俺の基準で顔が好き。

椿英-syun_ei-

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意外な素顔

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「そういえばさ、何を食うか決めてあるか?」
  駅前に向かう道すがら、俺は竹内に聞いた。また難しい顔をして考え込んでいるので助け船を出してやる。
「何でもいいぜ?親に事情話したら店の手伝いで小遣いもらえたからよ。ラーメンとかどうだ?」
 ラーメン、という言葉を出した瞬間、竹内がキッと俺を睨み付ける。
「やっぱお前そういうのあんま食わないのか?」
「行く。」
 顔を見てなければ聞き逃してしまいそうな程の早口で竹内が言った。
「なんだ、ラーメン好きなのか。」
「ラーメン食べると皆ガッカリするから行ったことない。」
「ないのか…。」
と反芻してから俺はその顔を二度見する。
「え、行ったことないって。ラーメン、食べたことねぇの!?」
 バカにされたと感じたのか恥じ入るように竹内が横を向いた。
「いや、悪いとかじゃないんだけどよ。まさか高校になっても行ったことない奴がいると思わなかったから。」
 うわっ、墓穴だと思いながらもそのまま感じたことを伝えた。竹内が言った。
「いつもクラスメイトがたくさんいるから小さい店には入れないんだ。なぜか皆俺がパスタとかパンケーキとかタピオカばっかり食べてると思ってるらしくて。」
「なるほどなぁ。それはヤバいな。」
 合点がいきすぎて感嘆の溜め息が漏れた。
「じゃあ今日が初ラーメンだな。旨いとこ連れてってやるよ。どんなの食べたい?」
 絶対に良い思い出にしてやろうと思い、笑顔で問い返すと竹内が赤くなる。世間知らずな王子様と遊ぶというのはこんな感じなんだろうか。少し考えて竹内が言った。
「魚介豚骨?こってり太麺?そういう店があるって聞いたことがある。」
「あそこか!任せろ。」
 勢い込んで答える。俺が連れていきたいと思った第一候補もそこだった。通常サイズがすでに他店の大盛ぐらいあって値段も手頃だから俺達運動部の間では人気の店だった。
「だが、混んでるんじゃないか?」
「大丈夫。学校帰りの奴は帰ってるだろうし、運動部連中が来るにはまだ早い。行こうぜ。」
 そうと決まれば話は早いとばかりに駆け足で商店街に向かう。メインの通りから1つ奥にある道を進むと例のラーメン店がある。到着した時には俺は少し息切れしてるぐらいだったが、もう歩けないとばかりに竹内は疲弊していた。
「平気か?」
 両ひざに手を置いて息をしている竹内が頷いた。
「悪いな。中は涼しいからさ、入ろうぜ。」
「分かった。」
 思った通り店内はまだガラガラだった。カウンターではなく、奥にあるテーブル席に座る。ここなら知り合いが入ってきても目立たないはずだ。
「おじさん、魚介豚骨のチャーシュー2つ。」
「メニューは見ないのか?」
「壁に掛かってるので全部だからな。あとはサイドメニューか。頼みたいのあれば今のうちだぞ。」
「いや、別にいい。」
 竹内と出会ってから怒ってるか落ち込んでる顔しか見たことがなかったが、座席に着いた竹内は背筋をピンと伸ばし、目をキラキラとさせて店内を眺めていた。
「本当に初めてなんだな。」
 おしぼりや水を手渡してやりながら言った。
「ああ、すごく食欲をそそる匂いだな。」
「だろ?でも実物が来たらもっと食欲が刺激されるぞ。」
 そんな話をしているとラーメンが2つ運ばれてきた。
 両手をテーブルの下に置いて大人しく待っていた竹内が前に乗り出してラーメンを覗き込む。
 俺のことなんか忘れてるみたいだったからスマホを取り出してその様子を写真に納める。シャッターが切られる音に気付いて竹内が顔を上げる。 俺は手に持ったスマホを見せて提案する。
「記念撮影するか?」
 竹内が頷いたのでインカメにして手を伸ばす。
「はい、チーズ。」
  画面のチェックをすると綺麗な顔をしてるのに引きつった笑みを浮かべる竹内が写っていた。
「いや、緊張しすぎかよ。ピースとかしろって。膝に手を置いたままとかお坊っちゃんか。」
 ひとしきりツッコむと竹内がケタケタと声を出して笑った。
「お、いいじゃん。その顔で撮ろうぜ。」
 俺がピースしてみせると、竹内も右手を出してピースをした。 
「はい、チーズ。」
 さっきよりもずっと自然な表情で竹内が笑っていた。俺は満足してスマホを竹内に差し出した。
「写真、送るからさ、BINEやってるか?」
「一応。」
「おっし、QRコード出すからお前が読み込め。」
「ど、どうやるんだ。」
「いや、だから世間知らずすぎるだろ。」
「しょうがないだろう。やったことないんだから。」
 俺がわざとらしく深い溜め息を吐くと、竹内がまた笑った。なんとなく、俺たちは友達になったのだと思った。
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