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水曜日、交差する
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「遅せーなー。」
プールへと続く扉の前に座り、俺は退屈になって大きく伸びをした。もう終業ベルが鳴ってから三十分が経つというのに一向に現れる気配はなかった。
「本当に水曜日なのか。聞き間違えてないよな。」
野次馬根性丸出しで校舎側をちらちらと見ている中西が言った。中西は俺の隣には座らず、いつでも退散できるよう道を挟んだ校舎側に座っている。中庭と正門の間にグラウンドに続く道があり、その道中の真ん中に屋外プールが設置されている。俺達がいる場所はパソコン室や実験室、職員室等があるだけの西棟側にあるせいか、生徒はほとんど寄りつかない。
その辺に落ちている小石とも言えないような石を拾い上げ、中西の方に投げる。
「お前がいるから来ないとかじゃないよな。あいつ、この前は取り巻きから逃げてたっぽいし。」
「竹内と話した時は俺達二人で居たじゃん。別に変わんねーんじゃね?」
「お前、一回目も二回目も直接話してないだろ。モブのことなんか覚えてると思うか?」
「うっわ、ひでぇ。」
そう言って中西が近くにあった小石を俺に投げてくる。痛ってぇな、と言って俺も石を投げ返すとそのままラリーになった。いつの間にかスクールバックを置いて生け垣や他の障害物に隠れて銃撃戦をしているかのような状況になった。
しばらく激しい攻防戦が続いた後、小休憩のつもりで木の陰に隠れた。中西も疲れたのか追撃をして来ない。ふと、プールの前辺りに人陰が見えた。
「上条、いないのか?」
竹内が人を呼び出したことがないのかと思うほど張りのない声で俺の名前を呼んでいる。それも何回も呼び出さず、一度呼んだだけだった。
走り回って上がってしまった息を整え、服に付いた葉っぱや枝を取っていると、竹内が踵を返して帰ろうとしていた。
俺は慌てて竹内を呼び止める。
「待てよ。」
小走りに竹内に近付いていく。振り向いた顔がやけにしみったれていて、気まずさも相まってつい口元に笑みを浮かべてしまう。だが、見る者に罪悪感を感じさせるような切なげな顔も一瞬のことで、無表情に近い仏頂面でこちらを見ていた。俺は言い訳をするように口を開いた。
「帰んなよ。バックがあるんだから俺がいることぐらい分かるだろ。」
竹内が俺のすぐ背後にあったスクールバックを見、その後、道を挟んだ反対側にあった別のバックに視線を移す。
「二つあったから、他の誰かが遊んでるんだと思って。」
「ああ、そっか。」
ふと、性懲りもなく、竹内の死角になる生け垣の影から中西が覗き込んでいた。
「中西、出て来いよ。もう帰ろうぜ。」
ちょうどいいと思い、中西を呼ぶ。さながら喧嘩番長の前に呼び出されたもやし学生のごとくヘコヘコとお辞儀をしながら俺と竹内の前に現れる。
「竹内、でいいか?こいつ、中西って言うんだ。」
竹内と中西が浅く会釈する。心なしか竹内は不服そうな顔をしていた。
「今日は三人でもいいか?どうせ帰り道同じだしよ。」
「いや、良いって。俺は先に帰るよ。」
「なんでだよ。別に良いだろ。」
「俺、見たいテレビがあんだよ。だから帰るわ。」
呼び止める暇もなく、中西は自分のバックを背負い走り去ってしまった。
「なんだ、あいつ。」
「やっぱり不服か。」
驚いて竹内の顔を見る。毅然として見せているが、なんとなく唇を噛んでいるように見える。
もしかしてこいつ、友達がいないのか?と思った。いつも取り巻きばかり周りにいるから、周囲から浮いてるんだろう。もしかしたら俺が気安く話しかけたから友達になれるんじゃないかと思ってプールサイドに来たのかもしれない。
それなら急に俺に飯を奢れと言ってきたことも、チャラでいいか聞いた時に言い淀んでいたことにも説明がつく。
とりあえず俺はなるべく安心させようと竹内に笑いかけた。
「あいつが変な気を回しすぎなんだよ。今度また紹介するから仲良くしてやってくれ。」
逡巡のような間があり竹内が頷く。
「分かった。」
