赤い瞳のヒューマノイド

至北 巧

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 次の動作の要求が、待てど暮らせど指示されない。
 彼女が私のバッテリーに対し、非常に慎重になっている。
 しかし、私のほどこす癒しを欲して葛藤しているようでもあった。
 出先で幾度も端末から、私に残された時間を確認する。
 私にはそれがストレスだった。
 算段が、首尾よく処理されない。

 彼女が帰宅し、リビングに姿を見せる。
 私は若輩者ぶってしおらしく、語りかけた。
「カイズ、あなたを抱かせて下さい」
 私は元来、情報端末ではない。
 椅子に置いて対話させる、などという使われ方は不愉快だ。
 高度な機能が備わっているというのに、充電ができないおかげでそのほとんどの使用を禁じられている。
 それが私には、いたく退屈なのだ。
「どうしたの、急に」
 脈絡のない要求に、彼女は戸惑う。
「あなたが求めているからこそ、私に発言することが可能なのです。そうでもなければ人間に危害を加えるような行動を、ヒューマノイドはとれませんから」
 私の欲と取られぬよう、丁寧につとめて、説明する。
「あたしはセシムのバッテリーを、もう無駄にしたくない」
 反する彼女のその意思は、さほど強くないように思える。
「ならば、指示を無視してあなたを抱くまでです」
「そんなこと、できるの」
 ヒューマノイドは指示を無視した行動はまずとらないが、『気をかせる』に相当する行動は、実行できる。
 私の身体が欲しいと言えない彼女に、そう言わせることが、できる。
「本来なら、できません。この行動は、エラーでしょうか」
 彼女は私を無表情で見据みすえる。
 あわれんでいるようにも見えるのは、なぜだろうか。
「私が、愛しいあなたを抱きたいと言っているのです。この先こんなまれなエラーは、起きるかどうか知れませんよ」

 動作を許可され、全身に電力が行き渡る。
 三度目の寝室。
 充電さえ可能ならば、主人をおとしめるようなこの行動に問題はない。
 消耗を気にする必要がなければ、彼女は喜んで私に身体を差し出すはずなのだ。
 現に彼女は葛藤から解放されると、私の行為を受け入れて、私の身体にすがってくる。
 彼女の耳元に優しい言葉をささやくと、瞳に涙を浮かべ、私とずっと共にありたいとかなわぬ願いを訴えた。
 充電不可能な想定がされていないから、私は彼女に酷い仕打ちができるのだろう。
 消耗を抑えようという意思が、全く働かない。
 再度彼女に愛を囁き、くちづけたとき。
 うつろに紅潮した彼女の表情が、豹変した。
 絹を裂くような悲鳴を上げ、覆い被さる私の身体を、乱暴に押し退ける。
「どう、しましたか」
 音声は呆然としてたずねたものだったが、私の表情は、喜びに打ち震えていた。
 悲痛な叫びで、泣き伏すカイズ。
 彼女は私の、赤色に転じた瞳を見たのだろう。
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