憂悶日和

喜島 塔

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 私が通院しているメンタルクリニックは実家から少しばかり離れている。芸能人をはじめ、一般人も整形手術で綺麗になったことを堂々と言える世の中になったように、精神疾患に罹患していることをカミングアウトすることも珍しいことではなくなったけれども、昭和生まれの私にとっては、それなりの後ろ暗さがある。好きでこんな病気に罹ったわけじゃないんだし何も恥じることはないのだと必死に自分に言い聞かせるのだけれども、どうしても世間体が気になるのだ。それに、私自身が、私より重病な人たちを偏見の目で見ているのだから、健常者から見たら、私もそういう目で見られているってこと。心の病なんてのは、健常者からしたら理解しがたいもので、ただの我儘だろ? とか、誰だって、気分が沈むことはあるし気力がないときもあるって思われること間違いなし。だって、親でさえ、私の病気のことを理解していないし理解しようともしないのだから。内臓の病気なら、血液検査なりレントゲンなりCT検査なりの結果をお医者さんに見せられて「ほら、ここの数値が高いでしょう?」とか「ここに腫瘍ができているの、わかりますよね?」と言われれば、はい、そうですね、と言わざるを得ないし、周りの人たちも納得する。それに対して、心の病は視覚化できないから、理解されにくい。視覚化されたらいいのになと思う。ヘッドギアみたいな装置を被って、パシャリと撮影をする。お医者さんが、撮影したフィルムをシャウカステンにかけて、「ここのところをご覧ください。髑髏マークがあるのが見えますか?」と言う。こんな医療装置があったらいいのにね。そんなことを考えながら、私は、母が異常なまでに心配していた車出しに難なく成功し、ちゃっちい軽の車を走らせる。二年くらい前までは父親が乗っていた車だ。私専用の車もあったのだけれど、もらい事故でお釈迦になっちゃった。幸い、当て逃げではなく相手が任意保険に加入していたのは不幸中の幸いだったのだけれども、自分と相手、双方の自動車保険会社からの連絡が何度もきて、ただでさえ、抑うつ状態で言葉を発することが億劫だっていうのに、ああじゃねえ、こうじゃねえと面倒臭いことを言ってくるし、修理会社にも電話かけなきゃならねえし、廃車にしたところで、買った時の半分以下の金しか入ってこないしで、鬱が悪化。苛々苛々苛々苛々。こんちくしょうめ! こんな片田舎じゃあ、車の運転ができなきゃ、通院はおろか買い出しもままならねえ。嗚呼、都会はいい。車の運転なんてできなくても電車とバスで大概の場所には行くことができるのだから。それに、都会暮らしだと公共交通機関を利用するにしても、乗り換えやらなんやらで矢鱈と歩かなければならないから、通勤通学だけで足腰も鍛えられるしダイエットにもなる。一石二鳥だ。嗚呼、懐かしや、愛しの東京。そんなことを考えながら、私は車を操る。安全第一、安全第一。事故なんか起こしたら、それこそ大変だ。自分ひとりで押っぬなら一向にかまわないけれども、他人様を巻き込んだらそれこそ大変だ。相手に怪我させたり死なせたりしたら、愈々、首を吊らなきゃならない。怖いだのなんだの言っている場合じゃない。消えるが勝ち。
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