片翼を失ったピアニスト

喜島 塔

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第七章

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 今朝見た夢といい、最近、頻繁に泉のことを思い出すと思ったら、もうすぐ、泉が死んで七年か……そんなことを考えながら、俺はアウトレットモール北側に位置する出入り口を目指して歩いていた。猫柳アウトレットモールのほぼ中央に位置するところにある噴水前を通り過ぎようとし、俺は、思わず足を止めた。セルリアンブルーの空には到底到達することができないということを知りながらも、何度も舞い上がっては散り、舞い上がっては散り……限られた命を謳歌するかのように、次々と規則的に空へと向かう噴水の水たちを見ながら、俺は、泉が『ヴィクトール国際ピアノコンクール』のセミファイナルで弾いたラヴェルの『水の戯れ』を思い出していた。そして、舞い踊る水たちの向こう側に、ゆらゆらと揺らめいて見える長い黒髪の女性。

(このまま、立ち止まらずに通り過ぎろ!)

 心の中の警鐘に抗うことができず、俺は、噴水の向こう側の女性の元へと歩を進めていた。

「顔色悪いですよ。大丈夫ですか? 杉崎さん」
 今時めずらしいガラケーの淡いピンク色の携帯電話を深刻な表情で凝視しながら深い溜息をついていた彼女は、頭上から降ってきた突然の言葉に驚き、恐る恐る俺の方へ顔を上げた。染色していない艶めく黒く長い髪を掻き上げながら、俺を認識した彼女は、眩しそうに目を細めながら、ニッコリと微笑んだ。
「あっ、お疲れ様です。あっ……いえ……なんでもないんです、大丈夫です」
「隣、座ってもいいですか?」
「えっ、はい、どうぞ……」
 噴水の縁に腰掛けていた彼女は、周りに人など居ないというのに、少し左に腰をずらした。
「何か悩んでいるように見えたもので、つい声を掛けてしまったのですが……貴重な休憩時間のお邪魔になるようでしたら、一服したら退散しますからご安心を!」
 そう言って、俺は、セブンスターを一本取り出して、静かに火を灯した。その様子を、何か懐かしそうな表情で見ていた彼女は、
「話、聞いて貰ってもいいですか?」
 と、俺に許可をとった。
「大丈夫ですよ。俺、今日は午後お休みを頂いているんです。杉崎さんの時間が許す限りお付き合いいたしますよ」
「ありがとうございます」
 そう言うと、彼女は、心のつかえを吐き出すかのように、一気に話し出した。
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