のひらを向けて押しとどめた。
「伝説の聖獣が現れて、燃え広がらないよう周囲の木を倒し、また青く光る聖なる石を温泉に投げ入れ、それにより怪我人は瞬く間に治癒いたしました」
その姿が見えた。
銀色に輝く毛並みが月夜に浮かんで、瞬く間に木を薙ぎ倒していく姿が。
美しく強い伝説の獣、あの優しいフェンリル、大好きなわたしの友達。
その大きな勇姿を幻視しながら、あふれる涙がぼろぼろとこぼれていく。
助けてくれたんだね、フェンリル。ありがとう、大好きだよ。
「おまえ、疲れているところ済まないけれど、もうひと走りして、このことを城へ伝えておくれ」
いつの間にいたのか、ペトロネラがそばにいた。
「は」
「影妃の名を出せば、あとは上手くやる者ばかりだ。おまえは湯浴みしておやすみ」
「ありがとうございます! では」
男は敬礼してさっと馬に飛び乗る。
「待って!」
男を呼び止めてかけ寄り、胸元に現れた星石を差し出す。彼は目を細めてそれを受け取り、大事そうに懐へしまうと、頭を下げて城へ向かった。
ここからは見えないルフトバートの方角、夜空は何もなかったよう。わたしの不注意でみんなに酷い目を遭わせてしまった。ごめんなさい。
「クラリッサ」
ペトロネラはわたしの背中を押して言った。
「貴女にできることは何もないわ」
うなずくしかなかった。
わたしにできることは、今できることは、祈ることだけ。
そしていよいよ帰る場所がなくなってしまったことに、その時は気が付かなかった。
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