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第三幕 第一場1
しおりを挟む「クソッ! このヘボ台めっ!」
悠介は行きつけのパチンコ店「ソワレ」にて、今日も厳しい戦いを強いられていた。開店前から並び、昨夜目をつけていた人気の怪盗シリーズの新台の席を確保することに成功したまでは良いが、悠介の読みはまたしても外れた。1000回転した直後に待望の当たりがきたものの、まさかの単発に終わった。煙草を吸おうとソフトパッケージの中を漁ると中は空だった。悠介はくしゃりとパッケージを握り潰し、呼び出しボタンで店員を呼び、残りの玉で煙草を買った。ニコチン中毒の悠介が、やっとありつけた煙草に火を点し至福の一時に浸っていると、スマートフォンが待ち受け画面から着信画面へと変わった。画面に表示された発信者の名前を見た悠介は、吸いかけの煙草をそのまま灰皿に捨て置き、休憩室へと向かった。時計を見遣ると、間もなく昼飯時だった。女との話が済んだら食堂でメシを食べようと思った。
「どうした?」
悠介は開口一番気怠そうな声を放った。彼の声に覇気がないのはいつものことなので、女は構わず話を進めた。
「あの女、私の家に来るわよ。七月二十三日。『ミヤマさん』に例の件、至急お願いできる?」
今日は七月二十一日。あと一日半ほどで手配しなきゃならねえのか。正直厳しいと思ったが、彼女の申し出を断ることができない事情が悠介にはあった。うまいこと宮間さんと連絡が取れれば良いのだが、と悠介は心中で不安に駆られながらも、
「わかった。とりあえず、ガキの方だけ用意できればいいか?」
と訊いた。
「そうね。とりあえず、今回はそれでいいわ。旦那は海外出張中ってことにしておくから。あっ! でも、途中で『ミヤマさん』に私のスマホに連絡入れるように言ってもらえる? あの女、妙に勘が良いところあるし、私のこと警戒していると思うの。念のために、ね?」
「了解!」
女との通話を切った後、不安と昂奮がない交ぜになったような感情が悠介の中に沸き起こった。
「そうか。いよいよ始まるのか」
そう独り言ちながら、悠介は、店内の食堂に向かった。この店のメシは、下手な食堂よりもよっぽど美味い。彼は、食券販売機の前で「鶏マヨ丼」のボタンを押し、食券を馴染みのおばちゃんの前に出した。
「今日の調子はどうだい?」
自称元パチプロのおばちゃんが聞いてきた。
「今日もいつも通り、散々さ」
「そうかい。たまには景気のいい話が聞きたいもんだねえ」
そう言いながら、おばちゃんは、安っぽいトレイの上に鶏マヨ丼とみそ汁を置いて、
「はいよ、鶏マヨ丼、お待ちどうっ!」
と言いながら、食堂奥を指差し、次のお客さんの蕎麦を茹で始めた。まさに、渡りに船だった。悠介は、食堂奥の窓に面したカウンター席に座る男の横にトレイを置き、蕎麦を啜りながらスマホでパチンコの攻略法を食い入るようにして読んでいる男の肩をぽんっと叩いた。男はまったく悠介の気配に気付いていなかったようで、驚きで肩をぶるっと震わせた。
「ああ、びっくりした! 松永さんじゃないですか?」
蕎麦が器官に入ったらしく、男はゲホゲホと咳き込んだ。
「なんかわりぃ。こんなに驚かれるとは思わなくて」
悠介は、男にお冷を手渡した。
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