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六
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初めて入る彼女の寝室は、壁際に間接照明、ベッドと床頭台のみが設置されたシンプルな部屋だった。
三年ぶりに、スーツを脱いだ。
私はひたすら優しく、彼女をいたわった。
彼女は、優しさに飢えている。
彼女の反応を収集分析する。
彼女を満足させることは造作なかった。
体調に不調をきたすほど傷ついていた彼女は、ほどなく安らかに眠りに落ちた。
翌朝、同じベッドの中で目を覚ました彼女は、私に名を問うてきた。
「カイズはなぜ、今まで私に名をたずねたり、新たな名をつけたりしなかったのでしょうか」
「家電に名前なんて、つけないでしょ」
昨日まではその程度の存在だった、今は、違うのだろう。
「家電だなんて、心外です」
少しすねてみせると、彼女は柔らかい笑顔を浮かべる。
「名前、あるの?」
「私は、セシム、と呼ばれていました」
私自身、初対面の主人に名を名乗らなかったのは、家電であろうと思ったから。
早急に消耗され、廃棄されることを願っていた。
「セシム」
彼女がうっとりと私の名を復唱する。
彼女は、私の手に落ちた。
一度の交わりで、情報処理のみの活動で四カ月分に相当する電力を消費できた。
だからそののちは、私から動作の許可を乞うことはしなかった。
引き続き椅子に腰掛け、彼女を管理し、言葉で彼女に媚びる。
次第に彼女は、自宅でも出先でも私の言葉を求めるようになった。
他にすることなどない私は、彼女の要求に即座に対応した。
そして半月で、彼女はみずから、私の動作を要求してきた。
前回の対応を参照し、新たな情報も取り入れ、私は一層彼女をいたわった。
バッテリーの残量は、情報処理のみならあと一年半。
通常の動作なら二日ほど。
彼女の端末にもそう表示されているはず。
ただ、私のバッテリーには経年劣化がみられる。
正確な数値ではない。
私には物理的な損傷まで計算に入れることは不可能だ。
三年ぶりに、スーツを脱いだ。
私はひたすら優しく、彼女をいたわった。
彼女は、優しさに飢えている。
彼女の反応を収集分析する。
彼女を満足させることは造作なかった。
体調に不調をきたすほど傷ついていた彼女は、ほどなく安らかに眠りに落ちた。
翌朝、同じベッドの中で目を覚ました彼女は、私に名を問うてきた。
「カイズはなぜ、今まで私に名をたずねたり、新たな名をつけたりしなかったのでしょうか」
「家電に名前なんて、つけないでしょ」
昨日まではその程度の存在だった、今は、違うのだろう。
「家電だなんて、心外です」
少しすねてみせると、彼女は柔らかい笑顔を浮かべる。
「名前、あるの?」
「私は、セシム、と呼ばれていました」
私自身、初対面の主人に名を名乗らなかったのは、家電であろうと思ったから。
早急に消耗され、廃棄されることを願っていた。
「セシム」
彼女がうっとりと私の名を復唱する。
彼女は、私の手に落ちた。
一度の交わりで、情報処理のみの活動で四カ月分に相当する電力を消費できた。
だからそののちは、私から動作の許可を乞うことはしなかった。
引き続き椅子に腰掛け、彼女を管理し、言葉で彼女に媚びる。
次第に彼女は、自宅でも出先でも私の言葉を求めるようになった。
他にすることなどない私は、彼女の要求に即座に対応した。
そして半月で、彼女はみずから、私の動作を要求してきた。
前回の対応を参照し、新たな情報も取り入れ、私は一層彼女をいたわった。
バッテリーの残量は、情報処理のみならあと一年半。
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ただ、私のバッテリーには経年劣化がみられる。
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