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第七章
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現実世界へと引き戻された俺は、それが夢であったことに気付き安堵した。ハッとして
枕元に置いてある目覚まし時計で現在の時間を確認すると、時計の針は、四時十六分を指し示していた。泉や母が出てくる夢を見るのは久し振りのことだった。昨晩、母にそっくりな杉崎南加子に遭遇したことが影響しているのだろう。前半部分は、夢というよりは、フラッシュバックに近い鮮明な記憶だ。確か、俺と泉が幼稚園の年中組の頃にこんな会話をした記憶がある。
「あの頃は良かったよなあ……」
そう呟きながら、俺は起き上がり、寝室を出てキッチンへと向かった。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、渇いた喉を潤す。起床予定時刻まであと二時間半……メンタルクリニックで処方されている睡眠薬を飲もうかと思ったが、今飲んだら、確実に起きることができない。俺は、諦めてこのまま起きて朝を迎えることにした。寝不足のまま職場へたどり着き、開店の準備を一通り終えたところで、気が抜けたのか、一気に眠気と疲れが押し寄せてきた。頭痛と軽い目眩とで仕事に集中できない俺を見兼ねたのか、高嶺店長が、
「谷村くん、今日、午後から早退していいわよ」
と言った。
「いや、ちょっと、寝不足なだけで、そのうち調子上がってくるんで大丈夫ですよ」
と俺は、なけなしの気力を振り絞って答えた。
「これは店長命令よ。二十九日のシフト変更の件も無理にお願いしちゃったし……明日から谷村くん十連勤でしょ? 明日からのゴールデンウィークの準備も万全だし、今日はもう心配ないから、午後はゆっくり休んで! 谷村くんに倒れられたら困っちゃうのよ。だから、お願い!」
「そういうことでしたら、ありがたく、午後お休みいただきます!」
「ええ、明日からよろしくお願いするわね!」
十二時を少し過ぎたところで、俺は、スタッフに一通り挨拶をしてショップを後にした。セルリアンブルーの澄み切った空。平日のアウトレットモールは、絶好の散歩日和。チワワ、ミニチュアダックスフンド、トイプードル……
“愛されること”を使命として生まれてきたかのような可愛らしい犬たちが此処彼処でチロチロと覚束ない足取りで歩いている。
***
「ねえ、舜、この子、うちで飼いたい! お父さんとお母さんにお願いしようよ!」
近くのショッピングセンターに家族四人で行った時、父と母とはぐれてしまった俺たちは、ショッピングセンター内のペットショップにいた。可愛らしい犬や猫、うさぎやハムスターなどの小動物が水を飲んだり、お昼寝をしたり、おもちゃで遊んだりしていた。俺たちはその可愛らしい姿に夢中になり、迷子になってしまったことなどすっかり忘れてしまっていた。特に、俺たちが虜になったのは、黒と白のトライカラーのロングコートチワワで、両目の上にはチョコレート色の麿みたいな眉(タンマーキング)があるオスの人懐っこい子犬だった。チワワは、ケージに張り付いて魅入っている俺たちに近づいてきて、尻尾を振りながら、うるうるした瞳で「飼って、飼ってー!」とでも言いたそうな表情をして、くぅーん、と鳴いた。結局、手を怪我することに対し異常なまでに神経質であった母に、にべもなく断られて、その子犬を連れて帰ることはできなかったのだが……
***
枕元に置いてある目覚まし時計で現在の時間を確認すると、時計の針は、四時十六分を指し示していた。泉や母が出てくる夢を見るのは久し振りのことだった。昨晩、母にそっくりな杉崎南加子に遭遇したことが影響しているのだろう。前半部分は、夢というよりは、フラッシュバックに近い鮮明な記憶だ。確か、俺と泉が幼稚園の年中組の頃にこんな会話をした記憶がある。
「あの頃は良かったよなあ……」
そう呟きながら、俺は起き上がり、寝室を出てキッチンへと向かった。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、渇いた喉を潤す。起床予定時刻まであと二時間半……メンタルクリニックで処方されている睡眠薬を飲もうかと思ったが、今飲んだら、確実に起きることができない。俺は、諦めてこのまま起きて朝を迎えることにした。寝不足のまま職場へたどり着き、開店の準備を一通り終えたところで、気が抜けたのか、一気に眠気と疲れが押し寄せてきた。頭痛と軽い目眩とで仕事に集中できない俺を見兼ねたのか、高嶺店長が、
「谷村くん、今日、午後から早退していいわよ」
と言った。
「いや、ちょっと、寝不足なだけで、そのうち調子上がってくるんで大丈夫ですよ」
と俺は、なけなしの気力を振り絞って答えた。
「これは店長命令よ。二十九日のシフト変更の件も無理にお願いしちゃったし……明日から谷村くん十連勤でしょ? 明日からのゴールデンウィークの準備も万全だし、今日はもう心配ないから、午後はゆっくり休んで! 谷村くんに倒れられたら困っちゃうのよ。だから、お願い!」
「そういうことでしたら、ありがたく、午後お休みいただきます!」
「ええ、明日からよろしくお願いするわね!」
十二時を少し過ぎたところで、俺は、スタッフに一通り挨拶をしてショップを後にした。セルリアンブルーの澄み切った空。平日のアウトレットモールは、絶好の散歩日和。チワワ、ミニチュアダックスフンド、トイプードル……
“愛されること”を使命として生まれてきたかのような可愛らしい犬たちが此処彼処でチロチロと覚束ない足取りで歩いている。
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「ねえ、舜、この子、うちで飼いたい! お父さんとお母さんにお願いしようよ!」
近くのショッピングセンターに家族四人で行った時、父と母とはぐれてしまった俺たちは、ショッピングセンター内のペットショップにいた。可愛らしい犬や猫、うさぎやハムスターなどの小動物が水を飲んだり、お昼寝をしたり、おもちゃで遊んだりしていた。俺たちはその可愛らしい姿に夢中になり、迷子になってしまったことなどすっかり忘れてしまっていた。特に、俺たちが虜になったのは、黒と白のトライカラーのロングコートチワワで、両目の上にはチョコレート色の麿みたいな眉(タンマーキング)があるオスの人懐っこい子犬だった。チワワは、ケージに張り付いて魅入っている俺たちに近づいてきて、尻尾を振りながら、うるうるした瞳で「飼って、飼ってー!」とでも言いたそうな表情をして、くぅーん、と鳴いた。結局、手を怪我することに対し異常なまでに神経質であった母に、にべもなく断られて、その子犬を連れて帰ることはできなかったのだが……
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