憂悶日和

喜島 塔

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 ノベルのごはんとお水を持って二階の自室へと戻る。ケージの中から、ノベルが私の方をじいっと見ている。ノベルを迎え入れてから二週間とちょっと。まだ、私とノベルとの間に信頼関係は築けていない。きっと、ノベルにとって私は、ごはんをくれる人、くらいの認識しかないのだろうと思う。ケージの扉を開けて、昨夜あげたごはんとお水を下げて、新しいものに替える。ノベルは嬉しそうにケージの外に飛び出し、伸びをした。
「少しは眠れたかい? あら、ごはん、ちゃんと食べたんだね、偉いぞ」
 と私は、ノベルを褒めながら撫でてあげる。ノベルは「ミャッ」とスタッカートみたいに短く鳴いて、部屋の散策を始める。のそのそと歩いていたかと思うと、急に、ものすごい速さで室内を走りまわったり、カーテンによじ登ったりするから、猫慣れしていない私は、飼い主に似て情緒不安定なんじゃないかと心配になってしまう。一頻り暴れた後で、お水を飲んだノベルは、いつ掃除したのか記憶にない薄汚れた窓の枠にちょこんと座って外の風景を眺めている。小さなノベルの目に外の世界はどのように映っているのだろうか? 猫が見ている色の世界は人間とは少し違うらしく、赤色の波長域を感じることは難しく、青色と黄色が強く見えているらしい。ということは、ノベルの目に映る夏空は青く、お日様の光は黄色に見えているのだろうか? だとしたら、私は、ノベルとほぼ同じ色の真夏の景色を見ていることになる。爽やかで自己主張が強い夏空を鬱陶しく思っている私だが、ノベルと共有していると思えば、少しは好きになるだろうか。暴れまくったノベルをケージに戻すと、疲れたのだろう。ノベルは、お気に入りのハンモックに器用に寝転がってすやすやと眠ってしまった。ケージの表側に顔を向けたり、後ろ足をこちらに向けたりして寝返りを打つ度にケージがゆらゆらと揺れる。なんとも平和な時間が流れる。猫はいい。猫には猫の社会があるのかもしれないが、金やら序列やら権力やらが存在しないだけでも、薄汚ねえ人間社会より、ずっと、ずっと、優しい。
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