片翼を失ったピアニスト

喜島 塔

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第五章

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こうして、俺は、再び、祖母の家で世話になることになった。祖母の電話を切ったあと、着信履歴やら、メールやらLINEやらが相当な数になっていた。着信履歴は、主に、父と祖母と会社、メールは主に父と会社、LINEは主にスバルからだった。父からのメールには、母さんのことで大切な話があるから、このメールを読んだら至急連絡をください、という旨が書かれていた。大切な話とやらの内容は、およそ検討がついたので、しばらく放っておくことにした。会社からのメールの件名には「最後通告」とあり、再三の連絡を試みたが本人との連絡が取れなかったため、本メール送付後三日以内に、何らかの連絡が取れない場合は、懲戒解雇処分となることをご承知おきください、と書かれていた。そのメールが届いてから一週間以上経過している。重い足取りで、アパートのドアまで歩いて行くと、ドアの新聞受けには、新聞やら公共料金の請求書やら、建売マンションのチラシやら何やらが、センスの悪い生花のようにギュウギュウ詰めに差し込まれていた。その中に、会社からの『退職勧告書』が届いていた。速やかに『退職届』を提出すれば、自己都合による退職ということにしてくれたようだが、その期日はとっくに過ぎていたため、懲戒解雇という扱いになったようだ。元々、必要最低限の暮らしをするために就職した会社だ。なんの未練もない。俺は、その通知書をバラバラにちぎってゴミ箱に放り込んだ。
父から、母についての大切な話を聞かされたのは、ボロアパートを引き払い、再び祖母の家に引っ越してから数日経ってからだった。案の定、母は、泉の死を受け入れることができずに、精神状態が崩壊したとのことだ。東京都港区にある『卯左木総合病院うさぎそうごうびょういん』に入院しているからお見舞いに来てくれないか? とのことだった。どいつもこいつも調子が良いこと言いやがって! と思った。泉が生きていた時は、俺に電話の一本も寄越さなかったくせに、泉が居なくなった途端これだ! どうせ、泉と同じ顔をした俺が母に会いに行けば、病状が良くなるかもしれないと考えているに違いない。いかにもバカが考えそうなことだ。数日後、祖母から、
「明日、いつきのお見舞いに、東京に行くけど、舜くんはどうする?」
と訊かれた。俺は、逡巡した。母が精神を患って入院していることは知っているが、詳しい病状はきかされていない。泉と同じ姿形をした俺を見て、はたして、母は何を思うのか?
「なぜ、泉が死んだのに、あなたが生きているの? あなたが死ねば良かったのに!」
なんていう、テレビドラマのような残酷極まりない台詞を言われたら、今の俺には、その言葉に耐えうるだけの耐性がない。なにせ、俺自身が「うつ病」と「PTSD」の罹患者なのだから。返事に窮している俺を見兼ねて、祖母が話し出した。
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