成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第三部

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「えーっ! まじでっ? なんでそれ先に言わないのよー? おめでとー!」

 やんややんやと騒ぐ三人の後方から咳払いが聴こえてきた。三人はお互いの顔を見合わせて「あとで、話そ」と口パクで確認を取り合ってお喋りを打ち切った。しん、と静まり返ったチャペルのドアが開くと同時にチャペル内に光が差し込み、俗世に染まった薄汚い心を浄化してくれるようなオルガンの音が流れるのと同時に、金色の髪をした外国人牧師と新郎・岡崎遼が入場した。美しい音色に浄化されたゲストたちは皆、まるで聖母マリアのような、あたたかい微笑みを湛えていた。祭壇前で美しい新婦を待つ新郎とゲストたちが今か今かと待ちわびる中、母による“ペールダウン”の儀式を終えた新婦・唯香が父と腕を組み姿を現した。

 ロイヤルブルーのバージンロードを一歩一歩踏み出すたびに、両サイドのキャンドルに灯りがともる。祭壇まで敷かれた長いバージンロードは一人娘である唯香と父と母のこれまでの人生のようであり、祭壇は人生の分岐点のようであった。純白のウエディングドレスを纏った美しい新婦の姿をいつでも思い出すことができるように、ゲストたちは、芸能人の記者会見さながらの熱量でもって、カメラやスマホを向けた。新婦のあまりの美しさにチャペル内からは、此処彼処から、わあっとか、ほおっとか歓声があがった。祭壇に辿り着いた唯香と父。父が、娘の白魚のような手を名残惜しそうに新郎に渡しながら、「娘を頼みます」と小声で言ったのを唯香は聞き逃さなかった。讃美歌斉唱、牧師による聖書朗読……と、式は滞りなく進み、いよいよ、ふたりが永遠の愛を誓い合う場面となり、チャペル内のゲストたちのふたりに向ける視線がますます強くなった。

 金髪の牧師が、

「新郎 岡崎遼、あなたは、ここにいる新婦 成瀬唯香を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、夫として愛し、敬い、いつくしむことを誓いまあすか?」
 と、少しだけお国訛りのある日本語で新郎に向かって問い掛けてきた。

「はい。誓います」
 
 新郎が答えたその言葉には一切の迷いがなく、チャペル内に参列しているすべての老若男女が頼もしく感じたことだろう。続けて、牧師は、唯香の方に視線を傾け、

「新婦 成瀬唯香、あなたは、ここにいる新郎 岡崎遼を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いまあすか?」

 と、問い掛けてきた。
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