成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第二部

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 長身の唯香と高部のふたりが肩を並べて歩く様はそれだけで迫力満点で、すれ違う社員たちは、何事か? という目で、ふたりの様子を窺っていた。

 第三会議室の中からは、他人の陰口を叩いているとき特有の下卑た嗤い声が聴こえてきた。唯香が躊躇なくドアを開けて中に入り山崎と一条の背後から、

「わあっ! 楽しそうねえ! ねえ、何の話で盛り上がっているの? 私も混ぜてよー」
 と囁くと、意表を突かれた山崎と一条が椅子から転げ落ちた。

「な……なんで、アンタがここに来るのよ?」

 スカートについた埃を払いながら、山崎がヒステリックなキンキン声で言った。

「あら? 国際営業課の一条さんが御一緒して良くて、第一営業課の私が出禁なんておかしくないかしら? それとも、何? 私がここに居ると困るような話で盛り上がっているわけ?」
 
 唯香が啖呵を切ると、山崎のギラついた視線は高部へと向かった。

「高部さん、私たちを裏切って、この女に寝返ったの?」

「裏切るも何も、もともと、アンタの取り巻きになった覚えはないんですけどー。いい歳して、群れて陰口叩いて小中学生みたい。そういうの恥ずかしくないんですかー?」

 普段はおとなしい高部だが、こういう人こそ怒らせてはいけないのだと唯香は思った。

「ちょっと、落ち着いてよ、洋子。こっちには証拠写真だってあるんだからさあ」

 大学時代からのトレードマークだった長い黒髪をかきあげながら一条が言った。

「アンタ、岡崎さんと付き合っているくせに、まだ佐山さやまタケルと繋がっているわけ? この写真見たら、岡崎さん、怒って婚約解消しちゃうかもねえ」

 一条の右の口角が上がって、底意地の悪さが漏れていた。

「ああ、その写真ね。拡散したけりゃすればいいけど、そうしたら『高田洋子たかだ ようこ』さん。あなたの秘密もぜーんぶばら撒くから、覚悟しててね」

 そう言うと、山崎の顔がみるみるうちに蒼褪めた。暫しの沈黙が会議室に流れた。山崎の取り巻きたちは箸やフォークを持つ手を止め、山崎の方を不安そうにみつめていた。

「……いったい、何を企んでいるの?」
 
 山崎が声帯を振り絞って発した声は、少し震えていた。

「企む? 人聞きが悪いこと言うのね。私の何が気に入らないのかは知らないけど、私のことを蹴落とそうと企んでいるのは、あなたの方でしょう?」

「……」

「私からの要求はひとつだけ。あなたと私、二人きりで話をしましょう。詳細はまた後程決めましょう! それじゃ、おじゃましましたー!」

 そう言って、唯香と高部は、颯爽と会議室を出て行った。
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