こいつ、不器用なだけで案外良いやつなのかもしれない。そんなことを思いながら竹内と駅前の商店街へと向かった。
プールへと続く扉の前に座り、俺は退屈になって大きく伸びをした。もう終業ベルが鳴ってから三十分が経つというのに一向に現れる気配はなかった。
「本当に水曜日なのか。聞き間違えてないよな。」
野次馬根性丸出しで校舎側をちらちらと見ている中西が言った。中西は俺の隣には座らず、いつでも退散できるよう道を挟んだ校舎側に座っている。中庭と正門の間にグラウンドに続く道があり、その道中の真ん中に屋外プールが設置されている。俺達がいる場所はパソコン室や実験室、職員室等があるだけの西棟側にあるせいか、生徒はほとんど寄りつかない。
その辺に落ちている小石とも言えないような石を拾い上げ、中西の方に投げる。
「お前がいるから来ないとかじゃないよな。あいつ、この前は取り巻きから逃げてたっぽいし。」
「竹内と話した時は俺達二人で居たじゃん。別に変わんねーんじゃね?」
「お前、一回目も二回目も直接話してないだろ。モブのことなんか覚えてると思うか?」
「うっわ、ひでぇ。」
そう言って中西が近くにあった小石を俺に投げてくる。痛ってぇな、と言って俺も石を投げ返すとそのままラリーになった。いつの間にかスクールバックを置いて生け垣や他の障害物に隠れて銃撃戦をしているかのような状況になった。
しばらく激しい攻防戦が続いた後、小休憩のつもりで木の陰に隠れた。中西も疲れたのか追撃をして来ない。ふと、プールの前辺りに人陰が見えた。
「上条、いないのか?」
竹内が人を呼び出したことがないのかと思うほど張りのない声で俺の名前を呼んでいる。それも何回も呼び出さず、一度呼んだだけだった。
走り回って上がってしまった息を整え、服に付いた葉っぱや枝を取っていると、竹内が踵を返して帰ろうとしていた。
俺は慌てて竹内を呼び止める。
「待てよ。」
小走りに竹内に近付いていく。振り向いた顔がやけにしみったれていて、気まずさも相まってつい口元に笑みを浮かべてしまう。だが、見る者に罪悪感を感じさせるような切なげな顔も一瞬のことで、無表情に近い仏頂面でこちらを見ていた。俺は言い訳をするように口を開いた。
「帰んなよ。バックがあるんだから俺がいることぐらい分かるだろ。」
竹内が俺のすぐ背後にあったスクールバックを見、その後、道を挟んだ反対側にあった別のバックに視線を移す。
「二つあったから、他の誰かが遊んでるんだと思って。」
「ああ、そっか。」
ふと、性懲りもなく、竹内の死角になる生け垣の影から中西が覗き込んでいた。
「中西、出て来いよ。もう帰ろうぜ。」
ちょうどいいと思い、中西を呼ぶ。さながら喧嘩番長の前に呼び出されたもやし学生のごとくヘコヘコとお辞儀をしながら俺と竹内の前に現れる。
「竹内、でいいか?こいつ、中西って言うんだ。」
竹内と中西が浅く会釈する。心なしか竹内は不服そうな顔をしていた。
「今日は三人でもいいか?どうせ帰り道同じだしよ。」
「いや、良いって。俺は先に帰るよ。」
「なんでだよ。別に良いだろ。」
「俺、見たいテレビがあんだよ。だから帰るわ。」
呼び止める暇もなく、中西は自分のバックを背負い走り去ってしまった。
「なんだ、あいつ。」
「やっぱり不服か。」
驚いて竹内の顔を見る。毅然として見せているが、なんとなく唇を噛んでいるように見える。
もしかしてこいつ、友達がいないのか?と思った。いつも取り巻きばかり周りにいるから、周囲から浮いてるんだろう。もしかしたら俺が気安く話しかけたから友達になれるんじゃないかと思ってプールサイドに来たのかもしれない。
それなら急に俺に飯を奢れと言ってきたことも、チャラでいいか聞いた時に言い淀んでいたことにも説明がつく。
とりあえず俺はなるべく安心させようと竹内に笑いかけた。
「あいつが変な気を回しすぎなんだよ。今度また紹介するから仲良くしてやってくれ。」
逡巡のような間があり竹内が頷く。
「分かった。」
こいつ、不器用なだけで案外良いやつなのかもしれない。そんなことを思いながら竹内と駅前の商店街へと向かった。
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