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第三部
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サイン会やら、関係者、アーティスト仲間たちとの対応で大忙しの紀伊せいらと唯香たちが話ができたのは終演後二時間以上経ってからだった。
彼女の楽屋では、彼女のご家族、つまり、大手音楽教室『紀伊ミュージックサロン』の最高責任者であるタケルの義父と義母と二人の女児が紀伊せいらを待っているとのことなので、タケルは楽屋に入ることができず、唯香たちは予約しておいた『スピカホール』の近くにあるイタリアンリストランテの個室で先に打ち上げを始めていると紀伊せいらにLINEして店へと向かった。
白を基調とした店内奥の完全個室に案内された唯香たちは、オーク材の座り心地の良い椅子に腰掛けると、安堵のため息を漏らした。
「おつかれー! 紀伊せいら嬢のピアノリサイタル大成功を祝してかんぱーい!」
栞が乾杯の音頭をとり、三人は各々のビールグラスを合わせた。チリンという涼しげな
音が個室に響いた。
「唯香ちゃんも、栞ちゃんも、今日は来てくれてありがとね」
タケルがニコニコしながら言うと、栞が、
「アンタねっ! 私、アンタが唯香にしたことを赦したわけじゃないからねっ!」
と言って、琥珀色のビールを一気に飲み干した。
「わ……忘れたわけじゃないんだよ、あのこと……本当、ごめんね」
栞に睨みつけられたタケルは、完全に栞の圧に屈している様子だった。
「まあ、まあ……栞、そろそろ、こいつを許してあげてよ。時効ってことで」
場が凍り付くのを感じた唯香は、栞を宥めるように言った。
「そもそもね、唯香、アンタもお人好し過ぎるのよっ! あれだけ、もうタケルとは関わるなっ! って言ったのに、ずるずる会ってたなんて!」
栞には、タケルとは、たまに電話で話すだけで会っていないと嘘を吐いていたのだが、山崎洋子との件を栞と、栞の彼氏の和樹くんに相談したことから、嘘を吐いていたことがバレてしまったのだ。
彼女の楽屋では、彼女のご家族、つまり、大手音楽教室『紀伊ミュージックサロン』の最高責任者であるタケルの義父と義母と二人の女児が紀伊せいらを待っているとのことなので、タケルは楽屋に入ることができず、唯香たちは予約しておいた『スピカホール』の近くにあるイタリアンリストランテの個室で先に打ち上げを始めていると紀伊せいらにLINEして店へと向かった。
白を基調とした店内奥の完全個室に案内された唯香たちは、オーク材の座り心地の良い椅子に腰掛けると、安堵のため息を漏らした。
「おつかれー! 紀伊せいら嬢のピアノリサイタル大成功を祝してかんぱーい!」
栞が乾杯の音頭をとり、三人は各々のビールグラスを合わせた。チリンという涼しげな
音が個室に響いた。
「唯香ちゃんも、栞ちゃんも、今日は来てくれてありがとね」
タケルがニコニコしながら言うと、栞が、
「アンタねっ! 私、アンタが唯香にしたことを赦したわけじゃないからねっ!」
と言って、琥珀色のビールを一気に飲み干した。
「わ……忘れたわけじゃないんだよ、あのこと……本当、ごめんね」
栞に睨みつけられたタケルは、完全に栞の圧に屈している様子だった。
「まあ、まあ……栞、そろそろ、こいつを許してあげてよ。時効ってことで」
場が凍り付くのを感じた唯香は、栞を宥めるように言った。
「そもそもね、唯香、アンタもお人好し過ぎるのよっ! あれだけ、もうタケルとは関わるなっ! って言ったのに、ずるずる会ってたなんて!」
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