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第三部
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「はい、私がやりました。私が犯人です!」
出会って、3分で、片山理花は、あっけらかんと犯行を認めた。万が一にも知り合いに出くわさないように、ネットカフェを十倍くらいラグジュアリーにしたような個室が売りのカフェを会合場所に選んだのだが、どうやら、その必要はなかったようだ。
唯香が、テーブルの上に置いた“R.K”の透かし文字イニシャル入りの薄黄色の封筒と分厚い脅迫状を見た片山理花は、気味の悪い微笑を浮かべて言い放った。
「えっ? はっ? ふぁっ? あのう……私の記憶違いでなければ、片山さんと私は初対面だと思うんですけど、どこかでお会いしたことありましたっけ? 私、面識のない方から、こんな気味の悪い“脅迫状”を毎日毎日ネチネチと頂戴するような悪事を働きましたっけ?」
「はい。こうして、面と向かってお会いするのは初めてだと思いますよ。まあ、“社内”ですれ違ったことくらいはあるかもしれませんが。それに、特に、成瀬さんに何かをされたことはありませんよ」
片山理花は、アイスティーを飲みながら答えた。まるで罪の意識のない彼女の様子に、今にも、栞が飛び掛かっていきそうなのを察知したタケルが、口をつけていない苺のタルトを向かい側に座っている栞の前に、つと差し出した。こういった気遣いができるのが、タケルが女にモテる理由のひとつであることは、唯香は誰よりも良く知っていた。
「“社内”ってどういうことです?」
と唯香。
「“社内”って言ったら、そりゃあ、同じ会社の建物の中ってことですよ」
片山は、小ばかにしたように答えた。
「言葉の意味を訊いてるんじゃないんですよっ! それは、あなたが、『八角重工業』の社員なのかクライアントなのか業者なのか、兎に角『八角重工業』にどういう関わりを持つ人間なのかを訊いてるんですよっ!」
今度は、唯香の方に、タケルがチーズケーキを、つと差し出した。
「うーん……惜しいっ! 大体正解っ!」
片山理花は、きれいに内巻きにセットした栗色のボブヘアの毛先をくるくると弄びながら言った。
「何それ? あんた、私のことバカにしてるの?」
タケルがチョコレートケーキを唯香の前に差し出した。
「いいえー。少しバカだとは思ってますけど、バカにはしてませんよー。だって、成瀬さんたちって、たかが“柊花大学”卒なんでしょう?」
片山理花の言葉に、唯香と栞とタケルが一斉に立ち上がり、
「ふざけんなっ! 柊花は私立の最難関大学じゃー!」
と、叫んだ。
出会って、3分で、片山理花は、あっけらかんと犯行を認めた。万が一にも知り合いに出くわさないように、ネットカフェを十倍くらいラグジュアリーにしたような個室が売りのカフェを会合場所に選んだのだが、どうやら、その必要はなかったようだ。
唯香が、テーブルの上に置いた“R.K”の透かし文字イニシャル入りの薄黄色の封筒と分厚い脅迫状を見た片山理花は、気味の悪い微笑を浮かべて言い放った。
「えっ? はっ? ふぁっ? あのう……私の記憶違いでなければ、片山さんと私は初対面だと思うんですけど、どこかでお会いしたことありましたっけ? 私、面識のない方から、こんな気味の悪い“脅迫状”を毎日毎日ネチネチと頂戴するような悪事を働きましたっけ?」
「はい。こうして、面と向かってお会いするのは初めてだと思いますよ。まあ、“社内”ですれ違ったことくらいはあるかもしれませんが。それに、特に、成瀬さんに何かをされたことはありませんよ」
片山理花は、アイスティーを飲みながら答えた。まるで罪の意識のない彼女の様子に、今にも、栞が飛び掛かっていきそうなのを察知したタケルが、口をつけていない苺のタルトを向かい側に座っている栞の前に、つと差し出した。こういった気遣いができるのが、タケルが女にモテる理由のひとつであることは、唯香は誰よりも良く知っていた。
「“社内”ってどういうことです?」
と唯香。
「“社内”って言ったら、そりゃあ、同じ会社の建物の中ってことですよ」
片山は、小ばかにしたように答えた。
「言葉の意味を訊いてるんじゃないんですよっ! それは、あなたが、『八角重工業』の社員なのかクライアントなのか業者なのか、兎に角『八角重工業』にどういう関わりを持つ人間なのかを訊いてるんですよっ!」
今度は、唯香の方に、タケルがチーズケーキを、つと差し出した。
「うーん……惜しいっ! 大体正解っ!」
片山理花は、きれいに内巻きにセットした栗色のボブヘアの毛先をくるくると弄びながら言った。
「何それ? あんた、私のことバカにしてるの?」
タケルがチョコレートケーキを唯香の前に差し出した。
「いいえー。少しバカだとは思ってますけど、バカにはしてませんよー。だって、成瀬さんたちって、たかが“柊花大学”卒なんでしょう?」
片山理花の言葉に、唯香と栞とタケルが一斉に立ち上がり、
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と、叫んだ。
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