片翼を失ったピアニスト

喜島 塔

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第八章

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 南加子さんの話によると、愛美から、南加子さんに最後に連絡があったのは、犬飼第一高校の終業式の日。愛美は、かなり不機嫌な様子で、しばらく友達の池内恵理香いけうち えりかの家に泊まるから家には帰らない、と言ったそうだ。南加子さんが理由を訊いても、とにかく家には帰りたくない、の一点張り。一方的に電話を切られ、その後は着信拒否されていて連絡が取れないとのこと。一週間後、南加子さんは、愛美を連れ戻そうと、池内恵理香の家を訪ねたが、池内夫人の話によると、愛美が池内宅に居たのは三日間ほどで、娘の恵理香から池内夫人は「愛美は家に帰った」と聞かされて安心していたと言う。南加子さんと池内夫人が話をしている途中、帰宅した恵理香に訊いてみたところ、恵理香もはっきりとした居場所は知らないが、愛美が無事でいることは確かだと言う。一通りの経緯を聞いた俺は、一点解せないことがあった。

「経緯は良く解ったけど、ひとつ訊いてもいい?」
「いいわよ……」
「南加子さんの話だと……愛美ちゃんが、俺たちのことを知ってしまったから家に帰りたくないってことには必ずしもならないと思うんだけど……他の理由で帰りたくないのかもしれないし」
「あの子が終業式にかけてきた電話で、意味深なことを言っていたのよ……」
「なんて?」
「私があの子に『何があったの?』って訊いたら、あの子……」
 その後、言葉に詰まった南加子さんは、少しの間を置いて……やっと絞り出したようなか細い声で言った。
「あの子……『何かあったのはお母さんの方でしょう?』って言ったのよ……」
 俺は、動揺する南加子さんを宥めて、そして、俺も愛美を全力で探すと約束した。とは言ってみたものの、俺が知り得る限り、愛美の友達は、恵理香という子しか知らない。そこに居ないとなると、ネットカフェやカプセルホテルなどしか思い浮かばなかった。連日の暑さと六連勤の疲れで、俺は、すぐにでもクーラーのきいた部屋で横たわりたかった。家に着き、キンキンに冷房で冷やしたクラウンを降りると、ねっとりとした熱風が俺の身体に絡みついた。額からじっとりと粘着質な汗が流れ不快感を感じた。三階の角部屋が俺の部屋だ。築年数はそれなりに経っているものの、リノベーションされているために古臭さは感じられない。鉄筋コンクリート造りで丈夫だし、2LDKで5万円の家賃は田舎ならではの特権だ。強いて文句を言うならば、駐車場の凹みとエレベーターがないことだ。建物の中央にある階段を昇りきった所で俺の部屋の方に目を遣ると、薄暗い蛍光灯の下に人影が映し出された。踞っていた影は、俺の姿を認識すると、すっと立ち上がった。俺は、目を疑った。
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