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第一部
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「あれ? 成瀬さんだよね?」
ドアで死角になっている場所から、男性のイケボが聴こえてきた。
唯香は、声の主の方へ視線を向け、思わず小躍りしそうになった。そこに居たのは、唯香が密かに想いを寄せている、統括営業部 国際営業課の岡崎遼だったからだ。百八十センチは優に超える長身、黒髪の短髪は営業マンらしくビシッと整えられており、自信に満ちたオーラが彼の端正な顔立ちを更に際立たせていた。
「岡崎さん! お疲れ様です! 今お昼ですか?」
唯香の顔が自然とほころんだ。
「そうなんだよ。実は、俺の部下がちょっとやらかしちゃって……やっと一段落したところ。成瀬さんは?」
そう言って、岡崎さんは、ため息に煙草の煙を乗せて吐き出した。紫色のけむり玉の中に、岡崎さんの体内の“毒”が混じっているみたいに見えた。
「実は、私もそうなんです。うちの課の小川美希ってご存じですか? 彼女、四月から育児休暇明けで職場復帰したんですけど……ちょっと欠勤が多くて。お子さんが熱を出したとかで今週は一日も出勤してないんですよ。小さなお子さんを抱えながらお仕事をするっていうことは大変なことで致し方ないことだとは思っているんですけど、小川さんが担当している仕事の問い合わせやクレームがすべて私にきてしまうので、困ってるんですよね。引継ぎされてない仕事のことは私にもわかりませんから。そのうえ、彼女、欠勤の日、絶対職場からの電話に出ないんですよ」
唯香は、岡崎さんに悪い印象を与えないように、せり上がってくる憤りをできる限り抑制しながら穏やかな口調で話した。
「ああ! 小川さんねえ……そりゃ大変だろうねえ……彼女、うちの課ではちょっとした有名人だよ」
「そうなんですか? そのお話、詳しく聞きたいです!」
「いいけど、俺が喋ったとか絶対言わないでよ? ふたりだけの秘密ね」
岡崎さんは、唯香の顔をじっと見つめながら、右手の人差し指を彼の唇の中心に押し当てて言った。
「わかりました! ふたりだけの秘密ってことで」
唯香は、『ふたりだけの秘密』という言葉にめっぽう弱い。この禁断の言の葉が、気になる男性の口から紡ぎ出されたものだと思うだけで、身体が熱を帯びてきた。
ドアで死角になっている場所から、男性のイケボが聴こえてきた。
唯香は、声の主の方へ視線を向け、思わず小躍りしそうになった。そこに居たのは、唯香が密かに想いを寄せている、統括営業部 国際営業課の岡崎遼だったからだ。百八十センチは優に超える長身、黒髪の短髪は営業マンらしくビシッと整えられており、自信に満ちたオーラが彼の端正な顔立ちを更に際立たせていた。
「岡崎さん! お疲れ様です! 今お昼ですか?」
唯香の顔が自然とほころんだ。
「そうなんだよ。実は、俺の部下がちょっとやらかしちゃって……やっと一段落したところ。成瀬さんは?」
そう言って、岡崎さんは、ため息に煙草の煙を乗せて吐き出した。紫色のけむり玉の中に、岡崎さんの体内の“毒”が混じっているみたいに見えた。
「実は、私もそうなんです。うちの課の小川美希ってご存じですか? 彼女、四月から育児休暇明けで職場復帰したんですけど……ちょっと欠勤が多くて。お子さんが熱を出したとかで今週は一日も出勤してないんですよ。小さなお子さんを抱えながらお仕事をするっていうことは大変なことで致し方ないことだとは思っているんですけど、小川さんが担当している仕事の問い合わせやクレームがすべて私にきてしまうので、困ってるんですよね。引継ぎされてない仕事のことは私にもわかりませんから。そのうえ、彼女、欠勤の日、絶対職場からの電話に出ないんですよ」
唯香は、岡崎さんに悪い印象を与えないように、せり上がってくる憤りをできる限り抑制しながら穏やかな口調で話した。
「ああ! 小川さんねえ……そりゃ大変だろうねえ……彼女、うちの課ではちょっとした有名人だよ」
「そうなんですか? そのお話、詳しく聞きたいです!」
「いいけど、俺が喋ったとか絶対言わないでよ? ふたりだけの秘密ね」
岡崎さんは、唯香の顔をじっと見つめながら、右手の人差し指を彼の唇の中心に押し当てて言った。
「わかりました! ふたりだけの秘密ってことで」
唯香は、『ふたりだけの秘密』という言葉にめっぽう弱い。この禁断の言の葉が、気になる男性の口から紡ぎ出されたものだと思うだけで、身体が熱を帯びてきた。
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